第6話 最初の夕食会3

 歳を聞かれると此処では美紗和さんが一番上らしいがそれでも阿倍先生に確認してもらって二十四だと判った。それと今回の調査とどう関係があるんだとぼやかれた。

「おいおい、まだ二十八だ」

「でも、もう直ぐ二十九って聞いた」

 梨沙さん意外と突っ込んでくる。

「じゃあこれから梨沙ちゃんと呼ぶか」

 隣の北原は沈黙しても、退屈していないようだ。これで一見では冴木さんの面接基準が判らない。

「美紗和さんはさん付けだよね。だから山上さんで良いんじゃないの」

 梨沙が言った。

「美紗和さんはみんなをなんて呼んでるんだ」

「女の子はちゃん。男は君付け」

 どうやらこれでまとまったようだ。

「何がまとまったの ?」

 食器を淡い終わった美紗和と岸部がテーブルにやって来て、山上の隣に座り、向かいに岸部が座った。柳沢が美紗和さんの此の家での立場を聞いた。

「何で急に聞くの?」

「山上さんが来て、ますます我々の世話が大変だと思って」

 さっそく柳沢がさん付けにした、どうやら彼はみんなから一目置かれているようで、これでさん付けで定着しそうだ。

「一人増えても変わりはないわよ」

「そもそも美紗和さんは、伯父さんの面倒を見る為にお父さんから言われて来たんだろう」

 エッ! そうなのと山上の話にみんな驚いた。

「何で山上さんは知ってるの」

「俺はちゃんとした伝手を通しているからそれぐらいは聞いている」

「エッ、何でなの」

 ウッ、まずいと美紗和さんを見ればまったく動揺していない

「この人は大学の先生に安いアパートを探していたの。それでたまたま先生があたしのお父さんとお友達なのであたしに『もう一人入れる部屋はないか』と打診してきたのよ」

 これには山上も一息吐けた。

「なんだ。そうなのか」

 と岸辺は頬を緩めた。

「岸部君はいつも難しい顔をしているのか」

「憲和はいつも仏像しか頭にないのよ」

 梨沙がコップに注いだビールを岸部に渡し「憲和は冷蔵庫に私物のビールを補充してないでしょう」と催促した。彼は苦笑いした。

「君は毎日彫ってるのか」

 おそらく今も頭の中では一心不乱に彫ってると山上は推測した。

「みんな凝り出すとピールの補充を忘れるから。その点、社会人の吉行はキッチリしてるわね」

「すまん。話を戻すが柳沢君の話だけど美紗和さんの負担が多過ぎるだろう」

「だって先生の姪御さんでしょう。その話は先生とつけるべきでしょう」

 言われてみればそうだ。

「山上さんも吉行君も、あたしの家事を気遣ってくれるのは解るけど。山上さんがさっき云ったように、実家から伯父様をちゃんと見るように言われているからいいわよ」

「それじゃあ、実家の親父に頼めばいいのか」

「吉行、大丈夫よ。美紗和さんは黙ってる人じゃないから。此の人、凄く気が強いところがあるから、気を付けないと肘鉄食らうわよ」

「梨沙、そうか」

「男の人には」

「もう梨沙ちゃん、みんな誤解するでしょう」

 美紗和さんの言葉に、岸部が又ニヒルな顔をした。

「北原君は余り喋らないのか」

 この辺は関係がややこしいと山上は話を振った。

「山上さん、大丈夫よ。祥吾は人見する方で、慣れると酷い冗談ばかり言うからそのうち笑わしてくれるわよ」

 小野田さんと同じように祥吾君も絵を描いている。彼女はキャンバスで彼は着物だった。

「祥吾君は小野田さんと絵で共通してるんだ」

「あたしは油絵、彼は染料を溶かした物で水彩画ってところでしょ」

「友禅は水彩画じゃない。着物に生命を吹き込んでるんだ」

「何よ、それを言うならあたしも一緒」 

「ちょっと待って。此処でそんな話をすれば、みんなプライドが高いから話がまとまらないでしょう」

「美紗和さんも大変ですね。良くこれほど自負の強い人ばかり集めましたね」

「最終的に入居者を決めたのはあたしでなく伯父さんッ」

「親父さんは此処を芸術家のサロンにしたいんでしょう」

 柳沢吉行は美紗和さんより今は冷静に成り行きを見守っている。

「いつもはこうじゃないのよ。本当に世間話ばかりなのに。火を点けたのは山上さんかしら」

 美紗和さんは耳元で言っても、やはり周りには浸透したのか少し白けた。

「ここにテレビがあれば話題に事欠かないと思いませんか」

「山上さんは知ってるの? 親父さんは一人で偏ったドラマをばかり見るから我々と合わないんですよ」

「ほ〜う、柳沢君。冴木さんはどんなドラマを見るんですか」

 これは早速分析資料として吟味できると気持ちを抑えて冷静に訊いた。

「伯父様は勧善懲悪のものに凝ってます。それがハッキリしているのはやはり時代劇のよう」

「先生のそんな趣向があるとは、我々には見せない」

 柳沢が世代ギャップを感じたようだ。これでは此の連中から冴木の側面を探るのは難しい。

「ほかに先生の話はないのか?」

「だって、先生はアニメーションには興味がないみたい。ねぇ、せっかく身内の人がその仕事をしているのに」

 小野田は美紗和に探りを入れるように彼女を見入った。

「あたしの顔見ても何も書いてないわよ」

「そうか、やっぱ先生はアニメーションにはどうして関心がないのにあたしたちを入居者に選んだのでしょうね」

「美由紀ちゃん、あたし思うには、ドラマ設定の内容より、人の動きや表情が、アニメでは物足りないらしいの」

「どうしてよ。アニメだって感動するわよ『火垂るの墓』も世界中に配信したアニメでも中々の評価があったわよ」

「いかにリアルに見せるか。そこに役者魂があるってそれが見所らしいの。だから、あれはアニメでないのを見て、伯父様はあんなに良いとは思わなかったって初めて聞いた」

 昔の漫画と最近のアニメでは現実的に描かれて今では迫力が違う。その違いを見れば自ずと満足度も違ってくると言う結論に達した。

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