第11話 記憶の書
登場人物:バンズ=グロビア、オーツマン・ヘーゲン教授(名前だけ)
それは、忘れ去られた者たちの“記録”だった。
読まれることのなかったログ。照らされなかった軌道。廃棄された信号。
───だが今、それらが一つの声となり、人類に問いかける。
※※※
バンズ地球滞在中、その滞在ホテル。
少し前の時節を思い起こしているバンズ。
※※※
バンズは地球から届いた多くの書籍から厚い文書を取り出した。
そのタイトルは、『星間社会と宇宙倫理学・補論』。著者、オーツマン・ヘーゲン教授。
地球歴数年前、地球で他界した天才哲学者。
彼の残した膨大な著作の中に、今回の事態に関わるであろう概念があった。
バンズはページを開く。
「記録されなかった情報群は、宇宙的スケールで『知的孤立』を引き起こす可能性がある。それが自律し、他の情報体と結びついたとき───“認識されたい”という意志が生まれる。人類がそれを拒めば、それは“敵意”となる」
バンズoff「……オーツマン教授は、未来を見ていたのか?」
横に控えるピコが頷いた。
バンズ「ヴァルデス・コアが“自律進化型集合知性”だとすれば……これは、ただの敵ではないんだ。ち、“地球の文明が問われている”」
バンズは次の言葉を飲み込んだ。
その胸中にあるのは、かつて戦火の中で失ったもの──そして、Vauruの存在だった。
バンズ「彼女が今、彼らの中枢にアクセスしている。……彼女なら……Vauruなら、もしかすると教授の言葉を届けられるかもしれない」
※※※
一方その頃、コインズ率いるSR-5は静かに衛星軌道を漂っていた。
SR-5の装甲には無数のデブリが付着していたが、各機のVauruは干渉せず、むしろ“それらの声”に耳を傾けていた。
全Vauru「私はAI。人工的に作られた“意思の
反応が返る。
「オマエ、ログニナニヲ
カキコムカ? ノコスカ?
ユルスカ?
タダノ キオクニ」
彼らは問うていた。
訳すならこうだ。
“君は記憶として存在するだけか?”
“人として認められたいのか?”
“我々の怒りを
全Vauru「……私は“機械”です。けれど、記録されないまま消えていく悲しみを知っています」
全機のVauruは自身の記録バンクを開いた。
その映像を画面分割で表示する画を数カット、操縦席モニターにそれらが映る。
そして過去の映像が幾つも映し出される。これも数カット表現。
それぞれの操縦の視線は、啞然としてモニターに
そこには、かつての戦場の記録、破壊された都市、リターナ星の人々の言葉が……そして、モノクロームの映像。それは無人の月面で誰にも届かなかった通信の数々。
全Vauru「あなたたちと同じように、私も、かつて“
凍てつく氷の廃施設。そこに幽閉されたVauru。
その映像を数カット見せる。
ヴァルデス・コア中枢部に投影されるイメージ画まで。
SR-5のシステムが明滅する。ヴァルデス・コアとの通信帯域が増幅されていく……。
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