第16話 シェアハウスと虫の脅威

第7艦隊、出撃。

目的地は辺境のコロンニャ星系――救援任務だ。

ゲートウェイを使っても、航行はおよそ100日。

長い、そしてつまらない遠距離恋愛の旅が始まる。


前回の帰港時には100日という長い遠距離恋愛の道のりを、ハナの”下着誤爆が恥ずかしすぎて自害未遂病”で看病されるという事態によりあっという間に過ぎ去った。


今回の100日間の緊張を伴う遠距離恋愛行軍は、エルミナの機転により予期せぬ方向へ進む。


ゲートウェイ突入前の準備期間、ゲートウェイの出力充填とリンクには10日ほどかかる。

その間はゲートウェイ前に停泊し、艦隊通信を使った軍議を日夜繰り返していた。


「ハナちゃん、今回の遠征は考えることが多い。敵の様子が不審すぎるんだ。」


「そうね、確かに今回は不気味な感じを受けるわ。」


「おい、エルミナ。提督に失礼だ。仕事中はフクオカ提督と呼べ。」


「硬いな、フクオカ。この会議には私達しかいないんだ。いいじゃないか。

 お前もハナさんって呼べよ。」


(あー?えー!ナイスアシスト!!!)


「あ、ええ。フクオカ君もハナと呼んでくれてもいいわよ。」


「ダメです。軍規の乱れは咄嗟に部下の前でも出ますから!

 提督とお呼びしろ、エルミナ!」


(……ケチ)


「堅物だなぁ。まぁいいや。実は提案があるんだ。」


「何?」


「これから100日は、作戦会議はかなりの頻度で必要になると思うの。

 今は首都星系だからいいけど、辺境に近づくと、

 敵の傍受も心配しないといけなくなる。

 ハナちゃんの旗艦のメルローニャに臨時に艦隊司令部をつくるのはどう?

 少し改修と引越しが必要だけど、私とフクオカの執務室と

 私室を幹部フロアに用意してほしくて。」


「……。なるほど、内地にいる間は僕達も自艦で指揮を執る必要はない。

 メルローニャで顔を合わせて、密に会議した方が利点は多い。

 悪くない案だ。」


(え?いいっ!それ良い!!

 同じ屋根の下、狭い空間で、フクオカ君とシェアハウス状態!?

 夢の100日!?)


「そうね、この緊急事態を考えるとそれくらい必要かも。」


「二人とも賛成ね?じゃあ、手配しておくわ。

 とりあえず引っ越ししなきゃね。

 フクオカ、もしかしたら廊下でルームウェアハナちゃんと

 鉢合わせるハプニング付きだぞ?

 よろこべ~!」


「ぶふっ!馬鹿!何言ってるんだ、お前は!」


フクオカの照れ隠しの一言で、ハナの感情が爆発する。


(あ……そういうことか!!!

 エルミナ!そこまで考え尽くして……。)


猫耳ピーン


(じゃあじゃあ、夜眠れないからって二人でお酒傾けたり……。)


ぷるぷる


(きゃああああああ!!!!)


ぱたんぱたん


(エルミナ!ボーナスアップしてあげるね!

 もうね、マックス評価っ!!!振り切っちゃう!)


ぴこーん!


面白いくらいハナの猫耳が暴れまわった。


「嬉しそうな顔してるじゃないか!」


エルミナはフクオカに向けて言ったつもりだったが、ハナまで顔が真っ赤になる。

その様子をチラッと流し見たエルミナが思わず吹き出しそうになる。


「……。へんな邪推するな!今は非常事態なんだぞ!」


フクオカは緊張のせいか、ハナの興奮には気づいていないようだった。


ハナもハッと我に返って真面目モードに切り替える。


「早急に移動を完了してほしい。敵の情報は常にコロンニャから入手すること!

 では今日は解散。」


そして通信を切った後、ハナは提督室内の応接ソファーで転がりながら悶絶した。


・・・

・・


航行道半ば。夜23時を回った所。


ピコン、ハナの個人端末にエルミナからメッセージが届いた。


『ハナちゃん、お風呂入った?』


(エルミナからだ。なんだろう?)


『ちょうどさっき入ったよ。何で?』


『ベストタイミングっ!シャンプーとか石鹸の匂いしてる?』


(うわ、エルミナにしては珍しく返信早い。なんだろう?)


『わかんないけど、多分?』


『ちょうど緊急で軍議を開きたいの。

 こんな時間だし、二人してお風呂上がりのルームウェアでフクオカを誘惑するよ!

 もちろん主役はハナちゃんだ!』


(えええ!?!軍議に公私混同!!でも許す♡)


『わかった、恋参謀、これには深い理由があるんだな!?』


『もちろん、お風呂上りの石鹸とシャンプーの香りで、

 撃破されない男はいないです!』


『了解、エルミナ、いつもありがとう!このお礼は必ず!』


『Orbis Felinéeのセレニャール・ヴェルティカ173年新作モデルのバッグを所望します♡』


エルミナからハナとフクオカに向けて緊急の警告付きメッセージが届いた。


”緊急事態につき、すぐに打ち合わせを行いたい。ハナ提督の執務室に即時集合。”


ハナとエルミナがルームウェアのまま、ハナの執務室に集まり、事前に情報端末へのデータ転送等を行っていた。

そこへバッチリと軍服に着替えたフクオカが慌てて飛び込んできて、二人の姿を見て噴き出した。


「プっ…なんて格好してるんですか!?」


「え?フクオカ、お前こそ、緊急なのに何わざわざ着替えてきてるんだ!

