この作品は「戦争によって踏み潰される側の物語」です。
タグに、ロボット、ミリタリーとありますが、バトル礼賛物ではありません。
英雄による、無双もモテもありません。
しっかりとした世界観の中で描かれる、生々しい人間の感情があります。
こう書くと誤解されるかもしれませんが、グロテスクな描写はありません。
極限までそういった描写を避けた清潔な文章から、消しきれない心と体の痛みが滲む⋯そういう作品だと思いました。
正直、冒頭の説明は少々とっつき難いと感じました。
その代わり、主人公視点となって物語が動き出すと、一気に引き込まれます。
特に、描写のコントラストがとても美しいと感じました。
闇と炎。
平穏と緊張。
知る者と知らない者。
展開される激しい戦いと、内面を覆っていく静かな絶望。
主人公が見ていた世界は反転し、善と悪が入れ替わったかのように見えますが、それにも疑問を覚える違和感が、そこかしこに散りばめられています。
敵は絶対的な悪にはなってくれないし、自分は絶対的な正義にはなれない。
人間同士で戦う事の恐ろしさが、容赦なく表されています。
長編に続く世界観で書かれているとの事で、短編としては贅沢なほど、重厚に作り込まれています。
しかし、ほとんどは匂わせ程度に留められ、ごく自然に物語が進んでいきます。
個人的に、主人公もとても魅力的だと思いました。
優秀で、生真面目で、情に厚い。
恐らくはそれ故に扱い易く、同時に煙たい存在で⋯この任務を命じられる事になったのだろうと。そう思わされます。
短編としてしっかり完結しているので、長編を読む時間がない方にも是非読んでみていただきたいです。