第4話 ヒーローの目的

 春の半ばの土曜の昼下がりは、いつも妙な雰囲気がある——ジャケットには暖かすぎるが、薄いシャツには少し肌寒い。空は澄んでいて、雲が少し。街角の喫茶店から漂うコーヒーの香りが空気中に満ちている。

 俺は横浜、元町エリアにある小さな公園の前に立っていた。静かだが、寂しすぎることはない場所だ——子供の声、ハトの羽ばたき、通り過ぎる自転車の音が自然な背景になっていた。

 今日の目的は、アオイ・ハルカとハナゾノ・ミユキの二人と会うことだ。この「ソーシャル救出」プロジェクトで、俺を助けてくれるかもしれない二人だ。

 時計を見る。あと五分。アオイはいつも時間通りに来るから、どちらが先に到着するかは予想がつく。

 案の定——北側から、明るい茶髪の女の子が軽やかな足取りで現れた。アオイはプリーツスカートの上に水色のパーカーを着て、ヘッドホンを首にかけている。俺を見るなり、彼女は手を振った。


「ねえ、ミナセ!」

「よう。相変わらず時間通りだな」

「もちろん。私はモリシタじゃないからね」

 俺たちは二人で小さく笑った。

「それで」と彼女は首を傾げながら言った。「休日に急に誘い出すなんて……もしかして私に告白でもするつもり?」

「落ち着け、安っぽいラブコメのシーンじゃない」

「残念。驚いたふりをする準備はできてたのに」

 俺は鼻を鳴らした。「五分でいいから真面目になれないか?」

「なれるけど、つまらないでしょ」

 俺が言い返す間もなく、賑やかな声と小刻みな足音が道の向こうから聞こえてきた。

「ごめん、ごめん! 遅れちゃったかな?」


 ハナゾノ・ミユキが慌てた顔で現れた。長い黒髪はハーフアップに結ばれている。白いブラウスの上にクリーム色のカーディガンを着て、大きなトートバッグを手に持っていた。

「いや、大丈夫だよ」と俺は言った。「俺たちも今来たところだ」

「よかった! ローソンで曲がる道を間違えて、二ブロックも迷子になるところだったんだ……」

 アオイは面白そうに彼女を見た。「それって、またスマホ見ながら歩いてたってことでしょ?」

「えへへ……」ハナゾノは小さく笑い、それから俯いた。

 俺は静かにため息をついた。「よし、全員揃ったところで、あそこに座ろう」

 俺は、桜の花が散り始めているベンチを指した。


 ✦✦✦✦✦✦


 三人でベンチに座った。ひらひらと舞い落ちる桜の花びらがアオイの髪に付着し、俺は何も考えずにそれを払いのけた。

「ねえ、これって反射? それとも口説き?」と彼女はわざと不機嫌なふりをして言った。

「反射だって言ったら、信じるか?」

「信じない」

「じゃあ、やっぱり口説きだな」

 ハナゾノは気まずそうに俺たちを見て、それから困ったように微笑んだ。

「二人って、本当に仲がいいんだね」

「別に」と俺たちはほぼ同時に答え、お互いをちらっと見て、どちらも無関心を装った。

「それで、一体何の話なの、サクヤ?」とアオイが足を組みながら尋ねた。「あなたが何か用事がないのに、外で遊ぶなんて珍しいもの」


 俺は背もたれに寄りかかり、しばらく空を見上げた。「一つだけ用事がある。俺たちのクラスの誰かについてだ」

 ハナゾノが身を乗り出した。「えっ、誰?」

「クスノキ・シオリ」

 その名前が出た途端、場の空気が少し静かになった。ハナゾノは考え込み、アオイはヘッドホンをいじるのをやめた。

「彼女のことは知ってるよ」とアオイが言った。「後ろの窓際に座ってる子でしょ? いつも一人でいる」

「うん」

「話に加わったこともないし、クラスのイベントでも黙ってた」

 ハナゾノは下を向き、声が小さくなった。「私、一度だけ声をかけたことがあるんだけど……彼女は小さく笑って、また俯いちゃったの」

 俺は頷いた。「先生が、彼女がクラスにもっと馴染めるように手伝ってくれって俺に頼んできたんだ」

 アオイは小さく口笛を吹いた。「先生、あなたならできるって信じてるの? すごいじゃない」

「すごいってどこが? 俺だって、どう始めたらいいか分からないんだぞ」

「だから私たちを誘ったの?」

「そうだ。お前たちなら別の視点を持っているんじゃないかと思って」


 ハナゾノはバッグの端をいじった。「私からすると……分からないけど、時々クスノキさんみたいな人って、人に近づきたくないわけじゃないと思うの。多分、ただ間違ったことを言うのが怖いだけなんだよ」

 俺は彼女を見た。「間違ったことを言うのが怖い?」

「うん。だって、私も昔そうだったから」

 ハナゾノの声は静かだが、正直だった。「変なことを言ったら、みんなに引かれちゃうんじゃないかってよく思ってたの。だから黙っている方がマシだって。でも、黙っているほど、どんどん遠ざかっちゃうんだよね」

