#15 雪護喜冬と妄想犯行計画 前篇

(妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 第四章 雪護喜冬とあの子

 #15 雪護喜冬と妄想犯行計画 前篇


 【202X 12月27日 AM09:00】

 【まほらぎ市民病院】

 

 私の名前は――雪護 喜冬ゆきもり きふゆ

 まほらぎ市内にある会社に勤める、20代半ばの普通の会社員である――

 

 私は今、まほらぎ市内にある市民病院にいる。

 まほらぎ市民病院に私がいる理由……

 それは……私の同僚であり、趣味友であり、片想いしている――森咲 杜鷹もりさき もりたか君が、昨日の夜に自宅で倒れてしまい、緊急入院してしまったからである――


 【雪護さん、雪護 喜冬さん】

 

 待合室で名前を呼ばれた私は、森咲君の担当医がいる診断室に通された――

 

 『森咲 杜鷹さんは、かなりの疲労が溜まっていたようです――同僚の雪護さん――心当たりは何かありますか?』

 『いえ……私と彼は同期なんですが、彼は昨日初めて会社を休みました――』

 『そうですか……幸い命には別状はないですが……』

 『森咲さんには、念の為――二日から三日程、検査入院をしていただく必要があります――』

 『……分かりました……彼のご家族には、私から連絡しておきます……』

 『よろしくお願いします』


 こうして私は今、【まほらぎ市民病院】にいるのだ。

 私は――森咲君の顔を見たかった――

 でも森咲君の容態を考えた担当医によって、面会することはできなかった……


 私は森咲君のご家族に状況を説明するため、彼の実家に電話をすることにした――


 プルル!プルル!

 

「はい、森咲ですが……どちら様?」

「いつもお世話になっております、雪護 喜冬です」

「――喜冬さん!?杜鷹は元気?」

「その……森咲くんの事で……お電話しました――」


 私は森咲君のお母様に、森咲君の現状を話した――

 だけど、森咲君のお母様の反応は、私が予想していた反応とは少しだけ違った……

 

「杜鷹がね――あの子、昔からなんでも抱え込む癖があるのよ――」

「でも、杜鷹は誰よりも人を見てる子だから――」

「私たち家族が行ったらね――」

「『なんできたんだ!、心配すんな!』と怒られちゃうから――」

「本当は行ってあげたい、でも雪護さん――」

「――私たち家族から言うのもおかしいと思うんだけど――」

「雪護さん――杜鷹を見守っていただけないかしら」

 

 ――森咲君は見守る事はできるけど……森咲君が抱える問題が分からない以上……私にはどうにもできない……


「はい……分かりました――また何かありましたらご連絡します」

「――杜鷹をお願いします――雪護さん――」

「――はい、失礼いたします」


 ツーツーツー


「私はどうすればいいのだろう……」

「とりあえず……家に帰ろう」


 ピロリン!


 家に帰ろうとした私のスマホに、突如通知音が鳴った――マナーモードにしていたのに……

 スマホの画面に表示されていたメッセージを見た私は、森咲君が現実ではありえない、得体の知れない何かに巻き込まれていると確信した――


「何……これ?、なんで森咲君の名前が?」


 【森咲 杜鷹様】

 【妄想犯行計画の再ログイン期限が残12時間を切りました】

 【ログインされない場合、【ほこやぎ町】の停止した時が紡ぎを開始します】


 森咲君の名前と【妄想犯行計画】という怪しい名前。

 そして【萬屋 赤葉の事件帳】の舞台である【ほこなぎ町】に似た名前……


 【妄想犯行計画プロジェクト】の担当者、【小蒼こそう】と名乗るメッセージの差出人――

 

 この【不吉なメッセージ】を見た私は、ある一つの答えを導き出した――


 私と森咲君が、駅の近くの【まぼらぎシアター】で【萬屋 赤葉の事件帳】の劇場版アニメを見たあの日を境に――現実ではない、幻の様なモノに心を侵食されてしまった――

 

 森咲君の目の光が消えてしまったこと――

 昨日――仕事納めの日に初めて欠勤したこと――

そして昨日――森咲君の部屋で、森咲君が私に隠そうとしていたモノ――

 全てが――一つに繋がっているのではないか?


 そう考えた私は、森咲君の自宅である【ハイツまほらぎ】に向かうことにした――


 【202X 12月27日 PM12:00】

 【ハイツまほらぎ 森咲 杜鷹の部屋】


 ガチャン!

