第4話 最初の夕食
夕方六時からの食事が始まる前に、山上はキッチンで今日の当番なのか美紗和さんと一緒に準備をする男と出合った。
「呼ぶまで部屋に居るように言ったのに、どうして出て来たの?」
美紗和さんはみんな退屈しているので、山上をサプライズのように突然みんなの前に紹介するつもりでいたのに、早くも岸部の知るところとなった。
「どうせたいして驚かない連中ばかりですから、僕はみんなと合わしますよ」
岸部は淡々と言った。
「だから困るのよ。もし泥棒だったらどうするの」
「直ぐに判ります。みんなひと癖あって泥棒にそんな余裕はありませんよ。此の人は我々と雰囲気が似てます」
岸部の反応は実に冷ややかで、どちらでもない特別な仲間意識を山上は彼から感じ取った。
「取り敢えず山上さんは、あたしが呼びに行くまで部屋に居て下さい」
「でも岸部さんが……」
「私なら、もうサプライズの打ち合わせは今の会話で終わりました。どうぞご心配なく部屋で待期して構いませんよ」
岸部は笑って言うが、
「さっきは手伝いに来たのでしょう」
心の
「別に、ただ物珍しくて、ちょっと台所の様子を見に行っただけ……」
「けど、か、まあいいわ。食事の仕度が出来たの。一つ余分な席があるからみんな気になってるわよ」
それも今日だけとウフフと笑った。明日から呼びに来ないでご自由にと言われた。廊下に出ると下のダイニングルームを俯瞰して見下ろせる。なるほどこれで誰が来たか判り、みんなは待つ余裕が出来る。
「どう、みんなワクワクして下から見てるわよ」
「そうかなあ、これでもう待たなくてホッとしているように見えるけど、それにみんなが見ている前に降りていくとショーの主役になったみたい」
「今日だけはね」
ちょっと冷やかされて階段を下りて端席に着くと美紗和さんが紹介して、山上は慌てて起ち上がり自己紹介した。主人の冴木さんが
「美紗和、みんなを紹介してやってくれ」
丁度四人ずつ向かい合って座っている。美紗和さんはまた起ち上がって端から芸大生の
「そう言うわけで、今日からシェアハウスの住人が一人増えて、みんな仲良くやってくれ」
いただきま〜すと合掌してみんな食べ出した。これでは美紗和さんの言う
食事が始まると隣同士で喋り出した。もちろん冴木さんも隣の芸大生の岸部と話しながら食べている。彼に関してはさっきの無表情が打って変わって、冴木さんとあれほどの笑顔で話しているのが別人のようだ。
「彼はいつもああなの」
「食べながら喋るってこと」
「まあそうだけど。さっき会った岸部憲和君だが、さっきと違う」
「ああ、キッチンで会った彼、別に普通よ」
「まあそれはそれとして、冴木さんはこの屋敷で何人家族だったのか知らないが此の家で育ったんでしょう」
「ええ、亡くなった両親とあたしのお父さんの四人家族で食事は黙って食べさせられていて、おじいさんが亡くなって、あたしのお父さんも家を出てまかないのおばさんが倒れて、あたしが来てから広すぎると、いよいよマンションに立て直しす話が出て、それでこうなって、伯父様は、みんなと同じテーブルで食べるのが楽しみになってるのよ」
「じゃあ一人暮らしの時はどうしていたんだろう。今の冴木さんを見ていると、そのへんが今回の依頼の糸口になっている気がする」
「そう? そのへんはあなたが今まで阿倍先生から教わってきたんでしょう」
う〜ん、ますます不可解だ。
「先ず此の建物は北東に向いて、ダイニングルームを囲むように此の字型に玄関も含めて上下に部屋があるでしょう。それは西側の深泥池は埋められないので、池に沿って立っているからよ。だから池側は窓だけ。部屋を作ってもあの池はほとんどが浮き島に覆われて、しかも僅かに見える水面も濁ってるでしょう。逆に池の反対側にある部屋からは市内が一望できて見晴らしがいいでしょう。二階は吹き抜けのダイニングルームをL型に囲むように廊下がある。と言うことは伯父様はスター気取りで奥の部屋を出て、みんながいる階下の此の部屋を見下ろしながらさも舞台から観客席を見下ろすように廊下を歩いて、あの階段から下りてこられるように設定されてるの」
リフォーム中は何とも思わなかった。こうして吹き抜けのダイニングルームを半分L型に囲む廊下を伝って伯父様を呼びに行くと、つくづくそう思うようになった。
「山上さんも伯父様の隣の部屋だから、これから何度もあの天上の廊下を歩いて下りれば、そのうちに伯父の気持ちが分析出来るわよ」
山上が座る後ろの窓からこの時間は、
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