「それで、今は?」と俺は優しく尋ねた。

 彼女は薄く微笑んだ。「今はみんながいるから。だからゆっくり学べるよ」

 アオイはしばらく彼女を見てから、ヘッドホンを指で回した。「それなら、アプローチは優しくないとね。あまり正面から行き過ぎないこと」

「賛成だ」

「でも、聖人になる必要はないよ」と彼女は素早く付け加えた。

「時々、彼女みたいな人には、世界がそんなに怖くないって気づかせるための小さなサプライズが必要なんだ」

「つまり、優しさと突発性のミックスか?」

「だいたいそんな感じ」

 俺はため息をついた。「まるでケーキのレシピみたいだな」

 アオイが笑った。「ね、サクヤシェフは、あとは秘密の材料を探すだけだよ」


 ✦✦✦✦✦✦


 その後、俺たちは道の突き当りにある小さなカフェに移動した。そこは居心地が良く、通りに面した大きな窓があり、緑茶の香りがシナモンの香りと混ざり合っていた。

 アオイはすぐにラテを注文し、ハナゾノは抹茶フロート、俺はブラックコーヒーにした。俺たちは窓際の席に座り、外を眺めた。

「で」とアオイが再び口を開いた。「これまでの戦略は?」

「これまでは理論だけだ。昨日レイナとユアと話した。彼女たちは手伝うことに同意してくれたけど……今のところはアドバイスをくれただけだ」

「彼女たちはなんて言ってたの?」

「ゆっくりアプローチすること。彼女を注目の中心にしないこと」

 ハナゾノは頷いた。「私も賛成。でも……時々クスノキさんみたいな人って、実は気にかけてもらいたいって思ってるんだよ。ただ、どう反応していいか分からないだけで」

「ふむ。つまり、俺たちが本当に気にかけていることを示す、小さな瞬間が必要ってことか」

「流れ弾のバスケットボールから彼女を守るとか?」とアオイがからかった。

「そんな陳腐なことはやめろよ、アニメの脚本と間違われる」

「でも、あんたは主人公になろうとしてるんでしょ」と彼女は素早く言い返した。

「主人公は他の人に手伝いを求めたりしないんだよ」

「あれ、今私たちを誘ったのは誰だっけ」

「……一本取られたな」

 俺たちは笑った。


 しばらくして、会話は穏やかになっていった。ハナゾノは窓の外を眺め、通り過ぎる人々の影を目で追っていた。

「この世界は賑やかだよね」と彼女は静かに言った。「でも、時々、ガラス越しに眺めているだけのような気がするんだ」

 俺は彼女の方を向いた。その言葉は共鳴した——クスノキについて俺が考えていることにあまりにも似ていたからだ。

「ハナゾノ」と俺は慎重に言った。「君も助けられる必要があるんじゃないか?」

 彼女は一瞬戸惑い、それから小さく微笑んだ。「前はそうだったかも。でも、今はみんながいるから……もうだいぶ安心だよ」

 アオイは、読み取れない表情で俺を見た。「ミナセ、あなたは気づいてる? あなたのミッションは逆方向に進む可能性があるって」

「逆方向?」

「そうよ。時々、誰かを助けようとするとき、変わるのは私たち自身なのよ」


 俺は黙った。彼女の声には何かがあった——半分真剣で、半分優しいトーン、まるで同じ経験をしたことがある人のようだ。

