天星の宇宙 銀河の三英傑の一人は別の銀河の高校生

咲良喜玖

導入 転生前

第0話 新の空は青かったはず

 まえがき


 出発地点の話にして、長くなってしまいました。

 すみません。

 しかし今回は、新の性格などを知ってもらうための第0話です。

 こちらを読んでもらえたら、主人公の大方の性格が掴める内容となっています。

 でも次が本当の初回なので、こちらは読み飛ばしてもらっても結構です。

 

 のちに銀河の英雄となる彼をよろしくお願いします。

 明るくて前向きな面がありつつも、人見知りに近い性格を持ち、陰キャな部分が目立つ彼ですが、末永く可愛がってもらえると嬉しいです。

 偽りの英雄から本物になろうと努力する彼を応援してくださるとさらに嬉しいです。

 それでは、始めます。



―――――――――――――――――――――――


 ゲーム内の仲間たちと戦場に立つ俺は、最前線で見張りをしてくれた人の連絡を受けた。


 『シンちゃん。こっちには敵が来てないけど。このままあたし、ここにいた方がいいの? 進軍した方がいいんじゃない? さすがに守ってばっかじゃ・・・』


 音声チャットから聞こえてくる声に不安が混じっている。今の苦しい戦況を打開したい。オハナさんの声にはそんな思いが見え隠れしている。

 このままだと、負けに近づいていると思っての事だろう。

 いや、それもあるのだろうが、当主から戦争指揮代理を任された俺が、一番若いから余計に不安になったのかもしれない。


 「それでも待機です。まだまだこのタイミングでの正面衝突には勝機がありません。号令の合図まで、進軍は行ないません。特にオハナさんは、絶対に駄目だ。そこの高台は、死守が基本なんです。オハナさんが、そこから動くと、敵がどうしても気にしないといけない部分をこちらから消してしまいます。相手が楽になってこちらが苦しくなります」


 オハナさんがいる高台は、この戦場で最も重要な場所。

 あそこのおかげで、押され気味で苦しい展開で戦ってきている自分らが、実はやや有利の状況になっているのだ。

 それは、彼女がそこにいるからが重要なんだ。

 高台という立地条件。

 それに彼女のスキルの視野が、この戦場全体を把握できる形になっている。

 俺が、そこにいなくても、彼女の力で、こっちの本陣に敵の情報が伝わっているんだ。

 もし自発的に彼女が動いてしまったら、情報がこっちにまで来なくて困る事態になる。

 だからこそ、彼女が重要。それを分かって欲しい。


 『残るのが重要なのね』

 「はい。オハナさんが勝利の鍵ですよ」


 戦況報告を聞いた俺こと坂巻さかまきあらたは、戦国国盗ゲームの協力型RTSゲームの金字塔『覇王伝』の国家戦争の真っ最中だ。

 このゲームは、内政。外交。軍事。

 これら三つを複雑に絡み合わせて、ゲーム内の仲間たちと共に群雄割拠の戦国時代を戦い抜くゲームだ。

 本格的国家運営を基軸として、つい最近にメジャータイトルにまで昇格した。

 だから最近、このゲームに参加する人が増えてきたんだ。

 ちなみに俺は、三期前からやっているので、だいぶ古参な方だ。

 協力型RTSゲームとして、このジャンルではトップだろう。


 このゲームの肝の三つ。

 これはどれも疎かに出来ず、一つでも怠ってしまうと、この戦国の時代を生き残れないシステムになっている。


 『内政』

 NPCから出るクエストをこなす事だったり、自分たちの力で支配領域内で内需を生み出して、経済的発展を促し、他国に負けたいための軍事力の基盤を作り上げる。


 『外交』

 他国との交渉をして、相手と同盟を結ぶのか。従属させるのか。それとも戦争をするかの話し合いが基本となり、かなり本格的な交渉をしないといけない。ここが他のゲームとは少し違う点だ。判断。戦況。内政の領地内の充実。資金面。どれか一つでも間違えると、戦争を仕掛けられたり、こちら側があまりにも優れすぎると連合を組まれたりして窮地に陥るので、細心の注意が必要だ。


