第8話
三体のスライムの討伐が終わり、休憩に入る。
「「「ステータス」」」
確認したところ全員がミッションをクリアできていたようだ。
そのミッションが消え、新たなミッションに書き換えられる。それは、『職業のレベルを5にする』という内容だった。
「次のミッションは遠いな……」
(そういえば、今のレベルは?)
スライムを倒したときには、レベルの変動はなかった。だが五体程度倒したのなら、レベルが上がっていても不思議ではない。
ミッションの画面を閉じ、レベルを確認する。そこにはレベル2と表記されていた。
「レベルが上がっている……」
「あ、本当だ」
レベルが上がったときの効果音は鳴らず、自分たちでステータスを確認しなければいけない。それがネックに感じる。
「ステータスで他のこと探してみる。だから、周囲の見張りを頼む」
他に何かステータスで見落としがないかを隅々観察する。ステータス欄の拡大縮小できる機能の他、パーティーメンバーにニックネームをつけられること、さらに一番上のところにプレゼントボックスがあることを見つけた。
(プレゼントボックス?)
そう思いながらプレゼントボックスに触った時だ。そこに一つのものが入っている。それはパンだった。
(やっぱり報酬はパンで合ってたのか……)
「ステータスの上側にプレゼントマークがあるのわかる?」
「うん、あるね」
「そこを押してみたら」「あ、パンじゃん!」
説明している最中に美緒が勝手に動き、パンを発見する。
そして、手を皿のようにすると、その上にパンが出現するのだった。
(メロンパン?)
我慢できなかったのか、美緒はそのメロンパンに齧り付く。
「ん〜!美味しい」
美緒にとってメロンパンはパンの中で好物の部類に入っているものだ。
(好きなパンが出る?)
腹が減っていたこともあり、そのパンと書かれているボタンを即座に押す。すると出来立てのカレーパンが出てくるのだった。
「そっちはなんだったの?」
優香に聞いてみた。
「フルーツサンド」
「へー、珍しい」
「私みたいなガサツな女食べて悪かったな!」
「いたそっちじゃなくて、ガッツリとした油物系かと思っていたから……」
「そっちも好きだけど、今はこっちが食べたい気分だっただけだ!」
「半分あげるから、半分ちょうだい」
そうホイップクリームがたっぷり詰まったパンを見ていると、無性に甘いものが欲しくなった。
「食べかけか?」
「いや全く」
「なら半分くれてやる」
そう言いながら優香は半分に分かれている片方を差し出してくる。
「えー、フルーツサンドいいなー」
そう言いながら美緒が寄ってくるのだった。
「メロンパンは残ってない?」
「うん!全部食べちゃった」
「じゃあ、交換はなしだな」
「そうだな」
そう言って半分に分け合ったフルーツサンドとカレーパンを食べた。
そして、その周囲の草を大きく切り払い、スライムが来てもすぐにわかるように見晴らしをよくする。
「残りの時間はどうする?」
「今の時間はー、……十三時前!」
美緒の体内時計(食欲)の正確性は高い。ある程度の信頼に値する。ただ、後半になればなるほど、その精度は落ちていくだろう。
「問題は集合時間だよな……。話変わるけど、今の季節っていつ?」
「体感的に春か、秋なんじゃないかな。それがどうしたの?」
「肉を手に入れても、夏だったら腐るし。あと冬を乗り越えるための備蓄も必要じゃない?」
「「あー」」
冬になれば冬眠する動物も増える。そのため、食料が足りず凍死する危険や、同族を食べるといったカニバリズム的なことをするものも現れるだろう。
だから、季節のことは大事だ。
「とりあえずどうする?このままスライムを狩るか、いるかわからない動物を探すか?どっちがいい?」
「ん?動物ならどこかにいるだろ?」
「そうだといいんだけどね」
「報酬で食料が出るんだったら、食料がある確率は低いんじゃないかな?」
美緒がセリフを奪ってくる。
「まあ、その可能性は高いと思うよ。けど、ゲームとかであるデイリーミッションとかがなかったから、その可能性は低いかな」
デイリーミッションがあり、その報酬としてご飯があるのなら、毎日そのミッションをこなして食糧を確保すればいい。
だが、そのデイリーがなかった。そのことから考えると、デイリーは存在しておらず、食糧を自分達で確保する必要がある。
「次のミッションの報酬って何だった?」
「あ、確かに当たってたもんな」
「確認するね」
『レベル5達成』と記載されているミッションを触り、報酬を確認する。
「二つ書かれてる。一つはデイリーミッションの解放、もう一つはドロップの使い方指南書?だってさ」