「もしあなたがクスノキのことを考えすぎるようになったら」と彼女は続けた。「忘れないで。あなたが彼女を『救う』必要はないの。ただ、出口を見る手助けをするだけ。残りは彼女自身の問題よ」

 俺は薄く微笑んだ。「まるでカウンセリングの先生みたいだな」

「いいでしょ、私、見た目より賢いんだから」

 ハナゾノがくすくす笑った。「アオイちゃんが賢い? この世界はますます謎だらけだね」

「ちょっと!」

 俺たちの小さな笑い声がカフェを満たした。外では春風が吹き、桜の花びらをガラス窓に貼り付けていた。


 ✦✦✦✦✦✦


 夕暮れになった。俺たちは軽い気持ちでカフェを出た。空は柔らかなオレンジ色に染まり、最後の夕日が薄い金色の輝きのように歩道に落ちていた。

 アオイはパーカーのポケットに手を入れ、俺の隣を歩いた。「もし本当に直接的な助けが必要になったら、知らせてね。成功するとは約束できないけど、クスノキみたいな女の子にあなたがどう対処するか見るのは興味がある」

「ドラマがあるから興味あるのか、それとも俺だから?」

「両方よ」

「正直だな」

「正直な方が効率的でしょ、サクヤ!」

 一方、ハナゾノは俺たちの後ろを歩き、空を見上げていた。「私も……手伝いたいけど、多分、最初は遠くからでいいかな。逆に彼女を気まずくさせちゃうんじゃないかって怖くて」

 俺は彼女の方を振り返った。「君がその気持ちを理解しているからこそ、適切な助けができるんだ」

 彼女は驚いた後、温かく微笑んだ。「あ、あなたいつも人が断れないような言い方をするよね」

「持って生まれた才能だよ」

「それって危険だね」

 俺たちは小さく笑った。


 ついに、俺たちは交差点の前で別れた。ハナゾノはバス停の方向へ、アオイは駅の方向へ。俺は街灯の光の下に一人で立っていた。

 風が、さっきのカフェの紅茶の香りを運んでくる。俺は深呼吸をした。

 今日は大きな一日ではなかった。だが、なぜか、これは意味のある小さな一歩だと感じられた——一つの軽快な会話が、ゆっくりと新しい方向を作り出していく。

 俺はスマホの画面を見た。まだ声をかけていない名前が一つある:アイザワだ。

 彼女は最も現実的で、最も頑固だが、同時に常に正直に話す人間だ。

 俺は彼女の連絡先をタップした。ワンコール。ツーコール。


 向こう側から彼女の声が聞こえた。「よう、どうした、ソーシャル・ヒーロー?」

 俺は小さく笑った。「明後日、時間あるか?」

「理由が魅力的だったら、多分ね」

「信じてくれ、今回は後悔しないはずだ」

 彼女はため息をついた。「分かった、場所を送って。でも、これがイタズラだったら、あんたを川に投げ込むから」

「承知したよ、アイザワさん」

 電話を切る。俺はスマホをポケットに滑り込ませ、暗くなり始めた空を見上げた。街の光が川に反射し、世界が呼吸しているかのようにゆっくりと揺れている。

 俺は微笑んだ。

「次の一歩は……アイザワか」

 そして、残りの桜の香りを運ぶそよ風の中で、俺は知っていた——俺が踏み出す一歩一歩が遠くなるほど、「誰かを助けること」と「自分自身を理解しようとすること」との境界線は薄くなっていくのだ、と。

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