第5話 次の一手
二年生の学期が始まったばかりの月曜の午後、空は妙な色をしていた——明るい青ではないが、かといって灰色の曇り空でもない。太陽の光が教室の窓から差し込み、埃っぽい木製の床に長い影を作っていた。
2年B組はもうほとんど空だ。わずかに残ったのは、椅子を引きずる音と、帰りたがらない友人同士の話し声だけ。
俺は自分の机に座り、水筒の蓋を弄びながら窓の外を眺めていた。
次なる一歩は、アイザワだ。
その言葉は、二日前からずっと頭の中で響いている。
アイザワ・アカネ——俺の頭を最も悩ませ、そして「現実の世界」が俺が思っているほど優しくないことを最も頻繁に気づかせてくれる人間だ。
レイナがカリスマ性、ユアが温かさ、アオイが突発性、ハナゾノが優しさだとすれば……アイザワは? 彼女はリアリズムと皮肉が一つになったような存在だ。
「まだいるの、ソーシャル・ヒーローさん?」
声はドアの方から聞こえてきた。振り返らなくても、誰の声かは分かる。
アイザワはそこに立っていて、鞄を肩にかけ、ブレザーは半分開き、「あなたが企んでいる馬鹿げたことは全部お見通しよ」という彼女特有の表情をしている。緩く結ばれた黒髪が、少しだけ目元を覆っていた。
俺はニヤリとした。「時間通りだな」
「ええ、早く帰りたいから」
「相変わらず単刀直入だな」
「いつもね」
彼女は俺の方へ歩いてきて、俺の机の前の椅子に座り、腕を組んだ。
「それで、今回のあなたの世界救済プロジェクトは何?」
「そろそろブランディングを変えるべきかな?」
「あんたがこんな調子だと、本当にチャリティー団体を立ち上げたと思われるわよ」
俺は肩をすくめた。「そこまでひどくはない。ただ先生に頼まれて、誰かの手助けをすることになっただけだ」
「ふむ。クスノキ・シオリのことね?」
俺は一瞬驚いた。「知ってたのか? あの時は適当に言ってるだけかと思ったのに」
「は? クラス中が知ってるわよ、ミナセ。誰とも話さない唯一の生徒なんて、自然な噂の種でしょ」
俺はため息をついた。「まだセーフだと思ってた」
「秘密にしたいなら、購買でアオイと公然と話しすぎるのはやめなさい。彼女の声はブルートゥース・スピーカーみたいなんだから」
「……了解」
アイザワは椅子の背にもたれかかり、半分うんざり、半分興味津々な目で俺を見た。
「それで、私にも手伝ってほしいと?」
「強制はしない」
「でも、私が承諾するのを期待してるんでしょ?」
「期待は十パーセントだけ。残りは推測だ」
彼女は小さく鼻を鳴らし、髪の毛の先を弄んだ。
「私がすぐ断らない理由、分かる?」
俺は眉を上げた。「好奇心?」
「違うわ。あんたがどこまで他人のために面倒を見るか、知りたいからよ」
その言葉は、俺が思っていたよりも深く突き刺さった。
アイザワは空の黒板の方を見つめた。「クスノキは典型的なケースよ。嫌われているからじゃなくて、見えてないから。彼女みたいな人は、背景に溶け込みやすいの」
「それは間違いか?」
「そうとも限らない。でも、あんたが彼女を『馴染ませたい』なら、彼女が本当にその居心地の良い場所から出たがっているか確認すべきよ。彼女の準備ができてないのに、無理やり引っ張り出したりしないように」
俺は彼女をじっと見た。「まるで、あんたがその立場にいたことがあるかのような口ぶりだな」
彼女は薄く笑った——それはノスタルジーというよりは、警告に近い笑みだった。「昔、私も『引きずり出された』ことがあるわ。違うのは、その時、あんたみたいな人はいなかったってことね」
教室は数秒間静まり返った。壁の時計の音と、わずかに開いた窓から入る風の音だけが聞こえる。
俺は顎を手に乗せた。「それで、手伝ってくれるんだろ?」
「まだ決めてない」
「『まだ決めてない』ってことは、条件付きで『イエス』ってことだ」
「そして、あんたはその条件を知ったら後悔するわよ」
俺は彼女を真っ直ぐ見た。「どうだろうな」
✦✦✦✦✦✦
俺たちはついに一緒に学校を出た。駅へ向かう道は散り始めた桜の花びらで覆われ、夕方の光が黄金色のオレンジ色でアスファルトを照らしていた。
アイザワは俺の隣を、いつもより少し早足で歩いた。
「ねえ、ミナセ。あんたはいつも自分から面倒事に首を突っ込むわね。先生に『すみません、私の問題ではありません』って言えば済むのに」
「そう言ったら、かえってずっと気になっちゃうだろうな」
「じゃあ、あんたは人を助けないと罪悪感を感じるわけ?」
「それよりは……誰かを理解する機会を失うような気がするんだ」
アイザワは俺を一瞥し、それからまっすぐ前を見た。
「ねえ、それ、私が今まで聞いた中で一番あり得ない理由よ」
「でも、聞いた時、笑っただろ」
「あり得ないからこそ面白いんでしょ。落ちた帽子を拾うためだけにボートから飛び降りる人を見るみたいに」