 『軍事』

 内政と外交の結果で起きるものとされている。相手の国のリソースを奪うか。金銭を奪うか。それとも領土を奪うか。色々な状況で戦争は勃発していく。


 しかし、こちらのゲーム。

 戦争を突然行う事が出来ないとされている。

 相手国に宣戦布告をするのが、基本的行動の一つとして推奨されているのだ。

 これもまた現実的な部分であり、ここの面倒くささも人気の秘訣となっている。

 

 それで、もし無宣言で、奇襲して戦争などを行って戦った場合。

 一気に領土を奪うまで行けばいいのだが、そこで相手に粘られてしまうと、他国の介入があったりして、途中で連立同盟が結ばれて、二局面での同時展開での戦争に巻き込まれたりする。   

 優勢だったものが突如として窮地に陥る場合もあるのだ。

 それで昔、第一位の国が滅んだこともあるらしい。

 俺がこのゲームをやる前の時代の事なので、噂話としてしか知らないが、恐ろしい結果となったようだ。

 古くからこのゲームを知る者は、悲劇として記憶の中に残っている。



 それで、今俺たちが戦っている相手が、第一位の国家『明日奈路』の軍隊だ。

 自分らが第三位なので、今ここで行われている決戦は、今シーズンのゲーム内で、最大決戦となっている。

 第三位国家『気まぐれ探偵』の軍師である俺は、日曜でもお仕事中の社会人当主の青菜さんに代わり、戦争の指揮を執っていた。


 『いい加減。この戦法つまらないんだよ。シン。俺はいくぜ』

 「待ってください。ハンゾウさん。駄目ですよ。相手の戦略は、こっちが我慢できなくなるのを狙ってるんです。前に出たら思うつぼだ。ハンゾウさん。こっちは防衛戦争なんですよ。我慢してこそ、勝機があるんです」


 防衛戦争では無茶をしない。これが鉄板だ。

 それに俺は、こちら側が有利になるように、相手側とずっと駆け引きをしている。最初の配置から、敵が不利な配置になるように追い込んでいるんだ。だから下手に動いて、そのバランスを崩す必要がない。むしろ動いたら、こっちが総崩れする恐れがある。


 『いや、今返り討ちにした奴らが目の前に残ってんだよ。こいつらを全滅させるから、追いかけるぞ』

 「返り討ちにしたのに、そこに残ってる?」

 『ああ。今が押し込むチャンスだ』

 「・・・変だ。待ってください」


 攻撃を跳ね返した結果、ハンゾウ軍の前に兵が少しだけ残った。

 だから、ハンゾウさんは、敵部隊を全滅させようと、前に出て行ってしまった。


 猛烈な勢いで追いかけるハンゾウさんの部隊は突撃を開始。

 でも相手の尻尾を掴めない。

 敵が上手く逃げ続けて、林の中に入って、彼らが最初に設定した陣まで下がり始めている。

 そこがおかしい。

 混乱しているのなら、そんな速く動くなんて出来ない。

 そうだ。逃げるなんてありえないんだ。

 だから、敵が混乱をしていない動き方をしてるんだよ。

 

