第9話 1人でも
この街に来て数日経つ、ちなみに街の名前はパルーシアと言うらしい。
アシュニ曰く「急ぐ旅でも無いから冒険者ランクを上げてく」とのことで。どうやらこの街の近くに冒険者のランク査定で高く評価される魔狼の生息域があるため、その討伐依頼が多く発行されており、ここは冒険者ランク上げにうってつけの街だそうだ。
依頼でなくとも魔獣素材の売却でもランク査定に影響があるらしい。
冒険者ランクは銅、粗鉄、鋼鉄、銀、金、白金、灰銀の7段階ある。
元々は金までの5段階だったそうだが、200年前に金級の中でも飛び抜けて優秀なルクスとアシュニが史上初の灰銀級に選ばれ、それ以降で灰銀級に選ばれた者は両手で数えられる程しか居ないそうだ。
そしてミフォスは冒険者になりたてだがランクは既に粗鉄まで上がっていた。
いまだに過去の英雄達やアシュニに憧れを持っているため、灰銀級を密かに目標にしている。
「今日は1人で討伐依頼を選んで達成してこい。あ、パーティを組んでもいいぞ」
今朝アシュニから言われたことを思い出しながら、ふんす、と息を吐き、意気込む。
最近知ったことだが、魔狼にはシルバリーウルフとグレートウルフの2種類がいるらしく、シルバリーウルフが群をなす狼、グレートウルフは一匹狼で、単体ではグレートウルフの方が危険度が高いが、群れとなるとシルバリーウルフの危険度は際限なく上がるそうだ。
ミフォスが今まで狩って来たのはシルバリーウルフの十数匹からなる群れらしい。
らしい、と言うのもアシュニが上手く分断して3匹以上を同時に相手しないでいいようにしてくれていたため、あまり群を狩ったと言う感覚が無いのだ。
そんなことを考えながらシルバリーウルフ3匹の討伐依頼を受ける旨を受付に伝えると、依頼書の写しを渡してくれる。この写しはあくまで冒険者側の控えで、受付に何か不備があった際に提示することで依頼を受けたという証明にするらしい。
シルバリーウルフ3匹の討伐依頼は粗鉄級が受けれる依頼で最難関に位置する、これを達成すれば鋼鉄級へ昇級は確実だと受付の人に言われた。
(パーティを組んでもいいって言われたけど、知らない人は怖いし1人で行こうかな)
なんて事を考えていたら肩をがっちり掴まれた。
「ねえ君!もしかして1人?剣を持ってるってことは前衛だよね?今さ臨時メンバー募集してて、どうかな!?」
長い髪を一纏めにし、馬の尻尾のように振り回している若く快活な女性が捲し立ててくる。
「あ!ごめんごめん、自己紹介がまだだったね。私はレイナ、16歳だよ!よろしくね!!」
「あ、ミフォスです、15歳、だと思います」
ミフォスは誕生日をいまいち覚えていないが、実際は14歳で今年15歳になる。
「わぁ!歳近いね!で、どうかな?」
「えっと、その、もう依頼は受けていて……」
「なになに?シルバリーウルフ3匹の討伐、か。うん、ちょうどいいね、私たちのパーティもシルバリーウルフ3匹の討伐依頼を受けてるんだ!この場合ノルマが6匹になっちゃうけど1人でやるより楽なはずだよ!!」
「え、あ、えっと……」
「ほらほら、もう行こ!ね?」
ゴリ押しされてしまった。グイグイ来る人だなぁと感じながら、彼女のパーティメンバーを紹介される。
メンバーはレイナを含めて4人で、そのうち1人は面識があった。初日にアシュニに突っかかって来た大男だ、大男はグラトと名乗り、軽く会釈をする。
前衛をレイナとグラト、後衛に聖職者のラビと魔術師のドリスというバランスの取れたパーティだ。
このメンツに剣士のミフォスは要らないと思うのだが、もしや心配して声をかけてくれたのだろうか。アシュニは他人を信用するなと言っていたが、この人達はただただ良い人たちなのではと思う。
それに逃げ足には自信がある、と言うよりシルバリーウルフから散々逃げ回って剣以上に逃げ足の練度が高くなったので、いざという時は逃げればいいやと、臨時パーティを組むことにした。