デイリーミッションはなんとなく理解はできる。ドロップの使い道なんてわかりもしないものを教えてくれるのはありがたいことだ。
「……、一つ考えてみたんだけどさ。報酬がどっちかって可能性はない?」
「そこまで性格が悪いことをするか?」
「いや、もっと酷いこともできるよ。それは、人数制限だね」
「確かにデスゲームで奪い合い推奨だしな……。その可能性もあったか」
「どうする?奪われないようにするために全員がデイリーミッションを選ぶ?それとも、隠れて一人だけがドロップの使い方の方を選ぶ?」
「……一旦選ぶのを待ってみるってのは、どうかな?」
「別にいいけど。……サッカー部部長の考えを待つって感じか」
「そうそう」
デイリーミッションの報酬次第では、全員が平等に使うことができるように集めようと言い出す可能性がある。何もしなくても恩恵を受け取る者が現れると、皆のやる気がなくなるため、選択してはいけない。
素直にレベルが5になった順番で選んでいくのがいいだろう。
「報酬がわかっているのはお前だけだろ?知らんけど。それなら、知りませんでしたとか、言われていませんでしたってのができるんじゃないか?ほら、今までの報酬は一つだけだっただろ?急に二つ現れるとか想像はできないはずだ。
だから、何か言い出すのはそのことを知ってから、……言い換えるとあの指揮を取っているやつがレベル5になってからだ。同じ日か前日にやつよりも早くレベル5になれば、隠せるんじゃないか?」
目をまん丸にして悠馬と美緒が優香を見る。
「なんだその目は、まるであたしがバカみたいじゃないか」
(バカなのは否定できないけど、確かに、今回もデイリー報酬を選ぶなとか言われてなかったし、これならいけるな)
「うん、それならいけそう」
美緒が真っ先に返事をする。
「お前はどうだ?」
「いいと思うよ。その作り方の情報がどうやって見れるのか次第か……。もし本なら奪われる危険性もある。けど、パーティーが解放されたときは、ステータスから見れた。ってなると、この作り方のガイドはステータスから見ることができる?」
可能性の話にすぎない。だからこんなことに長時間を割いてはいけない。
(そろそろ、元の話題に戻すか)
「元の話題に戻すけど、どうする?スライムを探す?それとも食べられるような動物を探す?」
「私はスライム狩りがいいと思いまーす」
「あたしは動物狩りだ」
意見が二つに分かれてしまった。
(どちらを取るべきか……)
「とりあえず、理由を聞こうか、まずは美緒から」
「今のところの目標が、サッカー部の部長よりも先にレベル5になることでしょ?それなら、スライムを狩ってレベルを上げるほうが先なんじゃないかな?」
(レベルを上げることだけを目的にしていた場合、美緒が言う通りスライムを狩る方がいい)
「……次、優香」
「スライムを倒すのは賛成だけど、途中で餓死とか空腹で動けなくなるとかは避けたいからな。だから食糧を集めながら行きたい」
「よし、決めた。とりあえずはスライム狩りを続行する」
「はあ?なんで?」
「最後まで話を聞け、スライムを狩っているときに動物と出会ったら、そのスライムを殺してすぐに動物をターゲットに切り替える。これでいいか?」
「まあ、それなら」
と不服そうに優香は納得するのだった。
そして、スライム狩りを始める。
(動物って、どんな種類がいるんだろう?)
この地域にいるとなれば草食動物が基本となるはずだ。そして、この場所にはスライムが生息している。この辺りの情報から考えると、背丈の高い動物が多いか?
地面に近ければ、スライムに飲まれやすい。そのため、小さい動物は存在していたとしてもスライムに食われてしまったはずだ。
日は傾き、あたりは夕方に染まりつつあった。
「どうする?次のスライムでラストにする?」
日が完全に隠れてしまうと、周囲は真っ暗になり、何も見えない状態になる。夜目を持っている魔物の独壇場になる。
「そうだね、次のスライムで最後にして帰ろうか」
「帰りに動物を見つけたら、そっち優先でいいか?」
「いいけど……深追いは禁止ね」
今のルートは優香が草を切ったことでできた道を真っ直ぐ進んできている。そのため、道から外れてしまうと元の場所に戻って来られる保証はどこにもない。
本日最後のスライムを討伐し、帰路に着こうとしていた時だった。ドタドタと走り回ってくる音が聞こえてくる。その音は次第に大きくなり、近づいてきていることが察せられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます