第10話


「食糧不足か?」

「多分ね」

「腹が減っていたら、やる気も出ないだろう。明日は何人が脱落しているんだ?」


 ここに集まっている三百近くの人数が飢餓状態に陥っている。

(離れた方が良さそうだな)

 この極限の空腹状態で、食料を持つものが現れた。そうなれば、奪われかねない。

「移動するぞ」


 そう言いながら少し離れた場所に移動を開始する。

「食糧のために移動するのは分かったけどよ……。火はどうするんだ?」

「俺が職業を変える。それだけで解決する」


「それだけって、もし経験値がなくなれば、今日の頑張りは無になるぞ」


 肉を焼くためだけに火魔法使いに職業を変え、風魔法使いに戻した時にレベルが初めからになっているのではないかと優香は指摘する。


「そうなった時は仕方ない」

「私とか、優ちゃんとかじゃダメ?」

「ダメだな。美緒の場合はヒーラーになるって言っていたから、時間がかかるのは良くない。前衛をする優香も同様だ。だから、特別何かをするわけでもない俺が、職業を変える」


「意思は固そうだね。もうさっさと変えて、風魔法使いに戻りなよ」


「優香、周囲の草刈りよろしく」


 優香が草を切り集めている間に職業を火魔法使いに変更する。

(自由変更できるんだ……)


 職業を自由に変更できるようだ。デメリットは何もない。こういうのはたいてい、数レベルに上がらなければ意味がないとなるのが多いような気がしていたが違ったようだ。


「ここに置いとくぞ」


「ファイヤーボール!」

 通常の大きさを持つ火の塊が、刈り取られた草に当たり引火する。


「で、ここからが問題だな」

「なんの?」

「食中毒と寄生虫」

「「……」」

「最初は料理系の職業にしてフライパンだったか……」


 皿もない、フライパンもない、包丁もない。ここにあるのは肉と火だけだ。木でもあればくりぬいて使えそうだけど、そんなものはどこにもない


「このまま直焼きにするか?」

「豪快だな」


 豪快だが、一番可能性があるのはこの直焼きだ。

「もう直焼きでいい?」


 直焼きにして食中毒や寄生虫はない可能性にかけたい。あるほうがデスゲームをする上で弊害になるはずだ。


「ちょっと待て」


 優香が止めてくる。そして、火の中に剣を突っ込む。パチパチと音を立て、剣の色は赤く熱せられていく。


「肉よこせ」

「……ああ」


 その熱した剣の上に肉を置く、ジュッと音を立て、肉が焼け始める。

「ってか剣燃やして大丈夫?刃が潰れない?」

 そして、片面が焼けた時には、その剣を再び火の中に入れ、全体を焼く。


「潰れたら、それで殴るだけだ」

 剣で斬るのを諦め、撲殺を選ぶようだ。


 その焼き上がった肉を触ろうとしたが、熱く触ることはできない。

「皿がないけどどうする?」

「……冷めるまで待つか」


 肉や剣が冷めるまで待ってから手で食べようとしている。


「明日はどうする?あのリーダーについていくか?」

「明日かー。レベル上げ優先だから、離れる方がいいだろ。あれだけ暗くなるんだ。指揮として終わっているんだろうよ」


 どんより暗い雰囲気を作り出す者はリーダーに向いていない。何より、中央付近で自分たちだけ楽しそうにしているのだから当たり前のことだ。


「そういえば、服はどうする?確か、返り血で汚れていたでしょ?」


 猪の返り血で服が濡れていた。その服を綺麗にするには、水魔法を使う存在が必要となる。

「ライトボール」


 その返り血のひどさを確認するため、美緒は魔法を作り出し、優馬の体を照らす。

「あれ?返り血がない。背中向けて」


 そう言われ、素直に悠馬は背中を見せる。


「……やっぱりないなー。服に汚れを落とす効果でもついているの?」


 神が見たいのは、デスゲームだ。そのため、体や服を洗う姿は見る必要がない。その必要がないようにしているのかもしれない。


(都合がいいな。……ならこの肉も大丈夫だろう)

 その肉を横目にステータスを開き、職業を風魔法使いに変更しておく。


(レベルの減少はないのか。よかった)


 肉が冷めたことで食事を取れるようになった。その肉を食べ、体を寄せるように固まり、眠る。

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