【一万字短編】冒険者相談所はアナタの味方です

妄想垂れ流し源泉🏞

プロローグ

 誰にだって悩みはある。

 魔物と戦い、人々から英雄視される彼らにも、人知れず抱えた悩みがある。

 そんな者達に寄りい、支え、手を引く仕事。

 『冒険者相談所』と書かれた店の扉は、どんな時でも悩みある者を受け入れる。

 


† † †



「――—聞いてください店主さん!この前、彼氏が酒屋のおどり子と歩いてたんです‼これって浮気ですよね⁈」


「―—―聞いてください店主さん!来月の彼女の誕生日、どうすれば喜んでもらえる思います?」


「―—―聞いてください店主さん!―—―」

「―—―聞いてください店主さん!―—―」

「―—―聞いてください店主さん!―—―」


――聞いてください!――聞いてください!――聞いてください!――聞いてください!――聞いてください!――聞いてください!――



† † †



店主くん?」

[はい。ちゃんと聞いてますよ]


 街の中心地から離れた小さな店。

 『冒険者相談所』と書かれた看板かんばんは少し古く、店内も、何処どこか懐かしさの残る喫茶店のようだった。


 相談者用のソファに座っている女性は、コーヒーカップを片手に甘えた目をする。


「ちゃんと聞いてるなら相槌あいづちの一つでも打って下さい。無視されてると思いました」

[すみません。ここのところ相談者が多く、少し疲れがまっていたようです]

「お店、繁盛はんじょうしているようですね」

[そうですね。とても嬉しい事ですが。どうやら皆さん、ここを恋愛相談所と勘違いしているふしが有るようです]


 店主は店を始めた頃、冒険者の相談と言えば、冒険に関する事だと思っていた。

 しかし最近は恋愛に関する事ばかり。


 冒険者専門の店のつもりが、今では噂を聞いた一般人までも来ている。

 こうなると、『冒険者』の部分はカタチだけの存在だ。

 こういった話は専門外なのだが……


「大変そうですね。恋愛相談所」

[冒険者相談所、です]

「けど、そういう話ばかりなんですよね?」

[そうですね。皆さん大変そうです]

「君も大変そうですね。苦手でしょ?こういう話」

[いえ、苦手と言う訳では……。ただ、今まで恋人が居たことが無いので、自分のするアドバイスに自信が持てないんです]

「ふーん、彼女とかも居ないんですか?」

[彼氏もいませんね]

「ふーん」


 相談に来ていた女性は、どこか嬉しそうな表情を作って、店主の出したコーヒーに口をつける。

 

 "コトリ"


 空になったマグカップがテーブルに置かれる。

 

「なら試しに、お姉さんと付き合ってみます?」

[お断りします。客に手を出す訳にはいかないので]

堅物カタブツですね、店主くんは」

[よく言われます。さて……、そろそろ本題を聞きましょう。今日はどんな相談事ですか?]


 店主が聞くと。

 相談者の女性―――ギルドの受付嬢 は困り眉を作って話を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る