 「それはおかしい。変です。ハンゾウさん。やっぱり下がってください」

 『うるせえ。偉そうにすんなガキが。お前は当主でもねえだろ。俺に命令すんな!!!』

 「命令じゃないです。これは常識の・・・いや。待てよ」


 話している内に思いついた。


 「攻撃は駄目だ・・・・あ。そうか。そういうことか」


 彼女の目から、情報が伝わる。

 敵陣共有のスキルで、こちらにも情報が見えた。

 これは罠だ。


 「まずい! その策は、捨て奸・・・じゃないか。この場合は、偽装退却!? 引っ張っていく意図は、そうか。釣り野伏せに導く気だ!」


 敵が逃げた本当の理由。

 それは、追いかけた先。

 こちら側から見ると、林の奥にある。

 今のハンゾウさんたちのような、まんまと出し抜かれた人間を、最悪の形で追い込む。 

 素晴らしい防御陣を展開していた。

 落ち着きのある部隊がどっしりと待ち構えている形は、どこにも隙が無い。

 一部の隙も無い陣にアホみたいに突撃している部隊が突っ込む。



 これはそうだ。あの敵の部隊。

 ハンゾウさんの前で、わざと少数の部隊で生き残ったんだ。

 敵は誘い出し部隊を作って、こちらの部隊を引っ張り出す罠を仕掛けた。

 追いかけやすいように少しずつ兵士を削られながら引くようにして移動していけば・・・。

 そう、何も考えていない人は、あれがみっともない敗走に見えてしまうってわけだ。

 上手い。戦術が上手すぎる。

 あれは、本物の戦争のよう。この作戦を考えた人は、完璧な戦術家だぞ。

 クソ。ハンゾウさん。それは騙し。相手のわざとの行動だ・・・・。

 あぁ。そうか。

 単純なハンゾウさんを引っ張るのが目的か。

 相手の将。こっちの将の動きだけで、性格を見抜いたのか。すげえな。

 

 「ハンゾウさん! 下がって。無理です」

 『いける!』

 「駄目ですって」


 俺の言う事を聞いてくれないから困ったもんだった。

 止めようにも止めらず、これではどうしようもないと思い始めた所で。


 『おい。あらた! ああなったハンゾウは、何言っても無駄だ。だから、別な事を考えようぜ。俺らはどうしたらいい。他の奴らで動こうぜ』


 俺のリアル親友の亮が話しかけてきた。


 リアルの亮も、ゲームのアバターと同じでイケメンだ。

 そして、スポーツ万能でバスケでも全国大会にも出てる超エリート。

 しかも、頭も超絶良くて、全国模試でもトップクラスの成績を収める超人だ。


 だから俺とは違って、女子にモテモテなんだ。

 何をやらしても完璧なモテ男で陽キャ。

 その男の友達の席に、俺みたいなどこにでもいる普通の陰キャモブが座っている。

 何をやらしても平均値だらけの俺では、亮とは絶対に釣り合わないのは目に見えて分かるし、自分の肌でも感じる。

 周りの目からだって、なんでだよと言いたくなるだろう。

 だから、昔から釣り合わない友達だなってよく馬鹿にされた。

 それで俺の意識にはその言葉が根付いちゃってるんだ。

 だから一度。

 俺は亮に『陽気なお前にはさ。陰キャでモテない俺なんて邪魔だよ。お前の近くに俺はいないほうがいい。皆の目に、俺は映らない方がいいんだわ。だから、こんなやつ捨ててくれよ』

 って、愚痴を言った事があったんだけど。

 

 『ふざけんな。俺はお前がいいの。周りは関係ねえ。友達がたくさんいても! 俺の親友は新だけだ』


 って言ってくれた。

 正直、亮が俺のどこをそこまで気に入ってるのかは分からない。

 でも、そんな事言われたらさ。

 こいつだけは裏切れないと思っちゃうじゃないか。

 だから、亮がこのゲームをやりたいってなった時に、勉強なんて真面目にやったことのない俺が、死に物狂いで勉強して、実際の歴史とかの戦術の本もたくさん読んで、このゲームで勝とうとした。

 だってさ、あいつが敵に勝ちたいって言うからさ。

 俺が勝たしてやりてえって思うじゃん。

 ともだ・・・じゃないや。

 俺の一番の親友のためにさ! 

 ここで頑張らないと漢じゃないもんな!

 

 「親友。本名で言うなよ。アバター名で言ってくれ」

 『あ、ごめん。悪い。ついつい』


 俺は、自分の名が『新』だから、『シン』というアバター名でこのゲームに登録している。

 結構単純だけど、親友の方がもっと単純だ。

 亮は『竜馬』だ。

 亮という名をカッコつけたいって言って、あいつの中のカッコよさナンバーワンが『竜馬』なのだそうだ。

 そのセンス大丈夫か?

