元悪の科学者ですがヒーローを生み出して組織を壊滅させようと思います
秋乃楓
第1話 未知との遭遇
- 科学は人を幸せにする。-
科学者である父が私にそう言って聞かせた事がある...でもそれは裏を返せば
その科学が誰かを不幸にするという意味でもある。
仕事熱心な父は家庭を顧みずに仕事に専念し家族サービスなんてモノはした事がない。帰って来ても数ヶ月に一度、或いはもっと少ないかの何方か。
家族で過ごした事なんかあまり覚えていないし思い出も無い。
ある日、そんな父に反発した私は家を飛び出して家出をしたのだが
当然上手く行かず...気が付けば私は悪の科学者として組織の一員となっていた。
よりにもよって父親と同じ職業なのが気に喰わないがそれでも私は決心した。
形や手段どうあれ父を超えてみせるとそう誓ったからだ。(誰かを傷付ける様な武器や兵器は極力作らなかった気がする。)
そして私は今…目の前で人生最大のピンチを迎えていた。
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「……今何と仰いました? 」
「聞こえなかったようだしもう1回言うよ?クビだよクビ…何度も言わせないでくれるかな? 」
誰も居ない大広間。
黒いベールに覆われた先から聞こえて来るのは
男とも女とも言えない様な声、そして言い渡されたのはクビという言葉。
つまりそれは組織から追い出されるという事を意味していた。
「お、おおお、お待ち下さいクロス様!!どうして私がクビなのですか!?この組織にずっと尽くして来た天才科学者なのですよ!?それをそんないとも簡単にクビだなんて!! 」
「…じゃあ聞くけど他者を殺傷出来ない兵器ばっか作って何になると思う? 」
「うぐッ…! 」
その言葉がグサッと胸に突き刺さった。
誰かを傷付ける…といってもケガをさせる程度でしかない。人を本気で殺す様な悪魔の兵器は作ろうと思えば作れる、だが出来るならそんなモノは作りたくなかった。
「キミも知っているだろうけど我が組織、アンチテーゼにとって役に立たない幹部は要らない…さようならプロフェッサー・ユリ。あぁそうそう...機密保持で刺客も送るからそのつもりでね? 」
「ま、待って!せめて首になるなら退職金とか今月分の給料とかその辺は──!! 」
「……ないよ!! 」
声が途絶えてしまった。
それ以上は何も無いし有る訳がない…トボトボと部屋を出ると待っていたのは長い青髪を持ち、黒色の長ズボンに対し水色のワイシャツの上に白衣を来た女性。
私、亞久井ユリよりも美人かつ綺麗なのが何処か気に食わない。
「何の話をしていた、プロフェッサー・ユリ 」
「別に…大した事じゃないわよ、レイン 」
彼女の名前はレイン・アブソリュート。
水や氷を操る能力を持つ幹部怪人であり
私にとっては理解者でもある。
「クロス様直々にお呼び出しというのは珍しい…何かあったのか? 」
「…別に。兵器類を作る過程の予算の相談で呼ばれただけよ 」
「ふッ…そうか。だが珍しい事もあるものだな……あのお方が誰かと話す気になるとは 」
「そういうお歳頃なんじゃないの?ああしてるのも退屈なのよ、多分 」
それだけ伝えると私は彼女と擦れ違った。
そもそもプロフェッサー・ユリというのは私がいつの間にか付けられた異名で特撮物で言えば悪の組織に1人は居る科学者的な立ち位置となる。
兵器は勿論、怪人や戦闘員を作ったのもこの私だ。その怪人枠に当たるのがネガノイドで
戦闘員はドレッダーという。
常に戦闘員は常に量産され、ネガノイドに関しては1から作り直すか或いは再生させて戦わせるかの何れかの手法を取る事が決まっているが今の所大した損壊も無ければ傷も無かった筈だろう。そしてラボへ入った私はありったけの不満をぶち撒けた。
「長年組織の為に尽くして来たのに…いきなりクビとかどうかしてるんじゃないの!?毎日毎日ノルマ以上の事させるわ、残業も当たり前、休みだっつってんのに幹部が使うギアのメンテしろ、異空間転送装置の修理をしろ、新しい武器を作れだの何だの!!オマケに退職金すら出さないとかブラック企業ならぬブラック組織なんじゃないの此処!! 」
我慢の限界を超えてしまった私は思い切り叫んでからソファを足で蹴り付けた。
