パワースポットへ行きたい
塩狸
読み切り
興味本位で流行りのパワースポット行こうよと
占い師の友人に声掛けたら
「あのね
『何の苦労もなくいいことありますように~』
なんて
口開けて甘いもの放り込まれるのを待ってる人間がひしめいてる所なんか行ったら
逆に色々吸い取られるわ、冗談じゃない」
って断られた
「つれない、付き合い悪い」
と悪態吐いたら
「だから
『もう神頼みしかない』
くらいに
どろっどろした汚水を溜め込んでる人たちが
中にはたくさん混じってるんだよ
そういう人の気に当てられるリスクも考えろって言ってんの」
そうだけどさぁ
そりゃ分かるけどさぁ
「神社だってお寺だって、悪いものを閉じ込めている所もたくさんあるんだ
"そんな悪い何か"が、一体なんの願いを叶えてくれる?
もし叶えてくれたとしても
なんの代償もなくただで願い叶えてくれると思うわけ?
10円?50円?小銭の両替手数料でマイナスだわ」
って
「もーダメ出しばっかりじゃん!!」
と文句言ったら
「まず自分の部屋を掃除でもしてパワースポットにしろ」
って
なんかそれっぽい
いかにもな良い事風なこというじゃん
フンだ、ケチ
……ん?
ケチ?
「ねー、じゃあ神社とか、1万円くらいお賽銭いれれば違うの?」
お賽銭箱のないパワースポットもあるけどさ
今はそれはそれとして横に置いておいて
「……あー私の持論だけどね
そこはレストランと同じだよ」
レストラン
「そ、大金払っても、口コミよくても、店の雰囲気も、美味しいかも、口に合う合わないも、人それぞれだろ」
んー
やっぱり行ってみなきゃ分からないってことかぁ
「わざわざ行って見ず知らずの人間の悪いもの背負いたきゃ1人で行きな」
「私が背負うの確定じゃん!!」
「……」
なんで黙るのさ
なんで黙るのさっ
だからね
私
1人で
ネットで調べた
「ご利益いっぱいです!」
って口コミの所を探して
行ってきたんだ
こっそり1人でさ
そしたらさ
たまたまだよ
本当にたまたま
なんか風邪流行ってるしさ
人もいたから風邪菌もらってきちゃっただけ
ちょっと熱出て寝込んでるだけ
これはあれだよ
逆プラシーボ効果
友人があんな脅しみたいなこと言うからだよ
なのに
「馬鹿か」
って酷くない?
友人が付いてきてくれないから
こんな目に遭ったのに
「いや関係ないし、あんた、自分でただの風邪って言ってるじゃない」
そうだけどさぁ
でもさぁ
それでも
友人は
私の部屋を見回して
「掃除したことだけは認めてやる」
って
もー何様だよ
あと
「絶対止めるなよ」
って空気清浄機を強制MAXモードにして帰っていった
何か意味あるのかって
朦朧としながら調べたら
「空気清浄機に幽霊や低級霊が吸い込まれる」
へぁっ!?
嘘でしょ!?
なんかいるの!?
ここに?
嘘だと言ってよ友よ!
そんなことを思いながら
私は帰ったばかりの友人にヘルプコールをしかけるも
また急激に上がってきた熱で朦朧として
そのまま
意識が飛んだ
翌日にまた来た、ええと来てくれた友人は
私の部屋をぐるりと見回してから
寒いのに窓開けられてさ
「これはいらなかったか」
って
手に持ってた見た目がなんかすごい御札を鞄に仕舞われた
ねぇ
弱ってる友にそういうタチの悪い冗談やめて?
「……」
その私を見る意味深な視線と無言もやめて
それでさ
風邪もすっかりよくなった頃に
「ねー関西にある、有名なきんぴらごぼうみたいな名前の
神社行こ
なんか凄いって聞いたよ」
と懲りずに誘ったら
頭叩かれた
ちぇ
冗談なのに
まぁさすがに一人で行く勇気はないし
また今度機嫌がよさそうな時にでも誘ってみよう
美味しいご飯付きなら
もしかしたら乗ってくるかもしれないしね
そう思ってたんだけどね
思い出したんだよ
あいつが
「どんな場所も
それなりの場所に行くのにね
何の勉強せず知識もなく空っぽの頭でアホ面晒して行ったって
それなりの答えと結果しかでないんだよ」
って言ってたなって
そう思って
ネットで神社仏閣のこと調べてたら
2
いつか友人に
なんで君は黒しか着ないの?
って聞いたことある
「箔が付くから」
って言われた
ふーん?
箔ね
それにさ、占い師ってさ
やって来たお客さんを占うってイメージあるでしょ?
道端、デパートの一角、占いの館
でもさ
友人に連絡すると
『今、ちょっと遠く来てるから、帰ったら顔出すわ』
って3日後に明太子持ってきたり
美味しい林檎ジュースだったり
『ごめん、今日船欠航してて、約束してた明日のランチ間に合いそうにない』
とか
占い師ってそんなアクティブなの?
