第14話 『隣の席の吸血鬼』

隣の席の吸血鬼 作:黒白




朝の教室。


窓から光が差し込む。


生徒たちが、ざわざわと話している。


俺、桜庭ハルトは、自分の席に座って本を読んでいた。


クラスの喧騒は、俺には関係ない。


一人でいる方が、楽だ。


「おはよう、ハルト」


誰かが声をかけてくる。


「……ああ」


短く返事をして、また本に目を戻す。


会話は、そこで終わり。


俺は、クラスで浮いている。


別に、気にしない。



「――では、今日から転校生が来ます」


担任の声。


教室がざわつく。


転校生。


珍しい。


「入ってきなさい」


扉が開く。


銀髪の少女が、入ってきた。


赤い目。


透き通るような白い肌。


美少女だ。


教室中が、息を呑む。


「ルイーゼです」


少女が、無表情で言う。


声は、冷たい。


フルネーム、言わないのか。まあいいか。


「席は……桜庭の隣ね」


担任が言う。


俺の、隣。


ルイーゼが、こちらに歩いてくる。


俺の隣の席に、座る。


「……」


ルイーゼは、何も言わない。


俺も、何も言わない。


授業が始まる。



昼休み。


クラスメイトたちが、ルイーゼに話しかけている。


「ルイーゼちゃん、どこから来たの?」


「……海外」


「へえ、すごい!日本語上手だね」


「……そう」


ルイーゼは、無愛想だ。


会話が続かない。


クラスメイトたちは、諦めて離れていく。


俺は、それを横目で見ていた。


ルイーゼは、一人で弁当を食べている。


俺も、一人で食べている。


隣同士。


でも、会話はない。


それでいい。



放課後。


俺は、忘れ物を取りに教室へ戻った。


誰もいないはずの教室。


でも――


「……」


ルイーゼが、一人でいた。


窓際に立って、外を見ている。


月が、昇り始めている。


月の光が、ルイーゼを照らす。


その瞬間。


ルイーゼの目が、赤く光った。


「……っ」


俺は、息を呑む。


ルイーゼが、こちらを向く。


赤い目が、俺を見つめる。


「……見られたわね」


ルイーゼが、言う。


「お前……」


「吸血鬼よ」


ルイーゼは、あっさりと言った。


「吸血鬼……?」


俺は驚くべきだろうか。でも、なぜか驚かない。


「そう。信じられない?」


「……いや」


信じられた。


あの赤い目。


月の光に反応する体。


「……それで、どうするんだ」


「どうするって?」


「俺が、お前の正体を知った」


「……そうね」


ルイーゼは、少し考える。


「殺す……わけにもいかないし」


「……」


殺す、って軽く言うな。


「協力してもらおうかしら」


「協力?」


「血が必要なの」


ルイーゼが、言う。


「吸血鬼は、生きるために血を必要とする」


「……血を吸うのか」


「ええ」


血を吸う。本当に吸血鬼なんだ。


「……なるほど」


「あなたに、協力してほしい」


「……なんで俺なんだ」


「隣の席だから」


「……それだけ?」


「それだけよ」


ルイーゼは、真顔で言う。


理由が適当すぎないか。


「……わかった」


でも、俺は承諾した。



次の日から。


ルイーゼは、俺に接触するようになった。


「血を吸うには、接触が必要なの」


ルイーゼが、説明する。


さっき、血が必要って言ってたよな。血を吸うのか、血が必要なのか。


「接触?」


「肌と肌を、触れ合わせる」


「……そうか」


休み時間。


ルイーゼが、俺の手を握る。


「……」


温かい。


ルイーゼの手は、柔らかい。


「……これで、血をもらってる」


「……そうか」


俺たちは、手を繋いだまま。


クラスメイトたちが、驚いた顔で見ている。


でも、気にしない。


放課後。


ルイーゼが、俺の部屋に来た。


「もっと効率的な方法がある」


「……何だ」


「もっと密着する」


「……」


ルイーゼが、俺に近づく。


体が、触れ合う。


「……熱い」


「……そうね」


ルイーゼの顔が、近い。


赤い目が、俺を見つめている。


「……キス、してもいい?」


「……え」


急すぎないか。


「もっと効率的に、血を吸える」


「……わかった」


ルイーゼの唇が、俺の唇に触れる。


柔らかい。


温かい。


甘い。


「……んっ」


ルイーゼが、小さく声を出す。


キスが、深くなる。


舌が、絡み合う。


「……はあ」


離れる。


二人とも、息が荒い。


「……これで、十分」


ルイーゼが、言う。


でも、顔が赤い。


「……そうか」


俺も、顔が熱い。



それから、数日。


ルイーゼとの距離が、縮まっていく。


毎日、キスをする。


抱き合う。


密着する。


「……もっと」


ルイーゼが、囁く。


「もっと?」


「もっと、深く」


「……」


俺たちは、ベッドの上にいた。


ルイーゼが、服を脱ぐ。


白い肌が、露わになる。


「……見ないで」


「……見てない」


嘘だ。


見てる。


ルイーゼの体。


綺麗だ。


「……嘘つき」


ルイーゼが、微笑む。


笑った。


俺も、服を脱ぐ。


二人の体が、重なる。


肌と肌が、触れ合う。


「……熱い」


「……ああ」


ルイーゼが、俺の胸に顔を埋める。


「……血、もらってる」


「……そうか」


でも、それだけじゃない。


もう、生命力とか関係ない。


俺は、ルイーゼが好きだ。


「……ルイーゼ」


「……何?」


「好きだ」


急に告白してしまった。


「……っ」


ルイーゼの顔が、真っ赤になる。


「……私も」


小さな声で、囁く。


「……好き」


俺たちは、抱き合った。


月の光が、二人を照らす。


吸血鬼と、人間。


隣の席に座った、二人。


運命の、出会い。


「……ずっと、一緒にいて」


「……ああ」


俺たちは、結ばれた。



それから。


ルイーゼは、俺の恋人になった。


学校では、隣の席。


放課後は、一緒に過ごす。


「……あなたの血、美味しいわ」


「……そうか」


「もっと、ちょうだい」


「……わかった」


キス。


抱き合う。


幸せな、日々。


吸血鬼と人間の、恋。


誰にも言えない、秘密の関係。


でも、それでいい。


二人だけの、世界。


「……愛してる」


「……俺も」


永遠に、続けばいい。


この幸せが。


――END

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