第Ⅲ話
少し経って、10歳の誕生日。
このごろは父上の苛烈な教育も落ち着きを見せていた。
理由は単純。私が完全に教養を身に着けたから。
今はもう、雑学程度のことしか教えられていない。
おかげで随分とこの世界について知ることができた。やはり、日本とは根本的に違うようだ。
聞き慣れぬ国、見慣れぬ国旗、度肝を抜く魔法の数々。
ただどういう訳か、銃や砲といった日本の近代兵器は見当たらなかった。
この世界の人々は、科学の代わりに魔法を発達させたようだ。
加えて、魔物というものもいるらしい。知能を持たぬ、異形の化け物。
妖怪のようなものだろうか。やはりそういった生き物はどこにでもいるようだな。
また、魔物の他にも魔族というものもいる。
これは知能のある人型の魔物で、基本的に人間と友好的らしい。
特徴は、無尽蔵の体力と強靭な肉体。
欠点としては、知能の低さ。多少はあるとはいえ、人間のような複雑な謀ごとは向かないらしい。総じて脳筋的な思考だとか。
この世界の国家は、軍人や土木業などは魔族がやり、軍の統率や政治、商売は人間がやっているらしい。
そのような体制が数千年続いているため、当初はぎくしゃくしていた人魔の関係も安定したとか。
そしてこのアルガント王国の4公とは、いわば魔族並の体力をもち、人並み以上に頭の切れる者たちのことだ。
故に強いし、賢い。
そしてその上に立つ王家は、魔王と勇者の血が入っており、おそらく世界でも有数の強者兼天才なのだとか。
ま、天皇陛下は神の血が入っているがな!
さて、私もそんな4公の一家に生まれたわけだから、当然体力が多いし、頭もいい。
走れば数時間は余裕だし、学べば不思議と頭に入り込む。まさに万能。
そして、今日。
私、イリス・ムローメツは、10歳を迎えるとともに貴族社交界へと飛び込む事になっている。
そして、その後には、すきる?とやらを調べるそうだ。
読んだ書物の言葉を借りよう。
『スキルとは、全ての生物に神から与えられる特技のようなものである。種によって持つ数は異なるが、人間なら平均1〜2、貴族は3〜4、王族は5以上とされる。魔族なら平均2〜3、貴族なら3〜4あるとされる。
教会などにある特殊な魔法具によって確認することができ、確認しなければ発動しない。
これを確認するのが儀式『アルティーモア』である。受ける年齢が20才以上とされるのは、精神的に未熟なものが過剰な力を得るべきではないという考えに基づいている。ただし、貴族や王族などの高度な教育を受けた者は10才以上でよいとされる。』
私の父も、やれ『全天眼』だの『派閥操作』だの『騎士道精神』だの『魔法研究Ⅳ』だのを有している。
きっと私も何かしら良いスキルを得れるに違いない!
ーーー|ーーー
「ようこそ、我がムローメツ家へ。歓迎いたします。」
所変わって、現在地は舞台袖。
舞台の中央には、正装の父上が立ち、拡声魔導具を持って眼下の貴族たちに語りかけている。
私の誕生日会兼、社交界へのお披露目会。
貴族たちは西洋風の、白いテーブルクロスのかけられた丸卓を囲うように座って、父上を見つめている。
それからしばらく挨拶を述べた父上は、大仰な身振りで私のいる舞台袖を示した。
「では早速ですが、私の可愛い娘をご覧に入れましょう――イリス!」
「はい、父上。」
ゆっくりと、床を踏みしめながら父上の下に歩いてゆく。
その所作に満足したのか、父上はにっこりと微笑んだ。
「これが」
父上は一度、言葉を切った。
「これが、我がムローメツ家の長女。イリス・ムローメツです。」
―貴族たちの表情は様々だった。
余りの美貌に息を呑む者、どうにかしてあれを手に入れようと気持ちの悪い笑みを浮かべる者、妬み、僻み、嫉妬、その他諸々…
私はそれらを見なかったことにし、静かに微笑んだ。
「始めまして。イリス・ムローメツと申します――」
ーーー|ーーー
「イリス様!どうか僕と結婚を!」
「いやいや、この俺と!」
「俺とは何だ、汚らわしい!イリス様、あんな猿など気にせず、僕とお付き合いを――」
「何だとは何だ!」
「何だとは何だとは何だ!このサルゥ!」
「なにを、やるか!」
「応!」
「負けるか!」
「うふふ、お止めになって、御三方。わたくし、誰ともお付き合いいたしませんので。」
ニコニコと笑みを浮かべながらそう言うと、今にも喧嘩を始めそうだった三人は、その体勢のまま固まった。
そしてそのまま、魂が抜けたようにへなへなとへたり込むのだった。
…ああ、しょうもない。
正直、辟易していた。
女とは、これほど面倒な人生なのか。
などと考えながら、傍にあった適当な菓子を口に放り込む私だった。
あ、これ美味いな。
もぐもぐもぐもぐ。
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