元を辿れば色々と可笑しいのは薄々気付いていたがそれは目を瞑って我慢して来たつもりだった。しかし今居るこの部屋も今日でお役御免となるのは悲しい…私は素直に荷物を纏め、必要最低限の物だけに留めた。
「それとこれと…後はこれも。こっちは要らなくて…これは……処分。残りは── 」
試作品や失敗作を片っ端から捨てていく中で最後の1つを手にした。それは携帯端末とベルトの様なアイテムでそれぞれクロスドライバー、
スマートギアという。幹部の1人に勧められた特撮を真似て作ったお手製のアイテムで一応変身は出来る。
「…これは捨てないで持って行くか。ある種の思い出として…ね 」
全てを終えたその日、私は疲れたのかソファに横たわるとそのまま眠ってしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
組織からクビにされた私が異空間ゲートを通じて向かったのは地球。
そもそもこの星はアンチテーゼが目を付けた星であり少しずつその支配の手を伸ばしつつあった。それは首領クロスが企てた地球侵攻計画というモノに他ならない。
ネガノイド達は皆、擬態する性質を兼ね備えていてヒトという生き物へ擬態させる事によって人間社会へ溶け込ませるというのがクロスの狙い。
そうすればいとも容易く作戦を遂行出来ると踏んだのだ。
「それにしてもヒト多過ぎない?私が住んでた星と全然違う...オマケに排気ガス凄いし 」
私が住んでいた故郷の星、アース2225はこの地球という星と酷似した惑星で
文明の発展も此処と負けず劣らずだった。
だが反面では行き過ぎた環境破壊が原因となりそれが徐々に首を絞め始めていたのもまた事実だ。私は少し歩いた先の広場にあるベンチへ腰を下ろし、傍らに置いた。
「はぁ...退職金も無いし来月の給料も無しの一文無し...それで有るのは着替えと研究資材と端末、それからドライバーと私の秘密兵器。これだけでどう暮らせっていうのよ? 」
住む家も無ければ身体を休める場所も無い。
今日と明日の食事も無いし先月の給料は残り僅かでしかないし
行く宛なんざ当然ありはしない。
それとは別でクビになる際に言い渡された刺客を送るという意味。
アンチテーゼは離反した者や裏切り者は例え仲間であろうと容赦はしない。
故にいつどうなるか解らない。
「23歳独身で貯金もほぼゼロ...このまま此処で死ぬのかな私 」
溜息を吐くとお腹が鳴った。
今朝から何も食べていない事から気分が何処か優れない。
止むを得ず私は何か食べ物をと思い、広場を出て店を探して歩いて行くが
どの店も高くて今の所持金では心許無い。
気が付けばもう夕方で諦めた私は公園の水道水で空腹と渇きを満たして
安堵していた時。突然、刃物が飛んで来てそれが地面へ突き刺さった。
視線を向けた先に居たのは鈍い銀色の装甲服を着た何者かで
私が造った怪人や戦闘員にも該当しない。
「ま、まさかアイツが言ってた刺客!? 」
「我が名はアンチテーゼが送りし暗殺担当シノビノイド...プロフェッサー、お前を始末する。組織の為消えて貰うぞ!! 」
「嘘でしょ!?冗談じゃない...ッ!! 」
背負った刀を抜刀し襲い来る、私が着ていた白衣の左腕を掠めると
立て続けに刃が振り下ろされた。それを懐から取り出した銃型の変身デバイスで
受け止めると振り払って銃口を差し向ける。
「ほぅ...抗う気か? 」
「当たり前でしょ!?食事も寝る所も無いのにこんな所で野垂れ死ねるかっての!! 」
荷物を手放してから立て続けに取り出したのは小型の筒の様な物を取り出し、
銃底の下部をスライドさせそれを嵌めて押し込んだ。
「──トランス・レイド!! 」
銃口を上空へ向けて引き金を引く、そして私は変身した。
紫色と白のボディスーツに対し二の腕を覆う長さのアームカバーに
腰回りはミニスカート。両足はガーター付きの黒いニーハイソックス姿となると
そこから紫色の装甲を両手足へ装備し同時に頭部にも同色のヘッドギアを装備し
て身構えた。変身で変化した銀髪が風に靡くと再び銃口を差し向ける。
「その姿は!? 」
「魔装閃姫...ブラックレイヴン。これは流石に知らなかったでしょう?だって組織の誰にも話してないし報告だってしてないんですからね? 」
