フルーツハートクエスト

KYo太60♪

1話は1話だ

 誰もが寝転んじゃうような微睡む空気が漂うクリーム王国では結婚式が開かれようとしていた。


「えー、ではこれよりマンゴー王女と梨王子の婚礼の儀を言い渡す。お互いになにか言いたいことはありますかな?」


 堅苦しい挨拶は抜きにしてまったりとした空気で結婚式を進める神父様。


「お互いに幸せな家庭を築こう。そして国に富と栄光を」

「それだけですか?先に言わせては見たんですけれどこれからの国王としてはやはりもっと言葉というものを勉強してはいかがかと」

「僕は簡潔に述べただけさ」

「ナシー!」


 多少の言い訳をする梨王子に冷たく接するマンゴー王女はなんだか憂鬱な気分である。さらに梨王子の近衛兵は王女と同意見のようだ。


「えー、コホン。では気を取り直して双方誓いのキスを」


 神父が国王の視線に気がついたのか二人に接吻を促した。


「喜んで」

「致し方がありません」


 ナルシスト気味の梨王子はその気だがマンゴー王女はそうではない様子。だが、ここは小さいが国と国とを跨いでの冠婚葬祭。悠長なことは言っていられない。

 意を決してマンゴー王女は梨王子の顔を見た。


「エヘヘ」


 この世を恨みます。

 マンゴー王女は小さく唸った。

 しかし王女としての立場というものがある。

 やれ、やれ、やるんだ私。

 チラリと上空のシャンデリアを見上げた。

 落ちてこないかしら。

 運命とは数奇なもの。壊れる物は別の形で壊れた。

 ドガァァァァァン!


「なんですか!」


 二人のやり取りを内心ニヤケ面で見ていた神父。


「いったいなんだい?」


 梨王子は天然なのでキスの事はお預けで原因の壁を見た。


「きゃあぁぁぁぁ!」


 叫んでしまおう。

 そんな思いが咄嗟に出てくる。

 マンゴー王女は身を屈めた。


「我は魔王シャトーブリアン。姫を貰いにきた。デザートのオマケには決してさせん」


 扉を壊さずにわざわざ壁を壊したのは魔王シャトーブリアン。

 大きい・・・・・・とにかく大きい––––––––魔王だから。


「兵士たちよ!であえであえ」


 ドリアン国王が兵士たち命じた。

 彼が思った事は、

(ンフ、言ってみたかった)

 と言った感じのあまり場にそぐわない隠さなければならないようなことであった。

 ズン!


「うわぁぁぁ!」


 兵士達は一気にやられていく。

 魔王は進撃していく。


「ここは僕の近衛兵の出番のようだね」


 梨王子が合図を送った。

 パチン!


「Let's Go!」


 梨王子の近衛兵、『フレッシュ!ピア』・・・・・・通称『FP』が果敢に挑んでいく。


「ほう、威勢がいいのが出てきたな」


 魔王がフンッと鼻息を漏らす。

 ジューシーな香りがそこら中に蔓延する。

 それはやる気を充実感へと変化させやがて倦怠感へと変貌させた。


「・・・・・・ナシー‼︎」

「おい、どこに行くのさー!」


 散り散りに去っていく『FP』達に梨王子は声をかけるがそれは虚しく届かない。


「残るはお前だけだぁ–––––––」


 魔王は梨王子へと顔を近づける。

 その緊張感は地獄の閻魔の裁きの瞬間そのもの。


「い、い、い、イイダロウ。相手ニ降参‼︎」


 疾風迅雷の如くその場を去って行った梨王子。


「キャアァァァァァ!」


 そして残されたマンゴー王女は先程と叫び声を変えて連れ去られてしまった。


「なんて事だ!一刻も早く姫を探しに行く勇者を見つけてくるんだ!」


 ドリアン国王は兵士達に命じた。

 一週間後・・・・・・

 ひとりの勇者が立ち上がった。


「王女は僕が助けるんだ」


 何人かが捜索隊を編成した後のこと。


「ドリアン国王、マンゴー王女はこのスイカが助けます!」


 元気いっぱいの裏腹にスイカはちょっと薄暗いことを考えている。

 このくらい時間を置いといた方がマンゴー王女も喜ぶだろう。


「おー、そうか・・・・・いっていいぞ」


 今まで沢山の冒険者達を見送ってきたのだろう。ドリアン国王は消耗し切っている。


「よーし、装備は万端、マンゴー王女と結婚しに行っくぞー!」


 欲望をむき出しにして勇者スイカは旅に出る。


「ちょっと待ったー!」

「誰だ?」

「オレ達を忘れるな!」


 スイカは振り向いた。

 そこにいたのはアックスマンのリンゴと魔法使いのレモンにムンクのブドウがいた。


「なんだよみんな」


 スイカはいつもの面子に平静とした態度でいる。


「旅に出るなら私達も連れてって!」


 レモンが目をキラキラさせて物を言う。


「あのさ、旅は甘いものじゃあないんだよ」


 スイカからあの言葉が出てしまった。


「酸いも甘いも噛み分ける。それがフルーツ生。気楽に行こう」


 ブドウが己に言い聞かせるように言った。


「はあ〜甘いもんになるはずだったのにな〜」


 スイカはひとりでマンゴー王女を迎えに行きイチャイチャといつかみた本に書いてあったこと実行するつもりでいたのだ。


「どこかで落とさないと」

「なにか言ったかー?」

「いや、別に・・・・・・」


 スイカは腹黒い気持ちを胸にリンゴ達と旅に出る。

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