第6話 敵の”ど真ん中”
「全艦、第一種戦闘配備、ゲートウェイに突入する。
油断するな!この先は敵領土だ!!周り全てが敵と思え!」
ニャニャーン星系とトーナ星系のゲートウェイが接続される。
それと同時に切断準備が開始された。ジソリアンに見つかった。
切断された後、ロックされるだろう。
「全艦、全速前進、ゲートウェイに突入せよ!」
ハナの第7艦隊62隻が一斉に進行し、ゲートウェイの中で粒子状に分解される。
同時にトーナのゲートウェイから再構築されて現れた。
全艦が問題なく転移完了したのを見て、ハナが指示を連発する。
「全艦!密集!方円隊形で待機!
レーダーの情報をリンク、統合せよ!」
自領星系内であれば星系要塞内の高出力星系レーダーから得られる情報を全艦艇がリンクできる。
そのため、正確な情報が即座に入手できるが、敵領地となると、そうはいかない。
範囲は限られてしまうが、各艦艇のレーダー情報を統合して判断するほかない。
リンクされた情報がハナの提督席の操作パネル状のモニタに投影される。
ハナの視線は高速で動き回り、各所の情報や敵勢力の位置をインプットする。
そして頭の中で作戦として整理していく。
「全艦、主砲準備!後方のゲートウェイに一斉斉射!」
真っ先にハナはゲートウェイの攻撃に動いた。
おそらくこれを使っての帰還は望めない。
それであれば敵の増援を防ぐべきだ。何も破壊までする必要はない。
しばらく使えなくしたら十分だ。
一斉に撃ち込まれたX線レーザー砲がゲートウェイを焼ききっていく。
大きな爆発が何箇所かで発生し、一部の区間の電気が落ちた。沈黙したようだ。
「斉射後は衡軛(こうやく)隊形に変更、宙域122Yへ最大船速で移動せよ!」
流れるように艦隊隊形を変更し、目標宙域へ一斉に亜光速移動する。
よく訓練された動きだ。
星系要塞の巨大要塞砲がギリギリ届かない宙域122Yへ
移動が完了するとすぐにハナは再び指示を出す。
「全艦、トーナ星系要塞に向けて主砲斉射!狙いは星系レーダー!
2射目以降は星間通信施設を狙え!徹底的に破壊せよ!
こちらの動きをクル=ポク提督に悟らせるな!
3射後、急速反転、衡軛(こうやく)隊形を維持したまま、
全速力でコロンニャへ向かえ。
集結後、FTLジャンプの準備を行う!」
第7艦隊は62隻で構成されており、本隊22隻をハナが、
左翼隊20隻をフクオカ副提督が、右翼隊20隻をエルミナ参謀長が統率している。
右翼隊旗艦の戦艦パファルーニャの艦橋内、艦長席でエルミナが呟いた。
「ハナちゃん、すっご。」
そのまま、エルミナは左翼隊旗艦の戦艦ニャルローレッド の
フクオカ中将にパーソナル秘匿通信を繋ぐ。
接続されてフクオカ中将が映し出されるが、
何かに熱狂するかのように宙域を見つめている。
「フクオカ、聞こえる?」
通信に気づいて、慌てて冷静な顔に戻った。
「どうした?エルミナ中将。」
「ハナ提督、さすがね。」
「あぁ、これで奴らは我らの狙いが星系要塞への打撃と考えるだろう。」
「えぇ、現にレーダーでは駐在防衛艦隊が要塞に集結してるわ。」
「星系レーダーに損傷を与えたため、目くらましもできている。
我々がコロンニャに急行する障害はもうない。
クル=ポクへの情報も遮断した。
まさか背後から我らが現れるとは思うまい。
さすがフクオカ提督。
あの短時間で、よくここまで情報を整理して戦術をまとめたものだ。」
「そうね。
ねぇ、フクオカ、さっきから、あんた目がキラキラしてるけど、
ハナ提督に惚れてるでしょ?」
「え?あ?まっ待て!
僕のこの高揚感が惚れているというならば、
この艦隊の1万人全員がフクオカ提督に惚れていることになるぞ。」
「ふぅん、あっそ。じゃあ切るね。」
フクオカ中将が唾をのみ込んだ。
すべてが、ハナの思惑通りに進んでいた。
トーナ星系の最外縁部に第7艦隊は集結した。
この先に確立されたFTL航路が存在する。
「各艦、システムチェックを急げ!
このままFTLジャンプでコロンニャに突入する。
まだ星系基地が落とされたという報告はない。
ジャンプ後は星系レーダーとリンクし情報を把握せよ!
フクオカ中将、左翼、問題ないか?」
「は!問題ありません。提督、さすがです。
敵はトーナ要塞から動けないようです。」
(今年2個目の”さすがです”、ゲットぉ~!)
