一年越しの甘い約束。

天照うた @詩だった人

君と分ける甘い瞬間。

 お越しくださってありがとうございます!

 こちら、昨年「ポッキーの日」記念で出した「恋の味」と大変関連性の深い作品となっています。

https://kakuyomu.jp/works/16818093088404507736

 読んでいただけた方がより深くイメージできると思われますので、逆に読まないと理解が厳しい気もしますので、ぜひご覧頂けると幸いです。

 前置きが長くなりました。きゅんを詰め込んだポッキー小説、ぜひお楽しみください!!!


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 11/11

 それは、年に一度のポッキーの日……

 そして、あたしとの記念日。


◇◆◇◆◇◆


 あたしたちは年をまた一つ重ね、高校二年生になった。まぁクラス替えがなぜかなくなったおかげで今までとも全く変わらない日々なのだが。

 でも、もうあの日から一年たつのか……。そんな風に考えると、なんだか感慨深くなってくる。

 実は、あたしはまだ白狼に対して答えを出しあぐねている。まだ皇子くんへの思いが完璧に消し去れたわけじゃ、ないんだもの。

 自分でもめんどくさいなぁってつくづく思う。

 白狼はめっちゃいいやつだし、隣居て安心するし、楽しいし。

 自分でもおかしいって知ってる。わかってる。

 別にあたし、白狼のこと嫌いじゃない。みんなが怖いっていうのはちょっとだけ目つきが悪いからで、無口なのは口下手だからで、本当はすっごく優しい人。

 ……でも、そうやって言ったら「恋でしょ」って言われたんだよね。意味わかんない! 恋っていったいなんなんだー!!

 そうやって心の中で叫んでいると、ぴったり噂の人物がひょこっと顔を覗かせてきた。


「よー彩依あい。おはよ」

「うえっ、あ、おはよ! 白狼!」


 あ、やばい。あたしめっちゃ慌てちゃった気がする。

 気づかれちゃったかな。どうしよう……。

 その時、あわあわと口許くちもとを抑えようとしたあたしの右手を白狼がとって、唇を近づける。まるで、口づけするかのように……て!?


「白狼!? なにやってんの!?」

「えーいいじゃんちょっとくらい」


 白狼があたしの手を取っていた力はほんの少し。たぶん、あたしが嫌がったらすぐ逃げ出せるようにしてくれたんだろう。


「……こーゆーとこまで優しいの、まじむかつく」

「ん? なんてった?」

「白狼がばかだなって、それだけ!」


 やばい、もうそろそろ限界。たぶん顔真っ赤。ほんとやばい。

 なんかクラスのみんなもこっち見てる気がするし。逃げさせてよ!!

 猛ダッシュで教室の扉から飛び出そうとしたその時、勢いよく誰かに当たった……ん?


「え、皇くん?」

「あ、ごめんね。当たっちゃった? 怪我とかあったりしない?」

「あ、大丈夫……です」

「ならよかった」


 「じゃあね」と去り際に皇子くんは笑みを浮かべた。通称、皇子様スマイル。

 碌な反応を返せないまま廊下に出る。冬の冷たい風が、優しく、でも少しだけ強く頬を削った。

 ……あたし、誰が好きなんだろう。

 白狼に告白される前なら、皇子くんにあんなはっきり振られる前なら、さっきのことなんて「運命だ!!」って言ってあたし、めっちゃはしゃいでたと思う。

 だけど、あたし今、どきどき、感じなくなっちゃった。あたしは恋なんてしていいのかな。そんな強い感情じゃないや。あたし、どうすればいいのかな。


 何となくさまよった先にあったのは、学校の購買。去年、うきうきしながらここでポッキー買ったなぁなんて懐かしくなっちゃう。手元には財布。まぁなんとなく買っておくかと手を伸ばしたポッキーは数円値上がりしていた。世の中ってつらい。

 それでも買ってしまった。てか普通にポッキーはおいしい。

 あたしの財布が悲鳴を上げかけてる? そんなのは……しらない!


◇◆◇◆◇◆


「ねぇ十彩よ」

「なに」

「なんか視線が痛い。気のせい?」

「多分気のせいじゃない。私も感じてる」


 昼休み、お弁当とともにポッキーを食しているところである。

 なぜこんなに視線が集まってくるのか。あたし、なんか望まれてます? え、期待にはたぶん応えられないよ?

 しかし、あたしが十彩にこんなことを聞いているとも知らない純粋な少女がここにいた。

 あたしの隣でお弁当を食べていた友達である。


「ね、彩依ちゃん。せっかくポッキーあるのに、ポッキーゲームしないの?」

「!?」


 あー……なるほど。あたしに求められてたのはポッキーゲームと!

 いやいやちょっと待って無理無理無理。誰とやれというの?

 憧れの皇くんには去年玉砕して、友達はたぶんみんな気になる人とかいるし!


「やらないよ!? 逆に誰とやれっていうの?」

「そりゃ決まってんでしょ」


 口を出したのは十彩。

 やれやれ、とため息を吐いた後ににやっと口角を上げ、あたしの耳元に彼女がささやく。


「……愛しの白狼」

「ば、え、へ!?!?」


 え、へ!? 何それ、愛しとか意味わかんないよ!

 あたしと白狼はただの幼馴染で。でも……


「彩依、白狼のこと嫌いじゃないでしょ? 去年の話を聞くに、あいつ待ってんじゃない? いってきなよ」

「……いくだけだからね」


 ……会いたいって、ちょっとだけ思っいてしまった。

 この空気から逃げたかったのももちろんだけど、白狼とふたりきりになりたいって思ってしまった。ほんのちょっとだけ。

 気持ちを整理したい? そんな簡単な言葉じゃ済ませられないかもしれないけど、このままがいっちばん嫌だった。

 白狼はきっとあの場所にいる、それは確信していた。

 あたしはポッキーを持って駆け出した――。


◇◆◇◆◇◆


 屋上。あたしの大好きな場所。去年の、告白の場所。

 鼻を真っ赤にして白い息を吐いた白狼がやっぱりそこにいた。


「……なんでいてくれちゃうの」

「へへ、彩依は俺を迎えに来てくれるって思ってた」

「なにそれ、あたしは皇子くんじゃないのに」


 白狼の前だと、少しだけ素の自分になれる気がする。取り繕わない、そのままの自分でも彼なら認めてくれるって。知ってたはずなのに、なんか改めて感じちゃう。


「ねぇ、白狼」

「ん?」

「白狼ってさ、まだあたしのこと……」


 『

 この二文字を、どうしても口に出せない。だって、立ち直れないかもしれない。

 『好き』はあたしの禁句タブーだ。一年前、振られた日からずっと。

 軽率な気持ちで口にしちゃいけない。そうしたらまた、よくないことが起こるかもしれない。

 思わず俯いたあたしの頬に白狼の大きな手がそっと添えられる。その手は冷たいはずなのに、どこかあたたかかった。


「ずっと、好きだよ」


 一年ぶりの告白。あの日と、ほとんど同じのシチュエーション。

 でも、今回は。

 私はポケットから一本のを出す。そして、白狼の口にそれを差し込む。


「ね、白狼。あたしとポッキーゲーム……してくれませんか」


 君が赤くなる。

 君がゆっくり、うなずく。

 私はその反対側を咥える。

 ――一年越し。私たちの、不器用な恋が始まる。


「「よーい、どん」」

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