第7話 鳳条さんと”本物”~後編~

「鳳条さん……!」


 教室に入ってきた最強ギャル。鳳条さん。

 その姿を見られたのは嬉しい。だが今は……。


「ハル……、もしかして……」


 何か、感づいたか? まずい……。


「もしかして、待ってたの?」


「……え」


「だって――」


 そう言って鳳条さんは語る。少し前の話だ。


「ん~?」


「あれ? 鳳条さん。なんでここに?」


「なんでって、なんで?」


「タカ……、いや、正晴の事を呼び出したんじゃ?」


「ううん、違うよ?」


「ならあいつは誰に呼ばれたんだ?」


「どういうこと?」


 それからアイツ――日向は下駄箱での一件を話したらしい。

 そして鳳条さんを送り出した……。

 鳳条さんが語った限りではどう捉えているのか分からない。


「ハル……」


 鳳条さんは不安そうな表情をしている。普段あんなに分かりやすいのに、今は分からない。


「ハル……。その、女の子、とは……」


「いや、それは……」


 机の下を見る。コレをどう言ったものか。

 位置的に彼女には見えていないはずだ。どうする。


「あのね、ハル……」


「あ、ああ」


「女の子の気持ちは大事にしてほしいの」


「……」


「それで、その、あのね……」


 そういって……、鳳条さん、は――。


「あ……、ダメ……」


 ——涙を、流した。


「な、泣いたら、ハルがっ、困っちゃう、からっ……」


 ……。


「でも、でもハル、わたし……」



「やっぱり、好き、だから……!」



 ……………………。


「ごめん、こんなの、ハルが困っちゃうから」


「——鳳条さん」


 ——俺は、何をしているんだ。


 初めて見た時、何を思ったんだ。彼女の涙を見て、何を心に刻んだんだ。

 それを忘れたのか。それを……それを……。それを、絶対に許すな。


「鳳条さん」


 俺は――机の下の事など忘れ――鳳条さんの前に立つ。

 ……そうか。こんな気持ちなのか。


「ハル……?」


「——。好きだ! 鳳条さん!」


 俺は応えた。

 今まで一方的に受け取っていただけの好意を、言葉で返す。これは誓いだ。


 ぽかんとする鳳条さん。


「かわいい!」


「ふええ!?」


「ああ! 一旦口を開くと止まらんな! 好きな鳳条さんかわいい鳳条さん!」


「あわわわ」


 俺がいままではっきりとしてこなかったが故の失態だ。これくらいは!


「鳳条さん!」


「は、はい!」


 面と向かって告げる。俺の! 覚悟を!


「改めて――付き合ってください!」


 俺の不貞を許さない、誓いの宣誓。これで、鳳条さんと俺は――。


「は、ハル……」


「——。」


 困惑はごもっともだ。だが俺の愛は止まら――。


「——ちょっと、考えていい?」


「——。——。——。——え」


 ?????????????????


 あれ……この告白は通る流れ、では?


「わ、わたし……」


「うん!」


 今の俺はめっちゃ前のめりになってると思う。


「は……、は……」


 なんだ、なにが問題なんだ。


「初めてだから……分かんないぃぃ……」


「……え」


 弱弱しく、顔を真っ赤にしながら答える鳳条さん。え?


「分かんないいいいいぃぃぃ!」


 そう言って走っていく鳳条さん。


「待って! 鳳条さん!」


「いやあああああ!」


「鳳条さぁぁぁん!」


 ……で。

 この日は、それで終わってしまった。

 


 ……視点が変わりまして


「……」


 壮絶なラブコメの一幕を見ていた紫峰柑奈は……。


「……」


 一人、教室を後にする。

 そして聞こえる、愉快そうな声。


「いひひ。聞いたぁ今の? また鳳条さんの伝説が――」


「もし――」


 その声の主に話しかける紫峰柑奈。


「ああこのあいだの。どうです、我が新聞部の情報は確かで――」


 その相手の女生徒は壁の方にいた。そして紫峰柑奈は、その女生徒の股の間を通して背後の壁を蹴った。


「ひぃ」


「情報と、随分な相違があるようですが」


「そんな、この情報は先輩からも受け継がれているもので」


「貴女の百聞が私の一見に劣る、と?」


「あわわわ」


「……ふん」


 上げた足を下す。ひええ~と逃げ去る新聞部の女生徒。

 一人残る紫峰柑奈。


(鳳条かれん。その実態は噂に反するものでしたが……)


 チロリと舌をみせる。


(鷹取正晴。彼はおもしろいオモチャになりそう。くすくす……)


―――――――――――――――――

お読みいただいてありがとうございます。

よければブクマや最新話から評価をつけて応援していただけるととても嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る