『転生したら魔法ゼロだったけど、スラム街の美少女たちが可愛すぎて生きるのが楽しい』

リューガイ

プロローグ

『魂と精神の安寧の場所、エルディアウェル』


 ──あ、やば。これ、死ぬやつだ。

 最後のメールを送信した瞬間、あたしはデスクに突っ伏した。

 深夜二時。オフィスにはあたしひとり。

 パソコンの青白い画面だけが、あたしの顔を照らしてる。

 納期三日前倒し、休日出勤、徹夜三連続。

 35歳、彼氏なし、趣味はエッチな妄想。百合とかBLとか、カップリングとか、そういうの。

 誰にも頼れず、誰にも甘えられず、ただ働き続けた社畜人生の果てがこれかと思うと、ちょっと笑えた。


(あたし、死んだんだな……)


 でも、怖くはなかった。

 オカルト系は平気だし、幽霊とか魂とか、むしろ興味ある方。

 ただ──虫だけは無理。特にG。あいつらだけは、地獄に落ちてほしい。


 そして、あたしは目を覚ました。

 そこは、水の中みたいな場所だった。

 深く、静かに、潜っていくような感覚。

 カラフルな水草が揺れて、光る泡が浮かび、羽の透けた妖精たちがふわふわ漂ってる。

 幻想的で、綺麗で、ちょっとエロい。

 あたしの妄想癖がうずくくらい、完璧な空間だった。


「ようこそ、魂の泉──エルディアウェルへ」

 声がした。

 光の中から現れたのは、金髪碧眼の美女。

 背中には羽じゃなくて、淡く揺れる光の尾。神様っぽいけど、どこか人間くさい。

(女神?おっぱいが多きすぎるんですけどぉ、役得かしら?)


「ここは、死者の魂が集う場所。前世の記憶を忘れ、次なる魂へと転生される場所。エルディアウェル。善人は天国へ、悪人は地獄へ。不慮の事故で死んだ者には、特別なスキルが与えられ新たな人生へと昇華します」



「へぇ……じゃあ、あたしは?」

 あたしがそう聞くと、彼女──創設神ルビスは、ちょっと気まずそうに指先を合わせた。

「ええと……その……処理が追いつかなくて……

 色々諸々、忘れちゃいました☆」

「は?」

「でも大丈夫! 安心して、あなたの魂には“現代知識”が深く刻まれてました。

 医学、農学、機械工学、薬学……あらゆる知識をスキルとして付与しました!

 それに、前世の記憶も!!」

「転生先は、魔法と剣が支配する世界です。モンスターはいますが、魔王は数百年前に滅び、勇者も今では伝承の中の存在。

 あなたは、魔法国の一都市に転生されます。えっと、あの…魔法の力も付与し忘れちゃってまして…」

「いやいやいや、魔法がすべての世界で魔法ゼロって……詰んでるじゃん」

「……あたし、それに、魔法使えないのに魔法国って、罰ゲーム?」

「どうか、あなたの知識で、世界に優しさを灯してください」

「がんばってくださいねぇ、ルビスの加護があらんことを…」

 ルビスが微笑むと、早々に姿を消し、あたしの身体は光の泡に包まれていった。


「ちょっ…まって…おっぱい大きい女神様…って…わぁぁぁぁぁぁぁ」


 水中を潜るように、深く、静かに、世界の底へと沈んでいく。

 カラフルな水草が揺れ、妖精たちがあたしの周囲を舞う。

 その瞬間、あたしの魂は、異世界へと転送された。

 魔法ゼロの少女として──

 でも、知識と妄想とコミュ力を武器に、世界をちょっとだけ変えてやる。


「わたし、ユイ。16歳美少女やってます。魔法力ゼロです」

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