「俺はそこまで馬鹿じゃない」
「そう? どうかな」
俺たちは小さな橋の近くにある自動販売機の前で立ち止まった。アイザワは小銭を取り出し、レモンティーを選び、俺は冷たい缶コーヒーを買った。
「中学の時」と彼女は缶を開けながら言った。「クスノキに似た友達がいたの。彼女は無口で、人と話すのが苦手だった。私は手助けできると思った。でも、結果的に、彼女はさらに遠ざかっちゃった」
「どうしてだ?」
「私が強引すぎたのよ。私が彼女をもっとアクティブにさせれば、慣れると思った。でも、彼女はかえって居場所がないと感じるようになっただけだった」
俺は黙って、続きを待った。
「その後、彼女は転校した。もう連絡は取ってない」
彼女は缶をじっと見てから、少し飲んだ。「だから、クスノキを助けたいなら、昔の私みたいにはしないで」
俺は橋の下の川の水面に映る反射を見た。「だからこそ、あんたを誘ったんだ。あんたは彼女みたいな人を追い詰めない方法を知ってる」
アイザワはため息をついた。「あんたって、本当に感情操作のプロね」
「それは『説得力がある』ってことの別の言い方だ」
「ワットエバー」
俺たちは再び歩き始め、夕方に開く小さな店が並ぶ通りを抜けた。あるパン屋から、温かいバターの香りが漂ってきた。アイザワが少し立ち止まる。
「メロンパン買いたい。あんたもどう?」
「いるって言ったら、奢ってくれるのか?」
「は。面白い」
俺たちは結局、パン屋の前のベンチに座った。それぞれパンと飲み物を手にしている。制服の違う生徒が通り過ぎ、子供の笑い声、店のスピーカーから流れる優しい歌が混ざり合い、平和な夕方の雰囲気を作り出していた。
アイザワはパンを一口かじってから、顔を向けずに言った。
「ねえ、ミナセ。あんたって、他人にとって鏡のような存在だって気づいてる?」
「鏡?」
「ええ。あんたはいつも、話す相手の最良のバージョンの姿を映し出すのよ。まるで、彼らが本当の自分よりも『完全だ』って感じさせてるみたいに」
「それって良いことじゃないのか?」
「良いことよ、でも危険でもある。だって、彼らは本当の自分を忘れちゃうかもしれないから」
俺は赤みがかったオレンジ色の空を見上げた。「あんたは、俺が共感しすぎたせいで破滅する主人公みたいに話すな」
「そうかもね。たいてい、他人を救いたがる人ほど、自分が一番救われる必要があるのよ」
俺は彼女を見た。「あんたもそれを信じてるのか?」
「信じてるわ。だって、直接見たことがあるから」
彼女は顔を横に向け、店の窓を見た。一瞬、夕日の影が彼女の目に反射した——そこには何かがあった、痛くはないけれど、まだ感じられる古い傷跡のようなものが。
俺は沈黙を破った。「それで……クスノキを助ける件、どうする?」
彼女は静かにため息をついた。「手伝うわ、でも条件が一つある」
「ほら見ろ、俺の予想通りだ」
「余計なことを言わないの」
俺は手を上げた。「分かった、分かった。条件は何だ?」
「もし彼女があなたに心を開き始めたとしても、それを自分が『必要とされている』理由にしないで。彼女に自分で歩かせなさい、たとえそれがあなたから離れることを意味したとしてもね」
俺は言葉を失った。彼女の言葉は単純だが、その重さがすぐに伝わってきた。
「随分と重い条件だな」
「準備ができてないなら、今すぐやめるべきよ」
俺は小さく微笑んだ。「もう遅い。俺はもう歩き始めた」
彼女はしばらく俺を見てから、静かに鼻を鳴らした。「ほんと、頑固なんだから」
✦✦✦✦✦✦
駅前で別れる頃には、空は暗くなり始めていた。アイザワは階段の上に立ち、上から俺を見下ろした。
「私を後悔させないでね、ミナセ」
「約束する、絶対にしない」
彼女は目を細めた。「安っぽいアニメキャラみたいな言い方ね」
「へえ、でも俺はフレームの中だとかなりかっこいいぜ」
「自信満々ね」
「自信は勝利の半分だからな」
彼女は目を回したが、振り返ってホームに向かう前に、口角がわずかに上がったのを俺は見た。
俺は彼女の背中が遠ざかるのを見つめ、それから春の最初の夜空を見上げた——まだ縁にオレンジ色が残っている。
一歩踏み出すごとに、この「ソーシャル救出」プロジェクトは、一人の人間を助けるという単純な行為よりも、遥かに複雑な何かへと変わっていくように感じられた。
クスノキ・シオリ。
なぜか、その名前は今、頭の中で以前より重く響いていた——多分、アイザワが忘れられそうにない警告を俺に与えたせいだろう。
夜風が静かに吹き、駅近くの公園から微かな花の香りを運んできた。
俺は深く息を吸い込み、歩き出した。
次なる一歩は完了した。俺は、最初の意図よりもさらに大きな何かに足を踏み入れた気がしていた。
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