 ガチャ――


「お邪魔します――」


 私は今、森咲君の自宅にいる――

 昨日、森咲君が倒れたリビングの奥の部屋に向かった――

 

 森咲君が倒れた部屋に着いた私は、森咲君が使用していると思われる机で見たモノは――

 昨日、森咲君が隠そうとした【ソレ】だった……


 そして【ソレ】の正体は、一台のノートPCとメガネ型のVRゴーグル。

 

 机の前の椅子に座った私は、ACアダプターがない不気味なノートPCの電源を躊躇うことなく入れた――

 

 【KoKuSouS 起動中……】

 【ようこそ!森咲 杜鷹】


 【KoKuSouS】という、私が聞いたことのない謎に満ちた【OS】。

 

 そして――起動画面からデスクトップ画面が表示された時、

 あまりの非現実的な光景に――私は言葉を考えることができなかった――

 

 なぜなら――デスクトップ画面で動いてる女の子は、雪護 喜冬――私自身だった――

 正確には、10年前の私に似ている女の子がそこに確かにいるのだ……


『ふっ――やっときたね――雪護 喜冬』

『私の契約者――森咲 杜鷹は大丈夫?』


 私がやっと来た? 私の契約者、森咲君?

 どういうこと?


「あなたの言っていることが――」

「――私には理解できない」

「あなたと森咲君の契約と――」

「【妄想犯行計画】は――何か関係があるの?」

 

 私は画面の中の私に問いかけた――

 しかし返ってきた言葉は驚くべきものだった――


『ふっ――何にも知らないんだね――喜冬は?』

『――絶望の未来を変える、杜鷹の覚悟を……』

 

『ふっ――まあいいや、画面越しで話すのも面倒くさいからさ――』

『そこにある――【メガネ型ゴーグル】をかけてみなよ――』


 私の今の心境は――帰りたい……

 【メガネ型のVRゴーグル】をかけることで、私が見ている【今の世界】が壊れていくのでは――

 そう思うと、私は正直……怖い……


 でも……森咲君が抱えていた【秘密】を知ることができるのであれば……【怖いから帰る】という選択肢は選ばない!

 

 だから私は、画面の私の指示ではなく――私、雪護 喜冬という自分の意志で、【メガネ型ゴーグル】をかける選択をした!


 【メガネ型ゴーグル】をかけた私は、椅子に座ったまま意識が飛んでしまった――


 【おかえりなさい?森咲 杜鷹?】

 【妄想犯行計画にログイン開始……】

【ほこやぎ町 境界線外に五感転送が完了しました】


 ――おかえりなさい? ログイン開始? 五感転送?……訳が分からない……


 【202X X月X日 AMPM XX:XX】

【ほこやぎ町 境界線外 まほやぎプラネタリウム】


 意識が目覚めた私は、天体観測が上映されているプラネタリウムと思われる施設内にいた――

 視界には【VRゲーム】の様々な情報UIが表示されており、現在地は【ほこやぎ町 境界線外】【まほやぎプラネタリウム】と示されている――


 ――現実世界のまほらぎ市とゲーム世界のほこやぎ町との境界線で、まほやぎプラネタリウムという意味なのかな?

 

 そして私の目の前には、10年前の私に似た先程の女の子がいる――

 

「ふっ――雪護 喜冬――本当にこれで良かった?」

「うん――森咲君が本来いるべき世界で――」

「森咲君を支えるためには、私は森咲君の秘密――」

「【妄想犯行計画】について知らないといけない――」

 

 森咲君が私に秘密にしていたことを、私は知らないといけない。

 森咲君の【絶望の未来】。

 そして――森咲君と私がした契約――


「あなたが【小蒼】――さん?」

「そう……ワタシの名前は小蒼――かつて刻想器だったモノ」

「そして森咲 杜鷹と契約した刻想器、それがワタシ……」


 刻想器? 初めて聞く名詞に私は戸惑っていた。

 ――刻む、想いの器?

 

「ふっ――刻想器は、幾つもの世界を渡る存在」

「あなたたちヒトと奇跡的に出会えた時――」

「その人が見せた【絶望の未来】を変えるキッカケを――」

「【想いの契約】によって力を与える存在」

「――雪護 喜冬、あなたは森咲 杜鷹の【絶望の未来】を――」

「――見る覚悟はある?」


 森咲君の絶望の未来を見る覚悟はあるのかって?

 あるに決まってる。


 森咲君と私が仲良くなれたのは【萬屋 赤葉の事件帳】だ。

 でも私にとって――森咲 杜鷹とは同僚でもない、趣味友でもない――


 護りたい――大事な人なのだから!


 私は森咲君の契約者と名乗る【小蒼】さんに、森咲君が見た【絶望の未来】を見る覚悟を伝えた――


 ――【絶望の未来】を見るのは怖い……でも私は――雪護 喜冬ゆきもり きふゆは、森咲君を護ると決めたのだ――!


 #15 雪護 喜冬と妄想犯行計画 前篇 完

 #16 雪護 喜冬と妄想犯行計画 中篇につづく

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妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム 魔与音 庵 @mayone_an

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