ってね
その明日のランチを断られた今日ね
暇だから天気予報見たら
日本だけどうちからは遠い島の方で天気荒れてた
そんな友人は
本を凄い読んでる
鞄に1冊でなく文庫本放り込んでるから鞄はいつも重そう
「え、売らないよ、全部燃やして捨ててる」
いかがわしい本には見えないのに
「いかがわしいのも読むけど、いかがわしくなくても捨てるんだよ」
ふーん
読むんだ
私は本は捨てないし捨てられないんだよね
だからかな
「私の部屋の本棚から持ってく本
ごく稀に返してくれないことあるよね?」
「うっ……」
珍しく詰まる友人
「間違って燃やしてるでしょ?」
「べ、弁償します……」
まだ読んでないやつもあったのに
でも
なぜわざわざ燃やすんだろう
売らないにしても
廃品回収では
他人に持っていかれる可能性が高いから?
捨てたものでも
他の人の手に渡るのが嫌なのか
友人は
自身の形跡を残したがらない
短い髪の頭にも襟足から覆うようにベレー帽を被ってる
室内でも帽子を外さない
髪を落とさないように、だと思う
多分だけど
ならさ
「もしかして、髪の毛以外は脱毛してる?」
たまにスカート姿も見るし
友人は笑顔のまま握り拳を振り
私は逃げる
私の友人は
私の部屋には泊まらない
門限でもあるのか遅くなるとタクシーで帰る
ただその日は
突発的な
しかも記録的な大雨の夜で
タクシーも捕まらなくて
友人は、身内?みたいな感じの人たちにも色んな人に掛け合ってたみたいだけど
お迎えは来なかった
「うちにお泊まりしてけばいいじゃん」
頻繁に来るくせに
お泊まりをなんでそんなに嫌がるんだろう
(うーん)
正確には嫌がってるってより
例えば苦手な合コンに強制参加させられる時と似てる
それは嫌がっているのと同じか
友人は
物凄く渋々
本当に大雨の中で朝を待った方がましみたいな顔でドアの方見て
私を振り返って
苦渋の決断って感じで
「……頼む」
何でか覚悟を決めた顔
その覚悟を決めた顔はちょっとカッコ良くて
え?
何?
もしかして私達
一線越えちゃうの?
今日は念入りに身体洗わなきゃ
ってね
残念ながら
そんなことはなくて
真っ暗な部屋で一晩中
友人はぼそぼそと
誰かと会話してた
電話でもない
一人言でもない
その相手の声は
私の口から漏れていた
私なのに
私じゃない
誰?
誰?
誰
それは
とても赤い赤い赤い赤い黒い先の
3
友人だけでなくね
私にも友達はいるよ
ちゃんとね
その仲良しのグループに大学の卒業旅行へ誘われてさ
海外だよ
ヨーロッパ
うきうきで申請したパスポート取りに行ったら
「どうだった?」
なんかね
「『発行できませんでした』って言われた……」
「……」
そう
なんでかね
犯罪もしてないし、すでに持ってて悪用されてるとかもなくて、普通に日本に生まれて日本人のはずで、調べても心当たりがない
理由も
窓口の人は
「自分にはあなたにパスポートを発行出来ない理由を伝えられていないため対応出来ない」
みたいなこと言われて終わり
友人に愚痴ったら
いつもなら
「まーダメなもんはダメなんだよ諦めな」
で終わりなのに
この時ばかりは
「一緒に北海道でも行こうか、沖縄でもいいよ」
謎に優しかったし
一緒に北海道へ行ってくれた
1人1部屋だったけどね
なんなら友人は
私と部屋の階すら別々を指定してたけどね
その友人が
たった一度だけ
懇意にしてると言う神社へ連れて行ってくれた
わりとつい最近の話
立派な神社だったのに
人が居なかった
マイナーなのかな?
でも
人どころから
鳥の鳴き声も虫の音も聞こえなかった気がする
風もなくて
そこには何も
何も
何も
何も
私は
あまりに人がいない神社だし気の毒になって
大奮発してお賽銭箱に五千円札入れた
それで
「私にも、隣の友人にも、いいことありますよーにっ!!」
って声出して手を叩くように合わせてから
少しの間
記憶がない
「ほら、合う合わないがあるって言ったっしょ」
「うん……」
身を持って知った
こんなに分かりやすい合う合わないがあるとは思ってなかった
気付いたら私は
友人の車の助手席にいた
友人は私を担いで車まで運んでくれたって
目が覚めた時は
車はすでに山道を下ってた
「お姫様だっこ?」
「肩に担いだ」
「……」
山道の下の方からピカピカ何か見えて
何だろと思ったら
サイレンを鳴らさない救急車が数台、山道を上がってきてる所だった
友人は路肩に停まって救急車に道を譲り
救急車はすごい勢いですれ違って行った
「どうしたんだろ?」
「訓練じゃない?」
「えー?」
訓練?
