楽譜

BOA-ヴォア

光のそこで

うすい朝のにおいが、窓をくぐって落ちてきた。

かたちのない風が、机の上の紙をめくる。

おとをたてない部屋のなかで、

ぼくは、指のあいだからこぼれる息を、ひとつずつ数えている。


いくつ目の朝だろう。

えいえんという言葉が、もううまく思い出せない。

おなじ旋律が、机の奥でかすかに鳴っている。


うでを伸ばせば届く距離に、

こわれた時計と、弦の切れたギターがある。

おそらく、まだ世界は動いている。

けれど、ここでは止まったままだ。


えがおの形をしたままの写真。

うすれた文字の裏に、

おとが書かれていることに、誰も気づかない。


おおきく息を吸う。

ぼくは、最後の行に指を置く。

「もし、これを弾けるなら、どうか弾いてほしい。」

それが、ぼくの声の代わりだから。

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楽譜 BOA-ヴォア @demiaoto

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