私のタッグは鈴付喪
@inagaki_
第1話出会いはロマンの欠片もない!
鈴の女神は微笑んだ。
いつの間にかソレは私の生活に溶け込んでいた。広いつばの帽子を深くかぶり黒のケープコートに身を包んだ長身の女性。
初めて見たのは去年の秋だった。高校一年生、10月の末。ハロウィンで街が活気を帯びた夜、私は友人と集めて回ったお菓子を抱え自分の部屋に真っ先に向かった。別に自分の部屋に特別なものがあったわけでもないし見たい番組があったわけでもない。ただ疲労に甘えそのまま寝たいと思ったまでである。
さっさと寝るために自室のドアを開ける。部屋の中は暗かった。しかし何か不自然な人影があったのに気が付いた。動かないが人影の頭部らしきところから覗く目にじっと見つめられたとき、寒気を感じ金縛りにかかったかのように動けなくなったのを今でもよく覚えている。お菓子をたんまりもらい上機嫌だった私を恐怖のどん底に突き落とすには十分の要素である。
私と奴がどのくらい見つめ合ったのかはよく覚えていないがだいぶ長い間固まっていたと思う。なんせ帰り道に口に放り込んだ飴玉がすっかりなくなっていたのだから。
しかし電気をつけても動かない、突っついても動かない。きっと兄がハロウィンにと特別に作った推敲な置物なのだろうと思っていた。そして別に対話がしたかったわけでもなく声をかけた。
「飴玉ほしい?」
奴の後ろにあるベッドに座り、菓子が入ったかごをかき回す。
「一ついただこう」
しゃがれた若い女の声がした。
振り返ってきた奴は手袋をした手をよこして飴玉を催促した。
「……え?」
いうなれば独り言だった。よくぬいぐるみに話しかけるのと、同意義のことだった。しかし返答がきたのだ。何が起きたのかを脳が処理しきれずしばらく固まっていると奴はまた動き出した。
「おそいな、飴玉の味はこちらで選ばせてもらう」
奴は不躾な態度でかごに手を突っ込むとリンゴ味の飴玉を取り出した。
「あなたはだあれ?」
放心状態で絞り出した質問に奴は飴玉をむさぼりながら答える。
「私は射髄・裂傘鈴。鈴付喪の一人だ。」
「なんですって?」
「シャズイ、レッサンレイ。お前の守護神の名だ、覚えておけ」
「そう、わかったわ」
なぜここにいるか、どうやって入ったかなんて疑問に思うのを忘れるくらいにその高圧的な態度に腹が立ってきた。それと同時に眠気ですべてどうでもよくなった私は眠ってしまった。
後日、本当に奴は精霊なのか確認がしたいがために私は顔見知りの巫覡さんに会いに神社へ行った。
驚いたことに奴は、裂傘鈴は本物の精霊だったそうだ。
巫覡さん曰く神々に通ずるオーラが見えるらしい。
怪しく思っていたが友人も、親も裂傘鈴の姿を見れないでいることにはもう奴が精霊か神であることを信じるしかなかった。
今裂傘鈴は私の横で一年前のように飴玉を貪り食っている。
奴は舐めて食うのではなくバリボリと耳障りな音を立てて食べるものだから嫌気がさす。
「ねぇ裂傘鈴、あなた何も食べてない時だってあったわよね。この二年で飴玉しか食べてるとこ見たことないけど、あなたの食べ物ってなんなの?」
「生きるために必要な食料はない。私は一応神だ。信仰心さえあればそれをエネルギーに飲まず食わずで生きていける」
「あなたを祀っている神社なんてあるの?」
「馬鹿かお前。前にも言ったはずだ、私は付喪神と。覚えていないのか?お前、10年前に公園で鈴を拾っただろう。」
裂傘鈴はおもむろに鈴のついたかんざしを己のコートの内側から取り出すと私の机の引き出しを指し示す。
下から二番目の引き出し。開くと箱が入っていた。6号程度の菓子箱のなかにはドングリやおもちゃの指輪、お気に入りだったシュシュやセミの抜け殻が入っていた。
私が幼稚園生だった頃の宝箱。
その真ん中に、小さなクッションにのっかった鈴があった。
「わあ懐かしい、この鈴があなたなんだね。」
うなずく裂傘鈴。
「なんだかおもしろいわね。ただクッションにのせて放っておいただけで神様がついてくれるんだもの」
「私だって不思議に思うわ。こんなひどい扱いを受けたのは初めてだ。」
私はその言葉に反応した。
「初めて?あなたほかのだれかにも憑いてたことあるの?」
「当たり前だ、神といっても私は一応物であるからな。巡り巡っていろんな者ものの手に渡る。何年も目覚めない時だってあったさ」
まぁいい、と手を叩いて話を終わらせる裂傘鈴。ぶっきらぼうな口調だがちゃんと話はしてくれるのでありがたい。
「なんで私のところに来ちゃったんだろうね」
普遍的な高校生であり今まで事故にあったことも事件に巻き込まれたこともない。あまり守護神の必要性を感じないでいい生活を送ってきたために違和感に感じていた。
「しらん、だが私が憑いたということはお前は守られなければならないだと存在だということは確かだ。あまり危険な真似はするなよ」
「わかってるわよ、それに私がそんな危ないことするように見える?」
「しらん」
バッサリと切り捨てられ私は口を尖らすが、すぐに機嫌を戻す。
「いいわよ、私買い物行ってくる」
当然一人で行くことにはならず裂傘怜も付き添うことになった。
「友人へのプレゼントだな」
「そうよ、何かアクセサリーを買いたいわ」
「鈴のついたイヤリングなんてどうだ」
表情が見えない身なりの分その言葉は本気か冗談か判別がつかなかった。
〈-続く-〉
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