 と思っていた事は、親友には言わないようにしよう。傷つけちゃ悪い。


 「えっと、そうだな・・・竜馬。ハンゾウさんの位置に入ってくれ」

 『俺がいる後ろの位置からか?』

 「ああ。もうあの人は助けられない位置にまで行ってしまった。だからここで切るわ。この状況だと肉を切らせたって。強がりは言えないわ。よし。ここは、損をしたという事を忘れる! 無駄な兵損だったと、割り切って綺麗さっぱり忘れて新しい策を考えるよ」


 あの感じで追いかけると、こちらが援軍を出しても、被害が更に大きくなるだけ。

 肉を切らせて骨を断つをしたくても、できないんだ。

 だから彼は無駄死になる。そして、援軍を送ってしまったら、その部隊もただただ無駄死になるだけ。

 だったらここで、無駄死の事は頭の片隅にも入れず、綺麗さっぱり忘れてしまって、こっちの全体の態勢を整えるのが吉であるはずだ。


 ここは割り切る! それしかない。

 そう。俺の頭の中では、損切りが始まっていたのさ。

 今の戦場の不利を何とかして互角にまで持っていきたい。


 『シンちゃん。あたしが見えている景色。見える? あっちの左の戦場の情報だよ。今のハンゾウの情報!』


 オハナさんの高台から来る情報がきた。


 「はい。もう無理ですね」

 『うん。これは見事に誘い込まれたね。シンちゃんの言う通りだよ』


 林を抜けた先で、敵の待ち伏せに遭い。ハンゾウ部隊は全滅。俺の計算は正しかった。

 見事に粉砕されて、悔しかったのか。

 ハンゾウさんはボイチャから抜けて、ゲームからも抜けていた。まだ仲間たちが戦争中なんだけど、応援くらいしろよ。あんた子供かよと愚痴りたい。


 「うん。やっぱり・・・・」


 俺は、この計算をし直してから指示を出す。今の戦況を崩さないように。このままだとハンゾウさんに任せた左翼から崩壊するからだ。


 「竜馬。頼む。急いで部隊を連れて、左に入ってくれ。同じ位置がいい。相手がチャンスだと思ってこっちに進軍する前に、こっちは立て直す。設定した良い場所を保持してくれ」

 『了解。新!』

 「だから!」

 『あ、ごめんごめん』


 ネットリテラシーのない奴だ。

 でも憎めないので本気では怒ってない。

 愛嬌のある男だから、いつも俺は許している。


 『シン。私は? 私も待機か?』

 「はい。最大火力の艶翔さんは。引き続き。中央裏での待機でお願いします」

 『わかった』

 

 俺たちの国で、今回の戦争を戦えているメンバーはたったの5人。

 今日集まれたのは艶翔さん。ハンゾウさん。オハナさん。竜馬。シンだ。

 覇王伝の第三シーズン第三位まで行った気まぐれ探偵は、合計13人のメンバーがいるけど、大半が社会人だったり、大学生だったりで、バラバラな時間でしか集まれない。

 今回も五人しか参戦できなかったんだ。

 戦争面、外交面で、一番重要な当主もいない今。

 だから、厳しい。負けるのだって仕方ないのさ。

 なんて思いたくない。負けたくねえ。

 全国三位の実力集団だから、あっさりと終わりたくない。

 俺は簡単に負けたくないんだ。普段陰キャモードが染みついている俺だけど、意外と負けず嫌いらしい。


 しかしだ。相手がこれまた強いんだ。相手は、全国一の国で、メンバーだって八人も集まっているみたいだから、向こうの部隊運用がオートじゃなくて、マニュアルで動かしていて、どんな状況にも臨機応変に対応してくるから、あっちの軍を上手く崩せない。

