第14話 『隣の席の吸血鬼』
隣の席の吸血鬼 作:黒白
朝の教室。
窓から光が差し込む。
生徒たちが、ざわざわと話している。
俺、桜庭ハルトは、自分の席に座って本を読んでいた。
クラスの喧騒は、俺には関係ない。
一人でいる方が、楽だ。
「おはよう、ハルト」
誰かが声をかけてくる。
「……ああ」
短く返事をして、また本に目を戻す。
会話は、そこで終わり。
俺は、クラスで浮いている。
別に、気にしない。
◆
「――では、今日から転校生が来ます」
担任の声。
教室がざわつく。
転校生。
珍しい。
「入ってきなさい」
扉が開く。
銀髪の少女が、入ってきた。
赤い目。
透き通るような白い肌。
美少女だ。
教室中が、息を呑む。
「ルイーゼです」
少女が、無表情で言う。
声は、冷たい。
フルネーム、言わないのか。まあいいか。
「席は……桜庭の隣ね」
担任が言う。
俺の、隣。
ルイーゼが、こちらに歩いてくる。
俺の隣の席に、座る。
「……」
ルイーゼは、何も言わない。
俺も、何も言わない。
授業が始まる。
◆
昼休み。
クラスメイトたちが、ルイーゼに話しかけている。
「ルイーゼちゃん、どこから来たの?」
「……海外」
「へえ、すごい!日本語上手だね」
「……そう」
ルイーゼは、無愛想だ。
会話が続かない。
クラスメイトたちは、諦めて離れていく。
俺は、それを横目で見ていた。
ルイーゼは、一人で弁当を食べている。
俺も、一人で食べている。
隣同士。
でも、会話はない。
それでいい。
◆
放課後。
俺は、忘れ物を取りに教室へ戻った。
誰もいないはずの教室。
でも――
「……」
ルイーゼが、一人でいた。
窓際に立って、外を見ている。
月が、昇り始めている。
月の光が、ルイーゼを照らす。
その瞬間。
ルイーゼの目が、赤く光った。
「……っ」
俺は、息を呑む。
ルイーゼが、こちらを向く。
赤い目が、俺を見つめる。
「……見られたわね」
ルイーゼが、言う。
「お前……」
「吸血鬼よ」
ルイーゼは、あっさりと言った。
「吸血鬼……?」
俺は驚くべきだろうか。でも、なぜか驚かない。
「そう。信じられない?」
「……いや」
信じられた。
あの赤い目。
月の光に反応する体。
「……それで、どうするんだ」
「どうするって?」
「俺が、お前の正体を知った」
「……そうね」
ルイーゼは、少し考える。
「殺す……わけにもいかないし」
「……」
殺す、って軽く言うな。
「協力してもらおうかしら」
「協力?」
「血が必要なの」
ルイーゼが、言う。
「吸血鬼は、生きるために血を必要とする」
「……血を吸うのか」
「ええ」
血を吸う。本当に吸血鬼なんだ。
「……なるほど」
「あなたに、協力してほしい」
「……なんで俺なんだ」
「隣の席だから」
「……それだけ?」
「それだけよ」
ルイーゼは、真顔で言う。
理由が適当すぎないか。
「……わかった」
でも、俺は承諾した。
◆
次の日から。
ルイーゼは、俺に接触するようになった。
「血を吸うには、接触が必要なの」
ルイーゼが、説明する。
さっき、血が必要って言ってたよな。血を吸うのか、血が必要なのか。
「接触?」
「肌と肌を、触れ合わせる」
「……そうか」
休み時間。
ルイーゼが、俺の手を握る。
「……」
温かい。
ルイーゼの手は、柔らかい。
「……これで、血をもらってる」
「……そうか」
俺たちは、手を繋いだまま。
クラスメイトたちが、驚いた顔で見ている。
でも、気にしない。
放課後。
ルイーゼが、俺の部屋に来た。
「もっと効率的な方法がある」
「……何だ」
「もっと密着する」
「……」
ルイーゼが、俺に近づく。
体が、触れ合う。
「……熱い」
「……そうね」
ルイーゼの顔が、近い。
赤い目が、俺を見つめている。
「……キス、してもいい?」
「……え」
急すぎないか。
「もっと効率的に、血を吸える」
「……わかった」
ルイーゼの唇が、俺の唇に触れる。
柔らかい。
温かい。
甘い。
「……んっ」
ルイーゼが、小さく声を出す。
キスが、深くなる。
舌が、絡み合う。
「……はあ」
離れる。
二人とも、息が荒い。
「……これで、十分」
ルイーゼが、言う。
でも、顔が赤い。
「……そうか」
俺も、顔が熱い。
◆
それから、数日。
ルイーゼとの距離が、縮まっていく。
毎日、キスをする。
抱き合う。
密着する。
「……もっと」
ルイーゼが、囁く。
「もっと?」
「もっと、深く」
「……」
俺たちは、ベッドの上にいた。
ルイーゼが、服を脱ぐ。
白い肌が、露わになる。
「……見ないで」
「……見てない」
嘘だ。
見てる。
ルイーゼの体。
綺麗だ。
「……嘘つき」
ルイーゼが、微笑む。
笑った。
俺も、服を脱ぐ。
二人の体が、重なる。
肌と肌が、触れ合う。
「……熱い」
「……ああ」
ルイーゼが、俺の胸に顔を埋める。
「……血、もらってる」
「……そうか」
でも、それだけじゃない。
もう、生命力とか関係ない。
俺は、ルイーゼが好きだ。
「……ルイーゼ」
「……何?」
「好きだ」
急に告白してしまった。
「……っ」
ルイーゼの顔が、真っ赤になる。
「……私も」
小さな声で、囁く。
「……好き」
俺たちは、抱き合った。
月の光が、二人を照らす。
吸血鬼と、人間。
隣の席に座った、二人。
運命の、出会い。
「……ずっと、一緒にいて」
「……ああ」
俺たちは、結ばれた。
◆
それから。
ルイーゼは、俺の恋人になった。
学校では、隣の席。
放課後は、一緒に過ごす。
「……あなたの血、美味しいわ」
「……そうか」
「もっと、ちょうだい」
「……わかった」
キス。
抱き合う。
幸せな、日々。
吸血鬼と人間の、恋。
誰にも言えない、秘密の関係。
でも、それでいい。
二人だけの、世界。
「……愛してる」
「……俺も」
永遠に、続けばいい。
この幸せが。
――END
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