ライバル優等生とエロ漫画描いたら恋に落ちた

@hoshimi_etoile

第01話 どうしてこうなった~Side 黒~

「ほら、こう腕を回して……」


遥が俺の腕を取り、自分の腰に当てる。

俺はクラスメイト白石遥の自室にて、彼女の腰に腕を当てている。

なんだこれは。


「お、おい……」

「何よ、さっきやるって言ったでしょ」


柔らかい。


……いや、これ、どこだ。腰……というか。


「ちょっと!お尻触らないでよ!」

「お前が当てたんだろ」

「腰って言ったでしょ!腰!」

「腰がどこかわからないんだよ!」


遥が顔を真っ赤に染めて俺の手を少し上にずらす。


……理不尽だ。


でも、確かに今の感触は……


柔らかくて、温かくて。


……いや、待て。何を考えてる。


相手は白石遥だぞ。

大嫌いな、白石遥。


いつも俺に突っかかってくる。

成績が返されるたびに「また1位!ずるい!」と怒鳴り込んでくる。

負けず嫌いで、うるさくて、面倒くさい。


正直、関わりたくもない相手だ。


なのに、何でこんなことになってるんだ。


遥の体温が、俺の手のひらを通して伝わってくる。

制服越しでも、その温もりがはっきりとわかる。


近い。


近すぎる。


吐息がかかる距離。


遥の髪から、シャンプーの香りが漂ってくる。

甘い匂い。

どこかで嗅いだことがあるような、ないような。

……いや、そんなこと考えてる場合じゃない。


こいつは敵だ。

ライバルでも何でもない。

ただの、面倒な女だ。


「……近すぎる」

「何よ!あんたが逃げるからでしょ!」

「逃げてない」

「逃げてるわよ!ほら、ちゃんとして!」


遥は頬を紅潮させて睨んでくる。

いつもの、あの勝気な目。

俺を敵視する、あの目。


でも、手は離さない。


……こいつ、本気なのか。


いつもの勝気な表情。

でも、頬が赤く染まっている。

耳の先まで。


……こいつも、意識してるのか?


まさか。

あの白石遥が。

いつも俺を睨みつけてくる、あいつが。


「で、こっちの手はこう……」


遥がもう片方の俺の手を取り、自分の肩に乗せる。


密着。


完全に、密着。


遥の髪が俺の顎に触れる。

柔らかくて、さらさらしている。

こんなに近くで女の子の髪に触れるなんて、初めてだ。

……いや、そもそも女の子と、こんなに接近したこと自体が初めてだ。

そして……胸が当たってる。

制服越しでも、はっきりとわかる柔らかさ。


……まずい。


これは、まずい。


心臓の音が、うるさすぎる。


「……ん」


遥が、小さく息を呑む。


「……あ」


遥も気づいたのか、固まっている。

顔が、さらに赤くなる。


……こいつも、わかってるのか。

この状況が、どれだけヤバいか。


でも、離れない。


俺も、動けない。


いや、動きたくない……わけじゃない。

動くべきだ。

こんな女と、こんな距離にいるべきじゃない。


でも。


心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。

遥にも聞こえてないだろうか。


「……あんた」

「……何だ」

「……近い」

「お前がそうしろって言ったんだろ」

「そ、そうだけど……」


でも、離れない。


俺も、動けない。


心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。

遥にも聞こえてないだろうか。


「……」

「……」


二人とも、固まる。


遥の呼吸が聞こえる。

少し早い。

俺と同じだ。


時間が止まったような感覚。


……これ、本当に参考になるのか?

