#2 犬犬犬犬犬、犬犬
俺とコイントスには天使や悪魔の姿が見えるが、どんな階級の天使や悪魔とその契約者にはコイントスが自ら姿を現さない限り見ることができない。どういう原理か聞いたらコイントス曰く『俺は特別なんだよ』と。
『おいおいおい、ありゃ
「智天使って、第二位天使のか?」
『あぁ、あんな回って燃える剣なんてマシュマロ美味く焼くくらいにしか使えないようモン持つのはアイツらくらいだけだしな』
その天使は大きな一対の翼と小さい二対の翼、そして背後にある四つの人の頭程の大きさの車輪。そして何より側でゆっくりと回転している炎を纏った剣。確かに以前調べた智天使の情報と一致してる。
『あんなのと契約できるったぁあのガキ、相当高位のエクソシストだな。それに名前がマリアァ?出来すぎだろ』
「生まれるべくして生まれたみたいな存在だな」
『厄介な事に変わりねぇ、気ぃ付けろよ』
「わかってる」
少なくとも今は様子見だ。下手に手を出しても碌なことにならない。勝てない事はないがこっちの被害も馬鹿にならん。
あ、マリアが御剣(窓がから2列目一番後ろ)の隣の席に座った。隣の御剣と小声で話してる。
『おい』
「なんだよ」
『マリアって女、隣の席の坊主に昨日悪魔祓ってるとこ見られたらしいぞ』
「は?」
『昼休みに屋上で話したいって言ってるぜ』
コイントスが二人の会話を聞いてきたらしい。誰にも見えない故すぐ側で話を聞いててもバレないのは便利だ。
予定変更、二人の会話を盗み聞く。あと本校の屋上は立ち入り禁止だ。
+++++++
「ってわけで、悪いが昼飯は一緒に食えそうにない」
「むぅ」
昼休みすぐ、こよこを人目のつかないところに呼び出してマリアの事、昼休みのことを伝えた。頬を膨らませて不満を主張している。でも悪いが日常を維持する為には不安要素を取り除かないといけない。
「香織さんと食べててくれ」
「べつにいいけど。でも香織もさえと食べたがってると思うよ、なんて言いわけするの?」
「急用ができて家に帰ってるとでも言っといてくれ」
「ん、わかった。気をつけてね」
こよこが立ち去ったのを見届けて、屋上に向かう。屋上への階段は校舎三階の端、人気の少ないところにある。階段を登ると、南京錠で施錠された金属製の扉があった。クリップをポケットから取り出し形状をピッキング用に整える。屋上には悪魔祓いの際に何度か使ってるから既にこの作業にも慣れた。
三十秒程弄ったのち、カチン、と音が鳴り南京錠が開いた。扉を開けて屋上に入る。
「閉めといてくれ」
『はいはい』
優れた悪魔・天使は壁抜けができる、とコイントスは語っていた。つまり自分は優れていると間接的に言ってるわけだ。若干鼻につくが便利なのでその時は流した。
コイントスが南京錠を閉めたのを音で確認をすると、階段を囲むように建てられてる壁の影に
コイントスとの契約で俺は幾つかの能力を得た。そのうちの一つが″影に溶け込む力″だ。あまり血を消費しないのに影に溶け、姿、匂い、音を消すことの出来る、非常に便利だが戦闘じゃあんまり役に立たない能力だ。だってこの能力使ってると敵の攻撃も黄かな効かないけどこっちも攻撃できないんだもん。ともかくその能力が役立つ時が来た訳だ。
『来たぞ』
「わかった」
扉の向こうからガチャガチャと音が聞こえた、と思ったら破壊音が聞こえた、南京錠壊しやがったな。扉が開いてマリアと御剣が揃って入ってきた。
「それで…話って?」
「昨日の事、誰にも話してないよね?」
「あぁ、勿論。そもそも話したところで誰も信じちゃくれないだろ」
「そう…なら良かった…」
御剣の言葉を聞いてマリアがほっと息をついた。どうやら昨日悪魔祓いを見られた時に口止めしてたみたいだ、そりゃそうか。
「そっちの聞きたいことってそれだけか?」
「うん…」
「じゃあこっちも聞きたいことがある。昨日の犬みたいなアレは何なんだ?」
「…やっぱり…聞いちゃうよね…」
覚悟を決めたようにマリアが息を吸った。嘘だろ、一般人に言う気か?