あるんだ
まぁそっか
あってもおかしくないよね
音も鳴らしてなかったし
でも
友人には
「先はもう何もない、神社が最後」
って聞いていたし
もしかして
神社で何かあったのかな
後で気になって検索したりしたけど
何も出てこなかった
山道を下りながら
友人は窓を開けて煙草を吸う
「安くないのに」
今いくらするの?
「これは経費だからいいの」
経費?
「え?煙草が?」
友人は、あからさまにしまったって顔して、ただカーブがきついせいか、煙草に強めに歯を立ててる
煙草が経費って
「煙草会社で占い師のバイトしてるの?」
私の問いかけに
友人は
吹き出した勢いで煙にむせて
「か、勘弁してよ」
路肩に車を停めてまでヒーヒー笑ってた
何かツボだったみたい
「占いでさ
『うーん、この土地はいい煙草の葉が育つのが見えます』
とかやってるのかなって」
ってね
思ったことを言ってみたら
ハンドル叩いて笑ってた
正解は全然違うらしいけど
だってそれならさ
友人が日本全国津々浦々してるのも説明が付くじゃん
友人は
「私は助手だよ」
それだけ教えてくれた
そうそう
神社から帰ってから
少し変だなと思ったのは
お賽銭箱に入れたはずの五千円札が
お財布に戻っていたこと
五千円札に印刷された数字が少し印象的な並びで
覚えてたんだ
神社やお寺も
合う合わないがあるって友人も言ってたし
突っ返されたのかな
ちょっと寂しい
4
あの日を境にかは知らないけど
ずっとショートカットだった友人は
髪を伸ばし始めた
3年も経てば
「よく収まるね」
「髪をネットで纏めてから帽子被ってるから」
ショートの時に頭にかぶってたベレー帽も
長い髪を収められる大きめのキャスケットになってた
「なんでそう極端なの?」
「私の意思じゃないんだよ」
自分の意思で髪すら切れないのか
この友人は
でもさ
私もだいぶ物分かりが良くなって
友人に無用な問いかけはしなくなった
そう
私が余計なことをしなければ言わなければやらなければ行かなければ
この友人は
私の隣にいてくれるらしい
ただ
そう
一度だけ
「……ねぇ、私は日本から出られないの?」
一度だけ聞いたことがある
この友人なら
知ってるんじゃないかって思って
友人は
確かに何か返事をしてくれた
なのに
思い出せない
どうしても
どうしても
どうしても
何も
5
「占い師の君を真似して、占いできるカード買ってみたよ」
嫌な顔されるかなあと思ったけど
「へぇ、占ってよ」
興味深そうな顔をされた
「じゃ、君のことを考えて1枚ひくね」
占い方知らないし
買ったばかりのカードを広げて1枚ひいた
でも
勿論馴染みのない絵柄
「これ、なんの意味があるんだろ」
全然解んない
説明書読もうとしたら
「裏切り」
「え?」
「裏切りって意味だよ、そのカード」
さすが占い師
頬杖をついた友人の苦笑い
でも
今はそれより
「……君が裏切られるの?」
誰に?
私に?
もしくは
「君が、裏切るの?」
誰を?
「当たるも八卦当たらぬも八卦だよ」
それを占い師が言っちゃうのか。
「ただ、“あんたの”占いは馬鹿に出来ないから」
珍しく褒められたよ
友人は長い間
カードを眺めてたけど
6
裏切られたのは私だった
「いーやー!ご飯って奢りだって言ってたのにー!」
「奢るし予約もしてるってば」
「先にお化け屋敷なんて聞いてないー!!」
お洒落して来たのに。
「すぐ終わる」
お化け屋敷がすぐ終わるって何さ。
「1人で入りなよ」
「怖いから無理」
じゃあ何で入るのさ。
しかも、結構いいお値段する。
「施設料、設置料、特殊技術その他諸々、妥当じゃない?」
「……たまに本物いるとかいうじゃん」
「うん」
「タダ働きなのかな?」
「別に依頼されて仕事してもらってるわけじゃないからそうじゃない?」
ボランティアかぁ。
「あんたにはご飯奢るから」
「うん。……え?」
仕事なの?
「サクラだよ、サクラ」
「こーんなに行列出来てるのにサクラ必要なの?」
「必要、必要。数字は強い」
ふーん。
お化け屋敷は、
「あんまり怖くなかった」
「でしょ」
でしょって。
でも。
「あのよくある、びっくりさせるやつがないのがよかった」
急にバーンッてくるやつ。
あれがないだけでも好印象。
それに、驚いたのは、床が、土だった。
土が敷き詰められてた。
ふっかふかに。
でも出てきたらヒールに土なんか付いてなくて、でも立ち込める匂いは土と、何だろう、樟脳の匂いもした。
あと、ほら、牧場とか動物園の、獣と糞尿の臭い。
沼の生臭さと、あと、鉄臭さも。
あとは。
ただ、赤い赤い赤い赤い黒い先に。
先に。
先に。
先に。
ああもう。
友人の声が、遠い。
ごめんね。
パワースポットへ行きたい 塩狸 @momonotalutogasuki
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