第4話 開かずの教室

 学校から出た形跡がない。

 それでも居場所が解らない。

 車に乗せられて連れ去られた可能性もない。

 もちろん、学校のどこかに隠れていることもなかった。

 周囲に不審者の情報もなく、容疑者となる人物もなし。

「警察はあらゆる可能性を考え、全て検証していました。しかし、そのどれもあり得ないとなり」

「事件は神隠しと呼ばれるようになったというわけですか」

 由紀はふむと頷く。どうにも奇妙な事件だ。

「学校の七不思議に神隠しは出てこないなあ。あるとすれば、開かずの教室に入ってしまって二度と出られなくなった、かな」

 満はまだ七不思議のことを言っている。が、由紀はそれでパンっと音を立てて手を叩く。

「びっくりした。どうした?」

「そう言えば満さん。今から行く学校に開かずの教室があったって言ってましたね」

「そうそう。でも、健太先生が当時はなかったって」

「ああ。そうか。そうだった。スタジオになってからでしたね」

 神隠しを引き起こす要因があるかと思ったが、それは後付けだ。ひょっとしたら、この事件から開かずの教室を作ったら面白いと考えたのかもしれない。

「ずっとあの学校にいるのに、気づかなかったんですよねえ。それ、どこにあるんですか?」

 しかし、事件の相談を持ってきた健太が、ずっとこの開かずの教室に関して首を傾げているのが気になる。

「どこって、新館の二階の突き当りの部屋ですよ。音楽室とは反対側の」

 満は解りやすい場所にありましたよと、こちらもこちらで首を傾げている。どうにもちぐはぐな感じだ。

「現場を見てみないと解らない感じですね。で、七不思議と言えば残りは何ですか? 他に神隠しに繋がるようなものってないんですよね。まあ、十三階段に関しては、踏んだら死ぬって言われてますけど」

 健太に会う前に出会った幽霊の女子高生はてけてけを挙げていた。つまり、この事件は神隠しでもあるが七不思議も絡んでいそうだ。

「死に関連するとすれば、紫の鏡じゃないかな。あれはトイレにあったり階段の踊り場にあったりするって言われていて、見たら死ぬ、十三歳になるまでに忘れなければ死ぬ、もしくは鏡に閉じ込められるってものだな」

「紫の鏡」

 そんな不穏な物があってたまるかという内容だ。由紀はふうむと顎を摩る。

「よく考えると学校の怪談って七不思議以上にありますよねえ」

 すでに七個以上出てるのではと健太が指折り数えている。

「確かに妖怪関連も含めると学校の怪談は七個じゃないですね。ターボババアってのもありますし」

 ターボババアは高速で追い掛けてくる老婆の妖怪だ。確かに妖怪を合わせると、学校は怪談で溢れ返っている。

「学校ってのはある種の閉鎖空間ですからね。色んなものが出やすいんですよ」

 満は特殊な場所なんですよと嬉しそうだ。さすがは怪談師。

「閉鎖空間というのは納得ですね。人間関係も限られているし、空間的にも限られている。それでいて、小学校ならば六年間もその場で過ごすんですからね」

 由紀もその点は納得と頷く。

「学校の先生を長くやっていると、世間からずれるとも言われてますからね。それも特殊空間故ですかねえ」

 健太もなぜかしみじみとしている。

「そういえば、健太先生はどうして死んだんですか? 死因は覚えていますか?」

 死因に関してなかなか聞き出せない幽霊もいるが、健太は答えてくれそうだ。由紀が訊ねると

「死因は、いわゆる過労死ですね。学校って今、どこも人不足なんですよ。それなのに仕事は増えていく一方で。しかも、うちの学校は神隠し事件があった影響で、見回りや登下校時の注意なんかもあって」

 そう答えてくれた。それから深々と溜め息を吐く。

「気づいたら、あの学校にいたんですよね。疲れて家で眠っていたはずなのに。そこで、たぶん、死んだんですよね」

 健太は死んだその瞬間は覚えていないけどと付け加える。そのことを気にしているようで、ずんっと沈んだ空気になった。

「死の瞬間を覚えていないのは、幽霊としては普通っぽいですよ。まあ、今まで会った幽霊たちがそう証言しているだけですけど」

 だから、由紀はすぐにそう慰める。実際、幽霊は気づいたらその場所にいたと証言する。その場所はお気に入りの場所であったり生前よく言っていた場所だったり、心残りのある場所だったりと人それぞれだ。

「健太先生の場合は心残りで学校に現れたってことですね」

 由紀がそう告げたところで、問題の学校に到着していた。

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