僕(私)は狂っているのでしょうか?

霜月神舞

第1話:歴史が絡むと難しい……。

〜その日〜

 


 父の部隊は「ことごとく玉砕ぎょくさい」した、と書かれていた。

 


 新聞は誰よりも先に取る。


 母よりも。

 弟よりも。


 一番早くに家を出ないといけないなど、色々な理由があるが、父の安全が知りたい、というのが一番の理由だろう。


 

 玉砕。


「玉が美しく砕けるように、名誉や忠義を重んじて、いさぎよく死ぬこと」

 


 その日の知らせ。




 〜それは、全滅という意味の知らせであった〜


 





 父が、死んだ。


 美しいとされた死に方で。


 父は悔いのない死に方ができたのだろう。

 神社で軍神ぐんしんとして祀られる上に、国を勝鬨かちどきへと導く役割を果たしたのだから。


 よかった、と思った。


 台所へ行く。


 母が「新聞は?」と訊く声を無視し、階段を上がり、弟の部屋まで行く。

 そして……


 ドスッ


 包丁をその喉元に突き刺した。


「ちょっとはる〜! 新聞は〜? あと功一こういち! そろそろ起きなさい!」


 反応がない事を起きようとしていないと捉えたのか。

 母は階段を上がってきた。


 ガチャ

 

「母さん!」

 

 戸を開けたタイミングで母に抱きつく。


 そのまま首に刃を突き立てる。


 ドサッ


 母が倒れ、ゆっくりと血の海が広がる。


「ははは、ははははッ」


 笑う。破顔わらう。


 倒れた母の目がなにかを訴えてくる。


 その目を見て、なぜだか涙が頬を伝う。


 でも、見せちゃダメだ。


 一階に駆け下りて、荒く息を吐く。


 そう思いながら自分の喉に向けて刃を突き刺した。




 

 この事件は騒ぎを起こした。

 

 本来ならば新聞に載るようなモノ。

 本来ならば近所の人達から忘れもされないであろうモノ。

 

 だが、その直後に起きた大空襲の悲劇によって、その事件はないものとして、埋もれ去った。

 




 ねえ。

 教えてください。

 

 こんな死に方を選んだ私は、狂っているのでしょうか。

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