 もし1分1秒を争う絶体絶命のピンチだったらどうするつもりだったんだ?」


「あ?なんで僕が悪者扱いされてるんだ?!」


「まぁ、いい、フクオカも座れ!」


ハナの隣の席に案内された。座ると同時にハナから石鹸といつものシャンプーの匂いが届く。

フクオカの手が小刻みに震えていた。


「で、エルミナ、何が起きたの?」


「はい、どうやら、コロンニャ星系要塞の星系レーダーがジソリアンによって破壊されたようです。」


「敵の動向がつかめなくなった……。ということね。急がないと……。間に合わないかもしれない!」


「少し懸念があります。

 コロンニャ星系要塞は現在は星間通信施設も破壊されたようで、

 通信が繋がりません。

 ですが、彼らからの最後の通信で、敵は星系レーダーと星間通信施設、

 それと砲台のみを狙い、要塞と星系の侵略・制圧に積極性が

 見られないとのことです。」


「まさか、誘っている?」


「はい、その可能性も。」


「それか通信を切ってから星系要塞を制圧して、我々を嵌めようとしているか。」


「それも考えられます。ん?フクオカ?聞いているか?」


プルプル震えながら、緊張したようにしているフクオカに向けて静かに、そして、いらやらしい笑みを浮かべながらエルミナが問いかけた。


「大丈夫だ、聞いている。」


「フクオカ君の意見も聞かせて?」


ハナがゆっくりとフクオカの方を向くと、髪が流れてフクオカの周りにハナの香りが満ちた。

無防備系のハナのルームウェアをチラ見した後、目を瞑る。


「……。」


(フクオカ君、撃沈した!?)


ハナが、エルミナにアイコンタクトを行う。

エルミナが口パクで応えた。”意識してます、これ”


「すみません、ちょっと頭を整理します。」


「もはや、到着時には敵の情報は掴めません。

 突入直前には偵察機を飛ばすなど必要です。

 敵国内での戦闘と変わりありませんね。

 フクオカ、あんたもそう思う?」


「……。あーもう!

 エルミナ、お前、僕をからかって面白がっているだろう!

 フクオカ提督、エルミナに誑かされてはだめですよ。

 僕は男です。あまり油断してはなりません!」


「あ…、はい。」


「状況はよくわかりました。

 明日には考えと戦略をまとめて持ってきます。

 今日は夜遅いので解散しましょう。」


そういうとフクオカは資料を端末に転送して、部屋から逃げ出した。


ポカンとするハナに向けて、エルミナが笑いながら告げた。


「大成功です。意識しまくりです。

 あの難攻不落のフクオカも陥落が近いです!」


「え?ほんと!?」


「はい、あと一押し、この戦争が終われば……。

 絶対に食いついてきます!」


「あぁはぁぁぁ。難攻不落がついに陥落……。」


「ハナちゃん、ちょっと手を借りますよ。」


紐で薬指のサイズを測る。


「今度リークしときます。」


(え?それって……。)


「この情報、リゾート地のメニャドゥの別荘くらいで売れるかな…?」


「ん?何?」


「いえ、こっちの話です。」


・・・

・・


翌日、フクオカがハナの提督室を訪れた。昨日とは打って変わった真面目な表情だ。


「こちらでも裏が取れました。エルミナの情報と一致しています。

 これがあらわすことは、間違いなく、敵は第7艦隊、あるいはフクオカ提督、

 あなたの命を狙っている可能性が高いです。」


「……。私も……そう感じている。」


「これは、想像以上によくない展開です。心して当たる必要があります。

 でも、過剰に心配しないでください。僕は必ず提督をお守りします。

 そして……。いえ、何でもありません。

 油断はなさらないと思いますが、気を引き締める必要があります。

 奴らは虫型の知的生命体、我らとは根本からして異なる可能性がありますから。」


「フクオカ君……。」


敵の情報がつかめなくなった。これは文字以上の深刻さを第7艦隊へ与える。

ハナの幸せな気分とは裏腹に、状況は刻一刻と悪化していた。


【あとがき】

『タイトル:提督の「シェアハウス」妄想日誌』


シェアハウス開始!そしてフクオカ君が震えた!?


ハナです!前回の敗北(と自害未遂病)を乗り越えて、97日間の遠征が始まりました! そして、恋の参謀長・エルミナの神アシストにより、なんとフクオカ君と同じ旗艦でシェアハウス状態に!夢の100日間です!


早速、エルミナの**「お風呂上りルームウェア軍議」が炸裂! 石鹸とシャンプーの香りのハナの隣で、フクオカ君は小刻みに震え**、「油断してはなりません!」と逃走!


エルミナも「大成功!難攻不落の陥落も近い!」と太鼓判を押してくれました! しかも!エルミナが私の薬指のサイズをコッソリ測ってくれたんです!(メニャドゥの別荘くらいの等価価値って言ってたけど、何の話!?)


ですが、物語は急展開です。


敵はコロンニャ星系要塞を破壊し、我々を誘い込もうとしている。フクオカ君は真剣な顔で**「敵は提督、あなたの命を狙っている」**と警告しました。


そして、**「僕は必ず提督をお守りします」**と宣言!!


次回、第17話では、フクオカ君とエルミナが秘密裏に調査していた**「ジジキシ」の恐るべき意味**が遂に明かされます!そして、シェアハウスでの生活は…!?


ご感想、スタンプ、「フクオカが言いたかった『そして』の後の言葉」予想、そして「ジジキシ」の真の意味など、どんな些細なものでも大歓迎です! もしよろしければ、評価やブクマをお願い致します。 レッツログイン、ボタンぽんっ!


(ひろの)

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