猿王伝 転生したら猿だったのでハーレム作って好き勝手に生きる

レオナールD

エピローグ 猿の王

「ウキッとな……」


「ギャオオオオオオオオオオオオオッ……!」


 魔槍を頭部に突き立てると、巨大な怪物が絶叫を上げて地面に沈んだ。

 頭蓋骨をカチ割られて絶命しているのは、全長五十メートルはあろうトカゲに似た化け物である。

 鱗に覆われた背中には大きな翼が生えており、そのフォルムは地球上のあらゆる生き物と異なっていた。


 それはいわゆる『ドラゴン』と呼ばれる存在。

 ファンタジー系のマンガやアニメにおいて、最強とされている魔物だった。


「ちょっとだけ骨が折れる相手だったな……腐っても竜ってわけか」


 やれやれと軽く肩を回しながら、その男は勝利の余韻に浸った。

 背の高い黒髪の男である。顔立ちはワイルド系で精悍な顔立ちだったが、腕や足がやたらと毛深いのが特徴的だ。

 男の名前はヴィコー。今しがた、槍一本でドラゴンを討伐して見せた恐るべき強さの戦士である。


「流石だな、ヴィコー!」


「素晴らしいですわ、ヴィコー様!」


「ヴィコー君……カッコイイ……」


 ドラゴンの頭から槍を抜いているヴィコーに、数人の女性が駆け寄ってきた。

 体格、服装、髪や瞳の色も異なる女達であったが、いずれも輝くような魅力に満ちており、世の男共が放っておかないような美女・美少女ばかりである。

 彼女達は親しげにヴィコーに寄り添ってきて、ヴィコーもまた馴れ馴れしく彼女達の肩や腰に手を回して抱き寄せたりする。


「アンッ……!」


「ダメですわ、まだお昼なのに……」


「エッチ……」


「だったら、男に気安く抱き着いてくるんじゃねえよ。誘われているのかと勘違いしちまうだろうが」


 言いながら、ヴィコーが我が物顔で彼女達の身体を撫で回す。

 肩を抱き寄せ、尻を撫で、髪の匂いを嗅ぎ、胸にタッチして、服の中にまで手を這わせて……明らかにギルティなセクハラ行為であったが、嫌がる素振りを見せる者はいない。

 口先では窘めるような言葉を出しながら、甘く蕩けたような表情でヴィコーの手に身を委ねている。


「ヤンッ……もう、ヴィコーは本当にエッチだな……」


「ん、ヴィコー君はすけべ。お馬さん。種馬」


「ハッ……馬か。俺が馬だってか?」


 胸をフニフニと捏ねられながら、女性の一人がヴィコーを馬呼ばわりした。

 その言葉にヴィコーは怒るでもなく失笑して、喉を鳴らして言い捨てる。


「違うな。俺は馬じゃない……俺は『猿』、躾のできていない野猿だよ」


 ヴィコーの背中からスルリと長い尻尾が伸びて、自己主張するように円を描く。


「まったく……どうして、こんなことになったことやら」


 ヴィコーは自分の恋人……あるいは、『愛人』とでも呼ぶべき女達に囲まれて、自嘲するように唇を吊り上げる。

 臀部から生えた尻尾。人間よりもずっと毛深い手足と胴体。

 ヴィコーは人間ではない。元・日本人の転生者にして、現在進行形で猿をしている。


「昆虫やら生肉やらを齧っていたお猿さんが、今や女を侍らせるハーレムの主とはな……本当に笑える話だよ」


「あんっ!」


 女体をまさぐる手を止めることなく、ヴィコーは遠い目でこの世界に転生した時のことを思い出した。


 それは三年前。

 友人であると思っていた男の恋人に刺され、この世界に転生した時までさかのぼる。






――――――――――

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