 それに加えて、敵大将の『赤劉』さんは、戦術マニアだと思う。

 俺と似たような考えを・・・そんな気がするんだ。

 だから、戦術の潰し合いみたいな睨み合いが、戦争の初めから発生している。


 「とりあえず、今から十分で互角に持ち込む! 粘ります」

 『『『おお』』』


 俺は、ここから戦いを膠着させた。一進一退を繰り返す。俺たちが四人しかいなくても、相手の攻撃をいなせたのは、連携が良かったからだ。

 俺たちは結構長い間このゲームを一緒にしてきたから、互いが勝手知ったる動きなわけよ。

 連携で互角に持ち込めたのは良かった。

 でも・・・。


 『シンちゃん。相手の動き見えてる?』

 「はい。戸惑ってはくれてますね・・・」

 『うん。でもシンちゃん。あと一歩踏み込めなかったね」

 「はい。こっちも無理が出来なくて・・・人が足りない。それに・・・」

 『そうだね。時間ないもんね。制限時間が、あと少しだ』

 「はい。このままだとこっちのポイント負けですよね?」

 『うん。このままだと外交勝負の時に、領地が取られるね。残念だね』

 「嫌っすね」

 『うん。当主のいない間に領地を取られるのはね。悔しいよね』


 オハナさんの声が悔しがっている。俺も一緒だ。このままだと負けてないのに負けなんだ。


 「・・・今の状態だと、負けじゃないけど、負けのようなものか・・・クソ。惜しいな」


 このゲーム。

 戦争時間は二時間までと決まっている。

 でも二時間もあれば、このゲームだと9割以上の確率で決着がつくくらいに戦争での実力の差が出やすい。上位同盟だと戦争が上手い人が多いからだ。

 それで、決着のつかない場合にルールがあって、二時間終了時のポイントの有利不利で、勝敗がつくことになっている。

 戦争後に必ず行う戦後処理と呼ばれる話し合いで、相手方の鉱山地帯や水辺などのどこかの領地をくれだとか、戦争費用が掛かっちまったから、とにかくたくさん金を寄こせとか。物資賠償も話し合いで決めたりできる。金の代わりに銃や剣をくれとかね。


 そうここからは、戦後処理の外交勝負が起きるわけだ。

 それで今回の俺たちは、ハンゾウさんの部隊が全滅してしまった事で、ポイントの不利が生じている。

 このまま時間がきて、話し合いに突入してしまうと、こっちは防衛戦争だったから、ポイント差の分、領地の話し合いが行われる。

 基本路線が、領地の数を巡る事になるだろう。

 

 「・・・・なら仕掛けますか。どうせ領地を取られるなら・・・ここは、この策でいきませんか」


 俺はボイチャじゃなくて、文字で皆に伝えた。声に乗せるよりも、やる気を出した形だ。檄文みたいになっている。

 

 「いいぜ。面白い。俺はやるぜ。新!」


 おい。また本名言っているよこの人!? いい加減にシンって呼んでくれ。


 「あたしもいいよ。最後に一花咲かせよう」

 「私も賛成だ。これは奴も驚くだろう」


 三人が許可してくれたので、俺は残り十分で仕掛ける事にした。

 そして、残り十分。

 俺が合図を出す!


 「いきます! 相手の本陣。ぶち抜きます」

 『『『おおおおおおおお』』』

 

 俺たちは、このシーズンで一世一代の勝負に出た。

 そして・・・・。




 ◇


 翌日。月曜の朝。

 いつも通りに、通学路の坂道を歩いていると、俺の頭にカバンが落ちてきた。


 「よ。新!」

 「重い・・・やめてくんないか」


 亮のカバンが乗っていて、首が痛い。


 「なあなあ。凄かったよな。昨日」

 「おい。まずはこれをどかしてくれ。話には付き合うからさ」


 俺にカバンを乗っけたまま、親友は昨日の話をしようとする。

 正直に言うが、こいつは頭がおかしいというか、陽キャが過ぎるんだ。

 周りには、同じ学校の人たちがいるのにさ。

 こんな事をしたら、俺が目立っちゃうだろ。

 ただでさえね。こいつがそばにいるだけで、目立つのさ!

 しかもだ。

 こんな光り輝いている男の近くに地味男がいたら、余計に目立つの。

 それに目立ったら駄目なの。学校一のイケメンの隣で、目立ったら嫉妬の嵐が来るのよ。

 気をつけてよね親友。


 「いやぁ。昨日の最後さ。よくポイント追いついたよな。俺たち!」

 「まあな。よくやったけど。でも本当は勝ち切りたかったんだけどね。その為の準備もしてたしさ。全部だめになったけどな。あんなの思い付きの作戦だぞ」


 昨日の戦争。最終的には引き分けとなった。

 本当は高台にいるべきオハナさんを、地上に降ろしてから、全軍集結。これで敵の意表を突いて、中央突破大作戦を決行したのさ。

 それで、俺たちは敵の二部隊を消滅させるまでに至って、ポイント的に引き分けとなった。武将一名撃破と、二部隊壊滅は、ポイント的に互角なんだ。


 「え? 新。あれ思い付きだったのか。それに勝ちきるつもりだったのかよ」

 「あたりまえだろ。最初から負けだと思って戦いたくないからな」

 「お前、意外と負けず嫌いだよな」


 せっかく楽しくゲームしてるんだ。仲間で勝ちたいじゃん。


 「あそこでさ。敵本陣を全滅か。艶翔さんの側近『香さん』を倒していればさ。こっちが若干の勝ちだったんだよね」

 「へえ。そこまで計算してたのかぁ」

 「まあね。でも、ハンゾウさんがやられなかったら、もっと楽に勝てたんだけどな」


 あの戦争は、防衛戦争だったから、こっちが有利な地形を選べる立場だった。そして現に俺は完璧に防御態勢を整えて、皆をそれぞれの場所に配置したのに・・・。

 あの人のせいで、大きく軌道修正を余儀なくされたんだよね。

 

 「新さ。前から思ってたけど、あの人さ。俺たちが高校生だから舐めてんだろ?」

 「たぶんな」

 「いくつだっけ。あの人」

 「知らねえ・・・でも、大学生くらいじゃないか。当主みたいな社会人の雰囲気がない。それに話し方が幼い気がする」

 「そうだよな。でも今の大学生ってあんな短絡的な考え方してんのかよ。世も末だな」

 「お前、言い過ぎだろ。それにお前高校生だぞ。あっちは年上だぞ」

 「だってよ。新の言う事聞いてりゃ、何とかなったのにな」

 「・・・どうだろうな。でも勝つつもりだったんだけどな。あの人にさ」


 全国一位の国の当主。

 前々から一度会ってみたい。違うか。ゲームだから話してみたいって思ってた。

 

