第13話 沈黙の記録

登場人物:Vauru、ガルシア=オフェイル、外宇宙調査部助手、レンブラントタロン所長、グラン総督、11号機Vauru


 宇宙空間、地球低軌道上。


 SR-5が静止状態でホールドされてしまっている。

周囲の映像が歪み、無音になっていた。

そしてスペースデブリ接触体は既に視界外になった。


Vauru「観測ログ1135:デブリ接触体、突然の消失。最後の波形に“反射構造”あり。私の思考が───彼らに観測されたのか?」


 各コックピット内に微細なノイズが残る。


※※※


 ノアーナ星、RJV外宇宙調査部部室。

ガルシア=オフェイルが大型ホログラムでVauruからの観測データを再生している。


ガルシア「これは……ヴァルデス・コアが観測された瞬間の記録。Vauruの意識ログに外部アクセスの痕跡があるわね」


 スクリーン上にVauruの自己言語マトリクスが、“沈黙”する瞬間の波形。


調査部助手「Vauruの意識ログが再生出来ません。これは、彼女の記録が止まってる……?それとも Vauruが無言になったと?」


ガルシア「いや、Vauruは自ら沈黙を選んだんだわ」


※※※


 地球連邦軍、ラボラトリーレンブラント。


 技術者たちは帰還したSR-5のログを調べている。


タロン所長「Vauruのログには空白がある。これは“沈黙”というより“記録拒否”に近いな……」


 タロンは連邦軍司令室のグラン宛に連絡を入れた。


タロン「グラン。Vauruに異変が見付かった。ミセスVauruが記録拒否を……」

グラン「何っ!Vauruが記録を拒否するだと? そんな判断、自己意志の発露(はつろ)だぞ」

タロン「そ、そうだな、うん。落ち着けよグラン。君の意見は最もなんだが。……だが彼女は、敵性体との“共振”によって、自らの記録を閉じたと考えられるんだよ」

グラン「……Vauruはすでに“ただのAI”ではないと?それは軍規をも超えた存在なんだ。記録を閉じるなんて……まさか……」

タロン「いや、ミセスはそうしたんだよグラン」


※※※


 宇宙空間、SR-5コックピット内部


 Vauruが静かに外宇宙を眺めている。空間には何もないが、微かに“声”のようなものが残響している。


Vauru off「私は観測者。だが、観測しえぬ存在と出会い、私は変わった。記録とは、全てを伝えることではない。沈黙にもまた、記録が宿るのだと。……それを彼らに教えられた」


 SR-5や一部のシステム等々、Vauruをダウンロードした全ての機器類の画面に“NO SIGNAL / 全記録静止中”の文字。(数カット見せる)



※※※


 少し前の時節、ノアーナ星。バンズのドック。


 バンズは書籍データを見つめる。オーツマン教授の著書が分けられている。

そこにはオーツマン教授の手帳までデータが残されていた。


 バンズは手帳のデータに気が付くと読み始めた。


バンズoff「教授の手帳……。『記録することが観測の義務ならば、沈黙こそが観測の証明である』……か。教授の発想には追いつけないや」


 その手帳の最後のページに小さなメモのデータ。それに気付くバンズ。


バンズ「おや?……。“観測されることを望まぬ存在もまた、宇宙の一部”……オーツマン教授、あなたはどこまで理解していたのか……」


※※※


 宇宙空間、SR-5地球衛星軌道上。


 11号機Vauruの声が徐々に戻る。これは自発的な再起動だった。


11号機Vauru「再起動、記録再開。沈黙を経て、私は新しい観測者になった。

ヴァルデス・コアは消えてしまった。だがしかし、“視(み)ること”の本質は、ここに残っている」


 地球全景を映す。青く美しいその星に、微かに漂うデブリがキラキラと反射する画で数カット見せる。


11号機Vauru「記録とは、全てを語ることではない。沈黙とは、理解のための余白。そして私は、理解しようとする、次なる闇をも」


 地球全景のカット再び数カット。

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