こんな状況で、冷静に「参考」なんて言葉が出てくるのか。


「……お前」

「な、何よ」


遥の声が、いつもより高い。

いつもの強気な口調じゃない。


「これ、本当に参考になってるのか?」


遥が顔を上げる。


――距離、10cm。


遥の顔が、すぐそこに。


大きな目が、俺を見つめている。

瞳の中に、俺が映っている。


……やばい。


いつも敵意に満ちたこの目が。

今は、ただ俺を見つめている。


「……なってるわよ」


遥の声が小さい。

いつもの強気な口調じゃない。


「……そうか」


でも、遥の顔は紅く染まっている。

俺も、顔が熱い。


視線が合う。

逸らせない。


いや、逸らすべきだ。

こいつは敵だ。

関わるべきじゃない。


でも。


視界の端に、ピンク色が見える。


……待て、何を見てる。


「……離れろ」

「あ、あんたが離れなさいよ!」


遥が俺の手を払いのける。


俺も慌てて一歩下がる。


気まずい沈黙。


空気が重い。

さっきまでの体温が、手のひらに残っている。


遥がタブレットを覗き込む。

俺から目を逸らしている。


……こいつも、気まずいのか。

いつもは堂々と俺を睨みつけてくるくせに。


「……次、このキスシーンなんだけど」


え。


「はぁ?」



「このキスシーン、首の角度おかしくないか」

「どこが?」

「こんなに曲がるか?」


遥がタブレットを覗き込む。

画面には、男女がキスをしているイラストの下書き。


かなり、際どい角度だ。


「……実際にやってみればわかるでしょ」


遥が、さらっと言った。


……こいつ、マジで言ってるのか。


「は?」

「ほら、あんたがこっち向いて」


遥が顔を近づけてくる。


「おい、待て」

「何よ!さっきやるって言ったじゃない!」


……確かに、言った。

「参考にする」って。


でも、キスなんて聞いてない。

しかも、相手は白石遥だぞ。


大嫌いな、白石遥。


いつも俺に突っかかってくる。

いつも2位で悔しがる。

負けず嫌いで、うるさくて、面倒くさい。


そんな女と、キス……?


でも。


俺も顔を近づける。


遥の顔が、目の前に。


吐息が触れ合うほど、近い。


小さくて、柔らかそうな口元。

薄いピンク色。


……待て、何を考えてる。


「……」

「……」


二人とも、固まる。


遥の息遣いが聞こえる。

近すぎて、遥の目しか見えない。


大きな目。

今、俺を見ている。


長い睫毛。

瞳に映る俺の顔。


……どうして、こんなに近くで見つめ合ってるんだ。


こいつは敵なのに。

関わりたくないはずなのに。


心臓が、うるさい。

ドクドクと、鼓動が響く。


遥の吐息が、俺の顔に触れる。

温かい。


このまま、あと少し顔を近づけたら……


キス、できる。


白石遥と。

大嫌いな、白石遥と。


「……ん」


遥が、小さく声を漏らす。


その声が、俺の理性を溶かしそうになる。


……待て、これ、もしかして……


俺、今……


「や、やっぱりいいわ!」


遥が顔を背ける。

顔を真っ赤にして。


耳の先まで、赤く染まっている。


……俺も、顔が熱い。

というか、全身が熱い。


「……お前」

「何よ!」


遥が睨んでくる。

いつもの、あの目。

敵意に満ちた、あの目。


でも、目が泳いでいる。


「今のは……」

「な、何でもないわよ!次行くわよ!」


遥がタブレットをスクロールする。

手が震えている。


「……次は、えっと……」


声も震えている。


……こいつ。


完全に、意識してる。


大嫌いなはずの俺を。


「……お前」

「な、何よ!」

「無理しなくていいぞ」

「無理なんてしてないわよ!」


強がる遥。


でも、目が合わない。


……俺も、してる。


こいつのことを。

大嫌いなはずの、こいつのことを。


どうして、こうなった。



タブレットの画面。

そこに映るのは――かなり際どいシーン。


男女が、ベッドの上で……


……これ、描くのか。


「……これ、リアリティあるのか?」


思わず、そう聞いていた。


「……」


遥が真っ赤になって、画面から目を逸らす。


「……知らないわよ。経験ないし」


小さな声。

いつもの強気な遥じゃない。


「……俺もない」


沈黙。


重い、沈黙。


さっきまでの、あの距離感が頭をよぎる。

遥の体温。

シャンプーの匂い。

吐息。


……やばい。


気まずい。


すごく、気まずい。


「……もういい!今日はここまで!」


遥がタブレットを閉じる。


「……そうだな」


遥がタブレットをしまって立ち上がる。


俺も立ち上がる。


「……明日も、また打ち合わせ。よろしく」


遥が言う。

俺を見ないで。


いつもなら、堂々と俺を睨みつけてくるくせに。


「……おう」


俺も、遥を見られない。


遥が部屋を出る。

早足で。


俺は一人、残される。


……なんでこうなった。


大嫌いな白石遥と、かなり際どいことをしている。

しかも、あんなに密着して……。


顔が熱い。

全身が熱い。


手のひらに、まだ遥の体温が残っている気がする。

シャンプーの匂いも、まだ鼻に残っている。


遥の柔らかさ。

遥の吐息。

遥の声。


全部、生々しく記憶に焼きついている。


あの距離感。

あの、10cm。


……キス、できる距離だった。


いや、待て。

何を考えてる。


相手は白石遥だぞ。

大嫌いな、白石遥。


いつも俺に対抗してくる。

いつも2位で悔しがる。

負けず嫌いで、うるさくて、面倒くさい。


俺に突っかかってくる。

俺の成績表をひったくる。

俺を睨みつけてくる。


そんな女だ。


関わりたくもない。

話したくもない。

顔も見たくない。


そんな女のはずだった。


でも……


……でも、今日の遥は、いつもと違った。


真っ赤な顔。

震える手。

小さくなる声。


俺を見つめる、あの瞳。


あの距離で。

あの温もりで。


……くそ。


俺は深いため息をついた。


――なんで、こうなった。

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