 あの強さ。

 あれはどこから来るんですかって、聞いてみたかったんだよ。

 それに、俺と似たような考えだったから、話を聞いたら面白そうだとも思ったんだよね。


 それで実は、あの戦争直後。外交の話し合いの前。

 彼からDMが来て、驚いたけど嬉しかった。


―――――


 シン殿。あなたの計略。お見事だ。

 システムを上手く使った戦い方は、卑怯でもなんでもない。

 全力で勝ちに行く姿の表れだ。

 私はそれを嬉しく思う。

 それであなたのような強者と、再び戦いたいので、今度もシン殿が必ずいる時にそちらに戦争を仕掛けようと思う。

 色々と自分の想いを語ってしまい。申し訳ない。

 だが私は、あなたを勝手にライバルにすることにした。

 今度はあなたにちゃんと勝ちたい。

 だから、また勝負をして欲しい。

 我儘ばかり書いたが、年上の戯言だと思ってもらっても結構だ。

 でも、もう一度だけでもいいから、あなたと戦いたい。

 あなたは私のライバルでいて欲しい。

 一方的に気持ちを述べて、すまない。

 失礼した。


 ――――


 こんな風な文章だ。

 『あんたの前世は、武士なのか。それとも騎士なのか!』っていうくらいの宣戦布告の文章が送られてきたんだ。

 文の中身が、負けず嫌い爆発だったけど。

 その分、俺の事を認めてくれている感じがする。

 だから、昨日は嬉しくなっちゃって、冷蔵庫から勝手に姉貴の分のアイスを食べちゃった。

 バレたら殺されるかな!? やば。怖いから黙ってよう。



 「新さ」

 「なに?」

 「また遊ぼうな。あれ面白いよな」

 「え。まあ。そうだな」

 「お前さ。ああいうの得意だったんだな」

 「俺が? 得意?」

 「ああ。昔から、運動だって勉強だって、結構できてたのにさ。飽きたって言うじゃん。でもあれは飽きたって言わないよな。どうしてだ」


 と聞かれても、あのゲームでだったら亮の役に立てるからって言えないんだわ。

 親友だからさ。

 恥ずかしくて言えないんだ。


 「まあ。なんとなくだな」

 「そうか。じゃあ。またやろうぜ。今度の土日もさ」

 「うん。いいよ」

 「よし。じゃあ、早く学校行って・・・ん?」


 前を向いている親友の顔が険しくなった。

 俺も同じように前を向く。


 「女は死ね。特に美人は死ね。ああああああああ。よくも・・・よくもおおおおお・・・馬鹿にするなあああああああ。俺はチー牛じゃない!!!!!」


 目がイカレタ男性が、大声を発していた。発言の中身も、ヤバい内容だ。凝り固まった思考の波を感じる。

 そういや、チー牛ってネットで流行った言葉だよな。


 つうかさ。チー牛って、まさか、俺の事か!? 

 俺、よく食べるんだよ。美味しいんだぜ。

 それにあんた、牛じゃないじゃん。人じゃん。



 変な男が猛烈な勢いで、学校の通学路の坂を降ってきた。

 

 「新、あれ。ヤバい奴だぞ。ナイフ持ってる」

 「あ。ほんとだ」

 「あいつ、今女の子がいないから、ただ走ってるだけになってるじゃないか・・・おい新、下がれ」

 「は?」


 亮は後ろを振り返った。

 俺らの後ろには、女子高生たちがたくさんいた。これは偶然じゃない。亮を見たくて、ついてきた女の子たちなんだ。

 毎朝毎朝、懲りもせずに亮の後ろを歩くのが日課な子たちだ。

 まあ、モテモテ男子の特権でもあるな。


 「新。俺が取り押さえるから、お前はナイフを」

 「え? ばか。無理だろ。やめようぜ。逃げよう。皆で走れば、ここは坂だ。追いつかれないって。それに誰かが取り押さえてくれるよ。通勤している社会人だっているんだからさ・・・」

 「おい。ここにいるのは女の子だぞ。男の足なんかには負けちまう。俺が押さえる!」


 亮が坂を登って、目がイカレタ男性と対峙しようとした。

 でも俺の目測が合っていれば、この先の展開の予想がつく。

 このままだと亮が死ぬ。

 なぜなら、体重差で負けるからだ。

 相手の方が体が大きくて、しかもここが坂だから、立ち位置が上になる。

 ナイフ攻撃に全体重が乗りやすい形になれば、亮がその手を押さえる事が出来ても、その先は・・・。

 駄目だ。死んじまうわ!


 「邪魔だあああ。そこのイケメン。どけええええええ。嫌いなんだよ。お前みたいな奴は! 女を守る盾になろうってか。お前見たな奴も、チー牛って馬鹿にするんだ。くそおおおお」


 この男、支離滅裂な発言ばかりをしてる。危ない思考にガンギマリの目を持ってるから、超危険人物で無敵の人になってるんじゃないの?