「あのね、実はこの世界には悪魔が現れるの」
「悪魔…昨日のアレか?」
「そう、アレが悪魔。悪魔は地獄から人々の魂を喰らうために現れる」
「嘘だろ…じゃあ昨日の悪魔も…」
「いや、昨日の悪魔は運良く誰も食べてなかった」
「あの悪魔…他にもいたのか?」
『だとしたら ちときな臭くなってきたな』
「でも人々もただ悪魔に喰らわれるだけじゃない。この世界には悪魔と相対する天使と契約して、悪魔を祓う存在、エクソシストがいるの。私も、そのエクソシストの一人……」
「出てきて、アシュマリム」
恐らく御剣に見えるようマリアと契約してる智天使が姿を現したのだろうが、デフォで見えてたのでこっちからしたら何も変わっていないように見える。
「お、おぉ……」
「この子が私の契約している天使、アシュマリム。階級は上から二番目の智天使。なんでそんなすごい天使様が私と契約してくれたかわからないけど……この子のおかげで私は人を助けることができてる」
「これで満足した?」
「あぁ、ありがとう」
「そう、ならよかった。これから先、もし悪魔を見つけても絶対に対処しようとしないでね」
「…!でも…!」
「私の連絡先を教えるからもし何かあったら連絡して」
「一人で戦うのか…!?」
「うん、この地域には今私しかエクソシストがいないから」
「でも…!ホリーさんだってまだ高校生の女の子だ…!」
「でも……」
「力になれるよう頑張るから!協力させてくれ!」
「……うん。わかった……放課後、6時くらいにまたここに来れる?その時に悪魔についてもっとっ詳しく教えるから」
「ありがとう!」
「あくびが出る程ありきたりな話をありがとうって感じだ」
『大した収穫は無かったな』
「そうだな、まぁ一応放課後も様子見するか」
何と言うか、一昔前の作品の序盤みたいな会話だった。今じゃありきたり過ぎてブラウザバックされそうなレベルだ。
俺とコイントスが話していると、マリアと御剣が扉を開けて戻っていった。ちゃんといなくなったのを確認して影から出た。身体を覆っていた影は水のように俺から剥がれ落ち、影へと再び溶け込んだ。
「ま、今は待つだけだな」
『そうだな。そういや今何分だ?』
コイントスの言葉で、パーカーのポケットに入っている懐中時計を出した。この懐中時計はこよこが小5の時に俺の11歳の誕生プレゼントとしてくれたものだ。蓋の裏面に当時のこよことの写真が入っている。
針を見ようとすると、時計盤に被さるガラス板に小さく広がる罅が目に入った。時間が経てばどこかは壊れる、修理は初めてじゃない、それでも破損してると悲しくなる。家に帰ったら替えるか…
「13時15分。まだ余裕あるし、こよこと香織さんのところに行くか」
+++++++
「ん、おわった?」
「終わった」
二人は校舎裏にある、生物と家庭科の教師が(校長黙認で)こっそり改造した末超小規模な花園のようになった菜園に設置されたベンチで昼飯を食べていた。こよこは俺の作ったサンドイッチを、香織さんは購買のアルティメットデラックス超特盛トンカツ弁当(税込2,980円)を食べていた。俺から見てこよこの右隣、ベンチの端に腰を掛ける。
香織さんは俺が来たことに気付くと箸で掴んでいたトンカツを急いで頬張り飲み込んでそっぽを向いた。え?
「あ、僕とのご飯より大事だっていう用事を優先した紗冴くん。戻ってきたんだね」
おぉ……何でか知らんが滅茶苦茶怒ってる……。こよこにヘルプの視線を送る。こよこは俺の視線に気付くと何でか呆れた顔になった。
「……ごめん香織さん。久しぶりなのにご飯食べれなくて」
「良いよ、用事で家に戻ってたんでしょ?僕より大事な用事で」
「………」
「かおり怒ってる、たぶんさえのごまかしが見抜かれた。でもかおりはちょろい、何かで釣ればたぶんすぐゆるす。これ、はじめて会ってから一週間でわかったこと」
こよりがサンドイッチを頬張りながら俺にそう言った。釣る…何で…?香織さんが釣れそうなもの……あ。
「香織さんが良ければなんだが、明日香織さんの分のお昼も作っていいか?」
「え!?良いの!?」
香織さんは食べることが好きだ。誰かと食べる、美味しいものを食べる、沢山食べる、あらゆる面においてだ。香織さんはいつも購買で昼食を買ってるからきっと気分転換にもなると思ったが、案の定だったか。
「ふふっ、この前ちょっとだけこよこちゃんから紗冴くんの作ったご飯をもらった時とっても美味しかったからまた食べたいなって思ってたんだ!」
「どうも、期待に応えられるよう頑張って作るよ」
「でも迷惑じゃない……?」
「二人分作るのも四人分作るのも大して変わらないさ」
こよこがこっそり耳打ちをしてきた。
「ね、ちょろいでしょ?」
「心配になるちょろさだ……」
この調子だと悪い人に引っ掛かって破滅するかもしれない…。そう思っていると香織さんが俺を見ているのに気付いた。何か言いたいのかと思って見つめ返す。