少々迂闊だったかもしれないが、正直信用して良い気がする。聖職者がパーティに加入している時点である程度信用が担保されているし、レイナとグラトは純粋に心配している感じがした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
グラトおじさんが最近気にかけている少女、ミフォスが1人で依頼を受けていた。
彼女は保護者に虐待を受けているのでは無いかと噂されており、例の保護者もいないので声をかけてみようと言う話になり、共にシルバリーウルフの討伐へ向かった。
私たちのパーティは全員が銀級で、ベテランの冒険者と言える。シルバリーウルフ6匹程度なら余裕で終わるだろう、なんならもっと倒してミフォスにカッコいいところを見せても良いとさえ考えていた。
この時の私たちは少し浮かれていた、森の小さな異変に気が付かない程度には。
シルバリーウルフは基本的に森の浅い場所には現れない。現れたとしても群れから逸れた者で、逸れのシルバリーウルフと出会えたらむしろラッキーと言えた。
森に入った時一つ目の異変があった、生物の気配が無かったのだ。この時点ではシルバリーウルフの群れが縄張りを広げた程度に考え、6匹以上狩ることになるかもな〜なんて軽口を言いながら深部に向かって歩き出した。
二つ目の異変はシルバリーウルフの死骸が散見した事だ。ただその死骸の周囲にもシルバリーウルフが現れたので、群れ同士の争いでもあったのだろうと軽く考えてしまった。そのせいで私達は災厄と遭遇した。
ドラゴン。魔獣の中でも最上位の捕食者で、高い知性を兼ね備えており、個体によっては人の言葉を理解できると言われている。
空を飛ぶ飛竜、地を走る地竜、水を泳ぐ水竜とドラゴンと一括りにしてもいくつかの種類に分かれている。
そしてどの種でも共通して言える事が、金級の冒険者が束になってようやく撃退できる事。そしてその鱗は生半可な刃を通さない上に魔力への耐性すらも魔族を凌駕していると言われている事の二つだろう。
そして私達が出会ったのはドラゴンの中でも好戦的で、人里への被害が最も大きいとされる地竜だった。
「うわぁぁぁぁ!」
ドリスが半狂乱で魔術を乱射する。
その殆どが狙いが甘く、当たらない。当たったとしても傷一つ付かないまま鬱陶しげにドリスへその爪が振り下ろされる。
「うぉぉぉぉぉッ!!」
間一髪でグラトおじさんが大剣で爪を弾くが、そのせいで大剣に深い傷が入った。あと一回振えばポッキリ折れてしまいそうだ。
ラビは慌てながらも身体強化と身体保護の奇跡を掛けてくれるが、ドラゴン相手なら気休め程度にしかならないだろう。
私はグラトおじさんに攻撃が集中しないように尻尾を斬りつけるが、弾かれた上に刃がダメになった。
(どうすればいいの!?)
逃げれば確実に追いかけてくる。街に逃げれば街へ被害が及ぶし、パルーシアでトップの冒険者は私達だ。
私たちが勝てない相手に鋼鉄級がいくら束になっても人死にが増えるだけでロクな結果にならないだろう。
(足の速い私が、注意を引いて深部に向かうしか──)
「レイナッ!避けろ!!」
「ッ!!」
地竜が尻尾を叩きつけようと振り上げる。その動作を見ていたはずなのに、考え事をしていたせいで反応が遅れた。
(まずい、私、死──)
「くっ…!!」
私は横から突き飛ばされ尻餅をつく。元いた位置には臨時メンバーのミフォスが尻尾を剣でいなしていた。
「ごめん、ありがとう!」
「次来ます!!」
地竜は攻撃が当たらなかった事を察したようで、振り向きざまに鋭利な爪で攻撃したが、ミフォスの警告のおかげで即座に攻撃範囲から逃れる事が出来た。
ここまで危機察知能力が高いとは、魔狼を3匹同時に相手取ったと言う話は嘘では無いのだろう。
彼女の件は私達の杞憂だったのかもしれない。だがついて来てくれたおかげで命拾い出来た、感謝してもしきれない。
しかし状況は好転していない。このままじゃ全滅する、それだけは避けなければ。そう考え私が注意を引く作戦を決行しようとした時、大きくは無いはずなのによく通る声が聞こえた。
「ふぅん、まあ及第点だな。ミフォス、よく見てろドラゴンの鱗の斬り方を見せてやる」