「幾ら姿を変えたとて何も変わらぬ!! 」
「そう?なら試して御覧なさいなッ──!! 」
膠着状態から戦闘状態へ移行、空腹を堪えながら私は
刺客であるシノビノイド相手に激戦を繰り広げた。
斬撃に対し展開した銃身下部のブレードで応戦し刃が掠めようが
殴られようが蹴られようが戦闘を継続する。そして眉間と胸部を連続し
射抜いた所でシノビノイドが背中から倒れた。
「いつつ...や、やっと倒せた......!けどやられ過ぎたかな...それにしても刀振り回すわ、思い切り蹴るわ殴るわだなんて......相手は女だっつーの...!! 」
渾身の突っ込みを入れてから変身を解いて負傷個所を抑えながらその場を立ち去る、だが荷物が重い上に空腹からか意識が朦朧とする。
もうダメかもしれないと思い歩いていると振り返った際に誰かとぶつかった。
「あ、あの!?大丈夫ですか? 」
「あ、あぁ...はい...大...丈夫です...... 」
そのまま凭れ掛かる様に寄り掛かった。
柔らかく温かい身体を持つ彼女を見ると綺麗に肩辺りで切り揃えられた艶のある美しい黒髪をした女の子が私の事を心配し揺さぶっている。そして眠る様に目を閉じた。
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「ん、んん...?あれ......私生きてる...? 」
目を覚ますと見知らぬ天井が視界に飛び込んで来る。
身体を起こそうとすると痛みが走った。でも不思議なのは負傷した箇所には丁寧に
包帯とガーゼが巻かれていて着ていた筈の衣服は無く私は下着姿だった。
「あ、目が覚めました? 」
声が聞こえて来て視線を向けると昨晩出会った彼女がそこに居て
赤色の長袖シャツにチェック柄のミニスカートを着ている。歳は自分と比べて
1つか2つ下だろう。
「此処は? 」
「私の家です、まぁ...アパートですけどね 」
「そう...手当は貴女が? 」
「はい。お姉さんケガしてたし...何かあったんですか? 」
「...実はその、話すと長くなるんだけど...私は此処の世界じゃない別の所から来たの。それも地球侵略を企む悪の組織から 」
「悪の組織? 」
「信じられないでしょうけど現実なのよ。そして私はそこをクビになって追い出されて...行く宛もなく彷徨っていたら刺客に襲われて殺されかけたって訳 」
目の前の子は呆気に取られている。
当然だ、信じて貰える訳はない。
「そうだったんですね...じゃあケガが治るまで此処に居ても良いですよ!私も1人で退屈ですし...あ、でも基本は大学の講義とバイトが有るから...... 」
「で、でも流石に迷惑が掛かるでしょう?何だったら今直ぐにでも──! 」
すると彼女は動こうとした私の両手を握り締めて更にこう言った。
「動いちゃダメです!貴女が悪の組織?の人だとしても困っている人が居たら助けたい...それじゃダメですか? 」
「うえぇぇッ!?あ、あぁ...うぅ...... 」
彼女は天使か?いやいやいや、それとも別の何か?
ヒトの優しさというのが身に染みる上に何か別の感情が込み上げて来る。
この子を見ていると可愛いし心が穏やかになる気がした。
するとそれを遮る様にタイミング悪く腹が鳴ってしまう、赤面した私は
俯いていた。
「ぴぃいいいッ!?あ、その、えっとぉッ......!! 」
「もしかしてお腹空いてるんですか?じゃあ何か作りますね! 」
微笑んで私から離れた彼女の手を思わず掴んで呼び止めた。
「お、お願い...します......。それと!名前...私の名前は亞久井ユリっていうの!! 」
「私は紗羽、紅井紗羽って言います!宜しくユリさん!! 」
「此方こそ宜しく。紗羽さん 」
振り向いた彼女と握手を交わしてお互いに同棲する事が決まった。
そして私はまだ理解出来ていなかった...いや正確に言えば
まだ考えていなかったのかもしれない。
私はこの子...紅井紗羽という子に
-恋をしてしまっている。-
そしてアンチテーゼによる侵略作戦が本格的になり始めていたのも
この時の私はまだ知らなかった。
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