第15話 リアルでのひと時

 始まったばかりのハヤテとの同居生活は、想像してたより距離が近くて、こんなに接近していいのかと思うほどに。

 でも、リアルでは私と羽山さんは上司と部下として仕事をこなしてて、最低限の会話しかしない。

 ゲームの中にいれば、二人は沢山話せて、寝るまで一緒にいられる。


 羽山さんとゲームで同棲してるんでは……?


 そう考えたら恥ずかしくて死にそうだった。


 仕事が終わって、ゲームで今日は何をしようかなぁ、と考えていたら、エレベーターで羽山さんと一緒になってしまった。


 エレベーターで二人きり。

 緊張する……!

 二人とも無言だった。


 ゲームで近づきすぎてしまった。

 でもリアルではこれ以上近づいてはいけない。

 帰る方向はバラバラなのに、家に帰ったらまた一緒。


「なんか俺達変だな」


 羽山さんが少し笑った。


「こっちだとまともに話せない」


 そ、それなんだよ。


「私も、ちょっとそれモヤモヤしてました」


 ビルの出入り口の前にきて、帰ろうとした時、


「天川」


 羽山さんに呼ばれた。


「もう少し……いい?」


 羽山さんと、駅から離れた人がほとんど来ない公園のベンチに座っていた。


 どうしたんだろう。


 羽山さんが手を出してきた。


 こ、これは……。


 私は恐る恐る羽山さんの手に触れた。

 温かい。


 ゲームの中で二人で遊ぶのも楽しいけど、羽山さんの声が、眼差しが、温もりが、凄く私を満たしてくれる。


「私達はどういう関係なんでしょう」


 星空を眺めて呟いた。


 羽山さんはポケットからスマホを出した。


「連絡先教えて?」


 やっと羽山さんとリアルでも近づけた。

 私は急いで羽山さんと連絡先を交換した。


 帰ってもいっぱい遊べるのに、私達はギリギリまで公園にいた。


 誰にも見つかりませんように。

 この時間だけは誰にも邪魔されませんように。

 と祈りながら。


 胸が色んな気持ちでいっぱいのまま、羽山さんと別れて家に帰った。


 やっぱり羽山さんが好き。


 その後、家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、ゲームにインした。

 そしたら、スマホに通知が来た。


 羽山さんからだった。


『鈴木の手伝ってる』


 あまるとハヤテは、ゲームの枠を超えて連絡をとれるようになった。

 私がスマホを見ながら余韻に浸っていると、ハヤテがいつの間にか近くにいた。


 そのまま二人でストーリーの続きをプレイした。

 その後またあの星空を見に行った。


 周りにカップルのプレイヤーが何組かいる。

 この人達はリアルではどうなんだろう。


 リアルでも恋人?

 他人?

 わからない。


 でもこのプレイヤー達に芽生えた気持ちもきっと本物だ。

 私はそう信じたい。

 二人で仲間としてゲームをしていたのが、カップルみたいになってしまった。


 仕事に支障が出るから寝ようと二人で家に帰ったら、ハヤテがそっとかがんで、ハヤテとあまるの口が重なった。


 もう画面を見ていられなかった。

 羽山さん、積極的すぎる……。

 それはゲームだから?


 恥ずかしくてすぐ落ちてしまった。

 今度はスマホの方に通知がきた。


『おやすみ』


 画面に映るメッセージ。


 私と羽山さんはどうなるんだろう。


 そう考えながら、今日の甘い思い出に浸って眠った。

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