「…………?」
「…………」
香織さんは何も言わず、口にとんかつを頬張ったままじっと見つめてくる。しかしまぁ香織さんはよく見なくても美人で奇麗だが、よく見たらとんでもなく美人で奇麗だ。髪は見た感じ多分サラサラで黒く艶めいてる。肌は日焼けとかはなく肌荒れやニキビとかもないし、睫毛も長くて目も大きい、鼻筋も整ってるし口もこんなにご飯が入るとは思えないくらい小さい。それに加えて穏やかで優しい。男子からも女子からも人気なのもよくわかる。
「えっと……僕に何か顔についてる……?」
「いや、香織さんは美人だなと」
「ぇぁ……そ、そんなこと言っても何も出ないよ……!」
「まぁ事実を言っただけだからな」
この人は世が世なら国を傾けていたかもしれない。
「むぅ……さえ、腕がいたい。サンドイッチたべさせて」
俺と香織さんに間に座っているこよこがそう言った。珍しいことじゃない、親から離れているのだから誰かに甘えたいんだろう。
「しょうがないなぁ」
「ごめんね、こよこちゃん?」
「かおりはわるくない、わるいのはさえ」
「何かを俺が悪いことにされてる」
「これは紗冴くんが悪いかなぁ」
「香織さんまで……!?」
こうして昼は過ぎていった、穏やかな風と一緒に。
+++++++
「ってわけで、悪いが今日は一緒に帰れそうにない」
「むぅ」
帰りのSHRが終わって暫く、こよこを玄関近くに呼び出して屋上での会話の事、放課後のことを伝えた。もう暗くなってきて頬を膨らませて不満を主張している。でも悪いが日常を維持する為には不安要素を取り除かないといけない。(二度目)
「できるだけ早くかえってきて、ごはん冷める」
「善処する」
「そうして。……気をつけてね」
こよこが帰宅したのを見届けて、屋上に向かおうとした時。
「……あ?」
学校の敷地を覆うように白い"天幕"が下ろされた。
"天幕"
空間を現実から隔離し、一般人からの認識を拒絶しあらゆる存在の出入り及び悪魔と天使、そして中にいる指定した人間以外の全ての生物の変化を禁じるエクソシスト御用達のご都合奇跡の一つ。これが下ろされたということは……
『「悪魔か」』
俺とコイントスが同時に結論を出す。どういうわけか知らないがマリア達と悪魔が交戦してるらしい。耳を澄ませれば……というか澄ませなくても運動場から激しい音が聞こえてきた。
「渡り廊下……いや、屋上だな」
マリア達の戦闘に手を出す気はない。態々自分から存在を露呈するとか論外だ。それに智天使と契約してるエクソシストなんだ、よっぽど悪魔じゃない限り負けないだろう。と言う訳で俺達は屋上から様子見させてもらおうか。
"陰に溶け込む力"は日が落ちてから本領を発揮する。この力は例え1㎞離れていても目的地と今いる場所にある影が繋がっていればその目的地の影へと瞬時に移動できる。夜になればそれは"現在夜になっている場所"全てに対応する。今は日没、暗くなってきて影も大きく広がった。俺は影に溶け込み屋上の階段へと向かった。屋上への南京錠は見事に破壊されていたから開ける必要はなくなった。屋上に入り、運動場を見に行くと案の定マリアが戦っていた、御剣は多分腰抜かして動けてないなアレは。戦っている悪魔を見る、それはつい最近祓った犬の悪魔そっくりだ。
「5匹……いけるか?」
『キツいかもなぁ……契約してる天使は優秀だが女の方の能力が足りなくて使いこなせてねぇ』
「あーあ」
別に死んでも困ることはないが目の前で死なれたら後味が悪い。例え敵でも人間なんだからちょっとくらい同情もする。せめて俺がいないときにやってくれればなぁ
「ま、助けない、戦わない。死んだら上々、悪魔は祓う。生き残っても不干渉」
『悪い奴だなぁ。ま、それが妥当か。犬の方に手ぇ貸して負けたらたまったもんじゃねぇ、アイツらは奥の手で形勢逆転が十八番だからな』
「高みの見物といくか」
『おやぁ?こんなところに人がいるとは。動けるということからにはエクソシストなのでしょう?』
『ならなら食べてあげなきゃね』
「はぁ……」
『まだいたみたいだな』
「1匹いたら何匹もいるとか……犬のくせしてゴキブリみたいなことしてんじゃねぇよ」
『随分驕るものですね人間』『生意気だね人間』
振り返ると同じような犬の悪魔が2匹。この前祓った奴と大体一緒だ。この程度なら聖水と銀で問題ない。ただ……
「時間掛けてアイツらにバレる訳にはいかねぇからな」
『アーヤメトケヤメトケコレ以上ハ危ナイゾー。はい忠告終わり、これもバレたらヤバいなぁ』
「絶対こよこに喋るなよ」
『ほいほい』
「3分で片付けてやるよ」
アンダーテイカーを両手で握る。銃口は既に向いた。あとは3分経つだけだ。
Bets on the Demons Dead 刻桜 刹那 @setsuna_towa_0007
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