第02話 優等生~Side 黒~
中間試験の結果が返ってきた。
教室。
またか。
中間試験の結果が返される。
ということは――白石遥が突っかかってくる。
毎回、同じだ。
うんざりだ。
「はい、では中間試験の結果を返します」
担任教師が、成績表を配り始める。
生徒たちが、それぞれ封筒を受け取る。
「黒澤」
俺は立ち上がり、教壇へ向かう。
やる気のない足取りで。
封筒を受け取る。
席に戻り、開封する。
――中間試験成績表――
総合得点:486点
学年順位:1位
(……また1位か)
特に喜ぶこともなく、俺は成績表を閉じて席に戻ろうとした。
その時――
後ろから声。
「あたし、また2位だったんだけど」
……来た。
振り返ると、白石遥が立っている。
腰まで届く黒髪のストレートロング。
整った顔立ちに、どこか気の強そうな瞳。
制服を着こなした、スラリとした体型。
クラスでも一、二を争う美人だ。
でも。
俺にとっては、ただの面倒な女だ。
「あんた、どうせまた1位なんでしょ?」
そんなクラスの美少女白石が、美人に似合わぬ形相で俺のところにズカズカと近づいてくる。
そして、有無を言わさず俺の成績表をひったくる。
「おい……」
返せ、と言おうとしたが。
白石が成績表を見る。
「……やっぱり!」
白石の顔が悔しそうに歪む。
「8点差……たった8点で……」
白石が自分の成績表を俺に突きつける。
――総合得点:478点――
――学年順位:2位――
「見て!あたしだって頑張ったのに!」
「で?」
冷たく言う。
「俺に何の関係が?成績表返せ」
白石がきーっとなる。
「関係あるでしょ!」
「まだよ!」
白石が俺の成績表を掲げる。
「数学100点、国語98点、英語97点……全部高得点じゃない!」
「……だから?」
「全部、微妙にあたしより良いのよ!一つも勝ててないの!」
白石が悔しそうに言う。
「あたしだって数学98点取ったのよ!それなのに……」
「2点差だな」
無表情で言う。
「うっ……」
白石の顔がさらに悔しそうになる。
……面倒くさい。
この女は、いつもこうだ。
成績が返されるたびに突っかかってくる。
負けず嫌いで、プライドが高くて、一度決めたら譲らない。
俺は別に、競争したいわけじゃない。
二位だろうが何位だろうが、十分な成績ならそれでいい。
ただ、普通に生きたいだけなのに。
周りは勝手に「夫婦」だの「好き」だの言う。
それが――なにもかもが全部、面倒だ。
特に、白石遥が。
周囲がざわめき始める。
「今日も白石、黒澤に絡んでるな」
「あの二人、毎回これだよな」
クラスメイトの声が聞こえる。
「いい加減返せ」
俺は成績表を奪い返す。
「――次のテストで絶対勝つんだから!」
「……そうか」
淡々と言う。
「なによその態度!」
「別に。頑張れば」
「きーっ!!!」
「あの夫婦、またやってるよ」
誰かが言った。
その瞬間――
「夫婦じゃない!」
俺は低い声で言う。
「夫婦じゃない!」
白石も叫ぶ。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
顔を見合わせる。
白石の顔が、みるみる赤くなる。
……仲良くない。
むしろ、関わりたくない。
白石遥とは、一秒たりとも関わりたくない。
「ほら、息ぴったりじゃん」
「やっぱ夫婦だろ」
「もう付き合っちゃえよ」
クラスが笑う。
「ち、違うから!」
白石が真っ赤になって否定する。
「……」
俺は黙る。
否定する気力もない。
「あんたは黙ってて!」
白石が俺を睨む。
「……黙ってるが」
「だいたいあんたは、いつもそうやって冷静ぶって!」
「冷静ぶってるんじゃない。お前に興味がないだけだ」
「……!」
白石の顔が、さらに赤くなる。
「それが腹立つのよ!」
「知らん」
「ああもう!次は絶対負けないから!」
白石が席に戻る。
クラスメイトがまた笑う。
「白石、完全に黒澤のこと好きだろ」
「ツンデレってやつ?」
「黒澤の方は全然気にしてなさそうだけど」
(……まったく気にしてない)
白石遥。
学年2位。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。
クラスの人気者で、明るくて社交的。誰とでも仲良くできる。
……俺以外には。
俺に対してだけは、いつもこうだ。
成績が返されるたびに突っかかってくる。
負けず嫌いで、プライドが高くて、一度決めたら譲らない。
俺は別に、競争したいわけじゃない。
二位だろうが何位だろうが、十分な成績ならそれでいい。
ただ、普通に生きたいだけなのに。
周りは勝手に「夫婦」だの「好き」だの言う。
それが――なにもかもが全部、面倒だ。
白石遥が、一番面倒だ。
関わりたくない。
話したくない。
視界にも入れたくない。
そんな女だ。
放課後。
人目を避けて、屋上へ。
階段を上がる。
誰にも会わないように、足音を忍ばせる。
(……ここなら、誰もいない)
屋上のドアを開ける。
「……やっと一人になれる」
ドアを閉める。
誰もいない。
風が吹く。
遠くで部活動の声が聞こえる。
でも、ここは静かだ。
スマホを取り出す。
『小説家になろう』のマイページ。
PVカウンター:7。
「……また一桁か」
ため息。
昨日投稿した新作。
5万字書いた異世界ファンタジー。
『異世界転生~勇者の帰還~』
「今流行りの異世界転生。これなら読まれるかもしれない」
そう思っていた。
でも、現実は――
PVカウンター:7。
一週間経っても、一桁。
(……誰も、読んでくれない)
既存作品も確認する。
『魔法学園の日常』:PV 5
『転生した俺が最弱スライムになった件』:PV 3
『女騎士がエロスライムに凌辱された件について』:PV 23
基本一桁。
エロ短編だけが、かろうじて二桁。それでも低い。
「……くそ」
学校では、成績トップ。
テストで1位を取るのは、簡単だ。だって答えがあるのだから。
勉強すればいい。
覚えればいい。
解ければいい。
でも――
PVを上げることは、そうはいかない。
どんなに頑張って書いても。
どんなに時間をかけても。
どんなに面白いと思っても。
読まれない。
(……成績よりPVを上げることの方が、よっぽど難しい)
ため息をつく。
風が吹く。
夕日が、屋上を赤く染めていた。
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