「そうだな、FTLジャンプ中に背後から狙われたくないからな。
エルミナ中将、右翼はどうだ。」
「問題ありません。いつでも行けます。」
「よし、全艦FTLジャンプ!コロンニャで”黒光る甲殻”艦隊と決戦する。」
各艦のFTLドライブの出力が上がっていき、艦体が粒子状に分解されていった。
船酔いのような感覚に襲われた後、再び通常状態に戻る。
第7艦隊はコロンニャに到着していた。
すぐに各艦はコロンニャ星系要塞とリンクし、星系レーダーの情報を入手した。
ハナは再び、高速に視線を動かし、星系内情報を隅々まで把握した。
エルミナから通信が入った。ハナ、エルミナ、フクオカがグループ接続される。
「ハナ提督、敵本隊は我が軍の星系要塞を牽制するように展開しています。
背後を取った奇襲ではありますが、少々距離があります。
今から全速で突撃しても、途中で気づかれ後背攻撃は無理です。」
ハナは静かに頷きながら聞く。
「ですが、略奪目的で彼らは分艦隊を3か所に展開しています。
ここは我らも3分割して、同時に各個撃破を提案します。
奴らは4分割している都合上、局所的に我らが有利になります。」
エルミナの提案にハナも微笑んだ。
「さすがエルミナね。私もちょうどそれを考え始めていたの。
頼りになる参謀だわ。フクオカ中将はどう思う?」
「あ、はい。僕もその作戦に賛成です。」
少しだけ歯切れが悪い。先ほどのエルミナの一言が堪えているようだ。
「では時間がもったいない。
私が宙域89、エルミナが宙域112、フクオカ中将が
宙域23の敵分艦隊を担当して!
各隊、健闘を期待する。出撃せよ!!」
ハナ、エルミナ、フクオカの3つの分艦隊がジソリアンの略奪分艦隊に向けて全速で襲い掛かった。
3人は敵の動きを先読みして、本隊への合流を阻止し、正面からの撃ち合いに持ち込んだ。
正攻法であれば戦力の大きい方が圧倒的に有利だ。
ハナ、エルミナ、フクオカの3艦隊は敵を圧倒していく。
ハナとエルミナの分艦隊が敵を壊滅状態に陥れた。
そのまま、合流ポイントに向かう。
だが、予想外なことに、フクオカ分艦隊の動きが鈍かった。
もちろん勝利するだろう。だが、時間がかかりすぎている。
(フクオカ君!?どうしたの、いつもらしくないっ!!!)
情報士官が大声で報告した。
「提督!敵本隊が左翼分艦隊に向けて進軍。
このままで左翼隊が挟撃されます!」
(え!?フクオカ君が危ないっ!)
「本隊、左翼に向けて最大船速で急行せよ!」
エルミナからも連絡が入った。
「ハナ提督、右翼隊、回り込んで敵本隊の退路を断ちます!
左翼の援護はハナ提督にお任せしますっ!」
(あ……ここは戦場。ちゃんと勝ち切る戦術が必要なのに……。
私……我を忘れて……。
ありがとう、エルミナ!ホント頼りになる!)
「了解した。エルミナ中将、急いでくれ!三方向から包囲返ししてやる!」
(フクオカ君!なんとか耐えて!!!)
ハナの猫耳が項垂れているのをみて、エルミナが一言添えた。
「ハナさん、あいつは大丈夫です。焦らないで。」
【あとがき】
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今回のお話、軍事的で難しいなぁ、読み疲れたなぁって思った方、
安心してくださいっ!軽く流し読みしていただいてOKです。
ハナちゃん、結構やる女だな!くらいでいいんです!
だって、このお話のメインはハナの中学生級ラブストーリー@27歳(ぉぃ!)なんで!
ハナちゃんの勇姿が見たい読者さんは応援よろしくです!
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『タイトル:提督の戦場日誌』
フクオカ君が危ないっ!!
ハナです!いや、もう提督として平静を保つのがやっとです!
奇襲は成功しました!トーナでの作戦も完璧、敵分艦隊の各個撃破も順調…だったはずなのに。
なぜフクオカ君の左翼分艦隊だけ動きが鈍い!? 「黒光る甲殻」艦隊の集中攻撃を受けて、このままでは挟撃されてしまいます!
お願い、フクオカ君!なんとか耐えて!
「提督」としての冷静な判断と、「恋する乙女」としてのパニックが、私の頭の中で大戦争です!
でも、私は知っています。フクオカ君の動揺は、単純な作戦ミスじゃない。彼の背後に、何か恐ろしい罠が潜んでいるのではないか…。
そして、エルミナ参謀長も動きました。三方向からの包囲返し!
ここからはスピード勝負です!
来週、第7話では、戦況が一気に動きます!
果たしてハナ大将は間に合うのか?そして、この絶体絶命の戦場で、ハナの恋は、奇跡を起こせるのか!?
(ひろの)
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