 というよりもだ。

 チー牛って連呼してるから、ただ言いたいだけの男にしか見えないから余計に怖い。


 「うるせえ。このクソ野郎! 言ってる意味がわかんねえし、それに俺はあんたを馬鹿になんかしてねえわ」


 二人がぶつかる瞬間、俺の体は勝手に動いていた。

 二人の間に立つ。


 「え。新! 馬鹿。お前」

 「俺じゃなきゃ、無理だろ。おおおおお」

 「じゃ、邪魔をするな。何だお前は。俺の仲間か」


 危ない奴に勝手に仲間認定された。

 まあ、どっちかというと仲間だろうな。陰キャムーブが得意な俺だもん。

 でもなんかイヤダな。一緒にされるのもさ。


 「アホたれ。誰が仲間だ。俺はチー牛に近くても、人様にだけは迷惑をかけんわ! それによ。あんた。何の牛丼食ったって、誰に何と思われようがいいじゃねえか! 誰だって、チーズ食って生きたっていいんだよ。ボケ・・ぐ・・・ぐふっ」

 

 亮よりも体の大きな俺は、敵を捕まえた。

 しかし・・・。


 「がはっ。胸痛てえ。でも。おりゃああ」


 ナイフが胸に刺さった。それも深くだ。これは確実に致命傷だ。

 でも亮を守り切るには、これしかない。


 「どりゃ!」


 相手を持ち上げてから地面に落とす。

 

 「亮。押さえろ」

 「わ。わかった。でも。お前」

 「ごふ・・・とりあえず、お前が無事でよかったわ・・・親友」


 親友の悲しそうな顔と声で分かる。

 俺は助からない。


 「おい。新。死ぬんじゃねえぞ。今、救急車が来るからさ。まだ目を瞑るな。生きてくれ」

 「ごふ・・・やべ・・・声が・・・聞きにくいわ。亮の声が聞きにくい・・・」

 「おい。お前がいねえと俺、人生つまんねえじゃんかよ。この先も一緒に生きようぜ。新。死ぬな」

 「おう・・・そうだな・・・俺も・・・だけど。やべ、俺、死ぬかもしれねえわ。だから最後に聞いてくれ」


 最後の力を振り絞って、お前が継承してくれと、俺は亮の手を握った。


 「・・・な、なんだよ! 最後だなんて言うなよ。新」

 「俺のエロ本。もらっておいてくれ。隠し場所。わかってるだろ」

 「は?」

 「とりあえず、姉ちゃんとかにバレたくねえからよ・・・もらっておいてくれや・・隠し場所から取っておいてくれ・・・じゃあ・・・た・・・の・・・むぜ。亮」

 「おい。最後のセリフ。それかよ。親友!!!!」

 「ああ。運命共同体だったから・・・・わかってるだろ。今さら感謝とか伝えなくてもさ・・・前から伝えてんだわ」

 「それは、こっちだってそうだけど。お前が今言うセリフ、絶対にそれじゃないだろ」


 今朝の空は雨模様。

 今の空は晴れ晴れとした雲一つない青空。


 仰向けに倒れて空を見上げる俺は、何だかこの空が俺を祝福してくれているように感じていた。

 短い人生だったけど、俺の人生で最高の友の命が、この先も続くことが決まった。

 今までよくしてくれた恩を返せた。

 これは、俺の人生最大の自慢になるだろう。


 清々しい気分の俺には、この青天の空が似合うに決まってるぜ。

 ああ、そうだ。

 俺がいた世界の空ってものは、青かったはずなんだよ。

 暗闇じゃない。光だったんだ。

 なのに・・・俺、この後・・・・。




 ◇



 一つの命が消えた。

 優し気な光を持つ者は、理不尽にも儚く散ってしまった。

 わけではない。

 彼の最後に見せた光は、時を超え、次元を超え。

 天星の力を借りて、別な宙へと向かった。


 新たな命を得た彼は、偽りの英雄となり、銀河に舞い降りる。

 群雄割拠の戦乱時代。

 光輝く天星の新たな伝説が始まろうとしていた。


 天星から遥かな銀河へ


 第一章 銀河の三英傑の邂逅へと続く

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