一般的日本兵、異世界貴族にTS転生す。〜大和魂を見せてやれ〜

金賀 治武峯

予章 魔王討伐編

第Ⅰ話

1945年2月末 硫黄島


「うおおおおおっ!」


ズキューン!バキューン!


ズダダダダダッ!


ドォーーン!


「進め進め!押し返せェ!」


ブオオオオッ!

ガラガラガラ…


「おい、戦車だ!気をつけろ!」

「おう!」



俺は、高田。



ドッゴォオン!

グワッシャアアアン!

「うわ!く、クソ、こんなところで…ぎゃ!」



俺は、高田。

誇り高き、日本の神兵。



ガラガラガラ!


「こっちに来るぞ!伏せろ!」

「ぎゃああっ、腕が!俺の腕が!」

「待て、そっちに行くな!そっちは…」


ズガアアン!



そう、教えられたのに。



「ふぅっ、ふぅっ…!」

「うおりゃああああ!」

ザシュ!


「おっしゃあ!一丁上がり…がッ!」

ドサリ。



何だ、このザマは?



「火、火、火がぁ!誰か、頼む、消してくれ…!」



薄々、気づいてはいた。

日本が、負けること。

でも、まさか。

まさか、俺が死ぬとは、思ってなかった。


「ボケッとすんな、高田ァ!」

「っ!?」


バァン!


「ぐっ!が…あ…」

「お、おい、新田?嘘だよな?おい!」



眼の前の親友、新田は苦しみながら動かなくなった。

俺を守ろうと覆いかぶさってきた新田の背中には、無数の手榴弾の破片が刺さっていた。


「に、新田ぁ…!」


ふざけるな。目の前の親友一人守れずに、何が神兵だ。


「あ…く、クソ!」



こんな、こんな地獄。

来るのでは無かった。



「ふ、ふう、ふ…!」



俺は、傍らの小銃を構えた。

もうとっくに弾は無くなってる。

補給所も、無事かどうか分からない。

なら、俺がするべきことは。



「ふうッ、ふうッ…!」


少し離れたところに、敵に指示を出しまくっている鬼畜アメリカ人が見える。

きっとアイツが指揮官に違いない。

俺はゆっくりと、銃の先についた銃剣を向けた。

疲労のためか、銃がいつもより重く感じる。


敵はまだ気づいていない。完全に別の方向を攻撃して、こちらには注意を向けていない。



「…ッ!」


次の瞬間、俺は走り出した。

背の装備を捨て、装備は帽子と銃のみ。

そして俺は、子供の頃からかけっこで負けたことのない、俊足の持ち主だった。


「うおおおおおおっ!!」


俺の叫びに反応して、敵の指揮官が振り返る。

その瞳からは、驚愕と恐怖の感情がわかった。

ヤツの口が開きかける。だがもう遅い。

みるみるうちに距離が縮まって、そして――



ズシャァッ!!


重い衝撃。眼の前には、溢れ出す血、苦痛に歪んだ顔。


「Ah――」


短く叫んで、ソイツは倒れた。

間違いなく心臓を貫いた。コイツは確実に、死ぬ!


「You bastard!」

「Quickly cross the Sanzu River!」


次の瞬間、ようやく動いたアメ兵どもから鉛の雨が降ってきた。

ああ、ごめんよ母さん。どうかこんな親不孝の息子を赦してほしい。妹よ、強く生きろ。父さん、今、そっちに行きます――


ダァン!


「ぐ…うぅ…が…」


ドサ…ァ………







ーー|ーー




…ここは…?


暗い…だが、温かい…。

何だ、これは…?


むっ、何だあれは。光?

眩しい、いやこっちに近づいて――





「まあ、産まれましたよ!」

「おお、おお、ユリア。無事産まれたのかね?」

「旦那様、まだお入りになってはいけませんよ!」

「ああ、わかっているとも。あっ、こらミューラー。まだ入るなと言われたろう。」

「あ、す、すみません父上。」


…寒い。

何なんだ、彼らは?あそこのドアの向こうから話し声も聞こえるし…

というか、俺は死んだんじゃ?


「うふふ、可愛い子ね。」


眼の前に美しい女性が現れた。

正確には、俺の視界に入ってきた。

だが、彼女には特徴があった。


透き通るような白い髪。

深みをたたえる、淡い赤色の目。

やや彫りの深い顔。

間違いない、西洋人だ――


次の瞬間、俺の心にドス黒い感情が湧き上がった。

戦友ゆうじんたる新田の無念の死。

新田以外にも、コイツ等に殺された戦友はごまんといる。


故に、俺は両手を彼女に突き出しながら、暴言の一つでも吐きかけてやろうと、口を開いた。

だが。


「おぎゃぁ!」

「まあ、元気な子ねえ!」

「う、ぶ、ぶ、おんぎゃぁぁ!」


両手は虚しく空を切り、口からは聞き慣れぬ甲高い泣き声がこぼれるばかり。

正確に言うと舌が回らなかった。


「うふふ、ええ、本当に…元気なですわねぇ。」


ちょっと待て、何だと?

お、女ぁ!?




――ここでようやく、俺は現状の3割ほどを理解した。



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