ミフォスの保護者、確か名前はフラムとか言ったか、彼は右手にごく普通の手斧を握り悠々と散歩でもするかのように歩いて来た。
その姿はあまりにも超然的で、私達だけではなく地竜すらフラムに注目する。
ふと右腕を振り上げたかと思うと、次の瞬間に地竜の左腕が切り飛ばされた。さらに次の瞬間には左脚、さらに尻尾と切り飛ばし、最後に無造作に手斧を投擲した。
すると手斧は放物線を描き、綺麗に脳天へ突き刺さり、地竜は一瞬にして絶命した。
その場にいた全員が何が起こったのか理解できず、唖然としていた中、1人だけいち早く復活し、フラムに駆け寄る。
「アシュ……フラム様、流石です!さ、先程のは私にも、出来ますか!?」
「安心しろ、出来るようになるまでやらせる」
「ピッ」
最初は目を輝かせていたのにフラムの言葉を聞いた途端、青ざめ震え出すミフォス。この2人の関係性がよく分からないが、少なくともミフォスがフラムを慕っている事は分かる。
グラトがフラムの前に立つ、何を言うのか察した私達は慌ててその隣へ行った。
「助けてくれて感謝する、どうやらアンタを誤解していたようだ、すまない。」
「「「ありがとうございました!!」」」
「……俺はお前らを助けたわけじゃ無い、弟子に手本を見せてやっただけだ」
フラムの突き放すような物言いに、気を悪くするどころか気分良く微笑むグラト。
「ああ、そうか、それでもありがとうと言わせてくれ」
「勝手にしな。おいミフォス、さっさと魔狼を狩って依頼を終わらせて来い」
「え゛っ、はいぃぃ……」
そう言ってフラムは、深部に走って行ったミフォスを見送る事なく街の方向へ歩き出す。
照れ隠しにしては少し過激では無いだろうかとは思うが、これ以上文句は言えまい。私達4人はミフォスを追いかけシルバリーウルフの討伐を手伝い、這々の体で街へと帰った。
その数日後、フラムは粗鉄級から白金級への異例の大出世を遂げた。
正直灰銀級でも通用する活躍だったが、実績が少な過ぎて、他の支部や王国本部から渋い顔をされたらしい。
私達4人は少し不満に思ったが、本人が気にしていなさそうだったので、私達が口出しするのも変な話だろう。
そんなフラムは白金級の授与式を欠席して街を出て行った、来賓として呼ばれた貴族は怒り、支部長は青ざめた顔で震えていたのが印象的だった。
「またいつか会えるかな?」
「ふっ、会えなくてもあれ程の実力だ。何処かで偉業を成せばその噂がこの街まで届くさ」
「そう言えばラビは何か頼まれてたよね?」
「ええ、太陽の奇跡を腕輪に授けて欲しいと。ただわたくしの祝福では大した効果は見込めませんが」
ラビは太陽の女神から太陽の祝福を授かっている、私達はその力に何度も助けられたが、聖女様の授かっている祝福と比べると数段劣るらしい。
そしてその祝福を他者に授ける事を奇跡と呼び、元となった祝福より効果が少し下がる。
そんな奇跡は人に授ける場合は効果時間が短いが、物に授けると効果時間が長くなる上に人に掛けた奇跡と物に掛けた奇跡は効果が重複するので、私達4人はラビの奇跡が授けられた腕輪を装着していた。
なんでも聖遺物と呼ばれる物に奇跡を込めると長期間効果が持続するそうで、なんとフラムが持って来た腕輪はその聖遺物だったらしい。
それでラビはそんな貴重な物に自分の奇跡を授けることに躊躇したようだった。
「そんなことより僕は、ドラゴンを斧で切り裂いていたくせに、あれで魔術師だなんて信じられないよ」
ドリスが独り言のように愚痴る。
元々学者肌で体力作りを疎かにしていたが、フラムが魔術師と知ってから体力作りに精を出すようになった、最近は毎日一緒に走り込みをしている。
流石にドラゴンを切り裂くのを目指しているわけでは無いようだが、これまで以上にやる気に満ちた良い顔をするようになって来た。最近ラビといい雰囲気になり、私とグラトおじさんはそれを微笑ましく眺めている。
(グラトおじさんはああ言ったけど、また会いたいな……)
フラムとミフォスが旅立った方角を眺めながら、そう思いを馳せた。
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