#14 匂いのトリック 閉幕篇

 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #14 匂いのトリック 終幕篇


 【202X 1月X日 PM17:00】

 【ほこやぎ町 萬屋記録局よろずやきろくきょく

 

 金餅邸での事件を解決した赤葉さんと僕は、萬屋記録局に戻ってきた――

 

 赤葉さんは、局長のデスクで今回の金餅さんの異臭騒ぎについての記録を、パソコンで一生懸命に打ち込んでいる――


 「えーと――金餅 良緒かねもち よしお様の異臭騒ぎのき……きろ……記録についてっと――」

「赤葉さん――大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないよ!――やいねぇにお客様からの調査依頼について、必ず報告書を提出する約束!」

「――それを必ず行う約束で、萬屋記録局を支援してもらってるから!」

 ――八色警視、恐るべき姉上様だよ……


「いつもはさ、白葉しろはねぇに手伝ってもらって――なんとか報告書を出してるんだけどね……」

「さっき、やいねぇにモリタカに頼んでいいかって、電話で聞いたらさ――」

「『モリタカ君は局員、責任者はあなたでしょ』――だって!」

「……ははは」

「ははは――じゃない!――でもモリタカがいなかったら、西坂さんの【犯行計画】は暴くことができなかったよ……」

「ありがとう――モリタカ――」

 

「僕は――【人を殺めた人物】が許せなかった……それだけですよ――」

「――まあ、私も同じ考えだけど――ね」

「まあいいや、とりあえずさ――疲れただろうし」

「昨日も寝てないんでしょ?」

「今日はゆっくり休みなよ――モリタカ」

「わかりました」


 ガチャ――

 

「ふぅ――疲れた――」

 

 僕は今、萬屋記録局の僕の部屋で――ベッドに横になっている。

 数時間前の事件解決の瞬間まで、僕の視界に映っていた【残解決時間】の表示が、消えたことがこんなにも安心感があるなんて……

 

 今回の事件について、【西坂さん】が全て認め、自分から話を始めたと八色さんから赤葉さんへ――電話報告があった――

 

 赤葉さんは詳しく教えてくれなかったが、『えーと、推理ドラマによくある金餅さんと西坂さんとの間にあった、立場と金銭が絡んだトラブルだよ』と言われた――

 

 ――言いたいことはわかるけど……赤葉さんたちも同じ様な存在なんだけどね……


 「まさか――自分が本当に事件を解決してしまうなんて……」

 


【妄想犯行計画からログアウトしました】

【お疲れ様でした】

【次回帰還期限 】

【202X 12月27日 PM20:00】


 妄想犯行計画からのログアウト方法の一つ、それは睡眠だ――

 拠点である萬屋記録局で、ログアウトするのが一番安全な策なのである。

 

 そう言えば――僕がログインしたのは――今日、12月26日の夜の20時だったな――

 現実世界はログアウトするまで、時間が完全にストップしてるから――1秒も経っていない――

 ――昨日の朝に事件に遭遇してからログアウトするまで、30時間も寝ずに頑張ったご褒美は……ラーメン!


 サラリーマンである僕――森咲 杜鷹もりさき もりたかが、本来紡ぐべき現実世界に帰還する――

 それが次に僕が目覚めるときだ――

 


 【202X 12月26日 PM20:00】

 【まほらぎ市 ハイツまほらぎ】


 【まほらぎ市への五感帰還が完了しました】

 


 やっと帰ってきた!約30時間ぶりの現実世界!

 お腹が空いた僕がまず考えたこと――【まほらぎ家の特製醤油ラーメン】を食べに行くことだ!

 あれだけ強烈な匂いを放つ【臭い干物】を使ったトリックの事件を解決したのだ――事件解決祝いには、現実世界の【シメのラーメン】に限る!

 そんなワクワクな気分で――浮かれた僕が、メガネ型ゴーグルを外そうとした瞬間――

 背後から僕の護りたい人の声が聞こえた――

 

 「森咲くん!――何やってるの!」

 「……なんで――雪護ゆきもりさん?……いるの?」

 ――やば、バレた?……というか、なぜ僕の部屋にいるんだ?――喜冬きふゆさん……


「なんでって!――今日、森咲君――仕事納めの日だよ――」

「部長に頼まれて、仕事納めの祝品を届けに来たの――」

「森咲君にもさっき何回も電話したよ……でも出なかった」

「私は一度、森咲君の家に萬屋 赤葉のレアグッズを宅配便で送らせてもらったことがあった――」

「だから――心配で様子を見に来たの!」


 同僚である喜冬きふゆさんから、そう言われてしまった僕は、自分のスマホのロック画面を見た――

 ロック画面に表示されている通知は、複数件の喜冬さんからの着信履歴、僕を心配するメッセージが複数件、喜冬さんから送信されていた――


 確かに今日、5D五感酔いが酷くて――仕事納めの大事な日なのに、僕は会社を欠勤したことすら忘れていた――

 

 趣味友以上恋人未満な関係だけれど、僕が休んだら必ず心配するであろう、喜冬さんのことも考えずに――事件解決をしたご褒美に呑気な気分でラーメンのことばかり僕は、考えていたのだ……


「ごめん……喜冬さん!」

 ――謝ることしか僕にはできない、でも喜冬さんを【妄想犯行計画】に巻き込む訳にはいかない!


「森咲君……部屋の奥にある【ソレ】、何?」

「それと【あの世界】って、どう意味?」

 

 喜冬さんが、指を指した方向にあった僕の部屋にあった【ソレ】。

 それは、ゲーミングデスクに置いてあった――【KoKuSouSコクソウズPC】と【メガネ型ゴーグル】だった――


 「【ソレ】――?あ……そ……それは――え……………………?」


 喜冬さんにバレてしまったという現実に、思考が追いつかなくなってしまった僕は、頭の中がぐるぐる回る感覚に陥って…………


 バタン!


 「ねぇ!森咲くん!――モ……リ……サ……」


 喜冬さんに【KoKuSouSPC】と【メガネ型ゴーグル】がバレてしまった僕は、途切れゆく声を聞きながら意識を失った……


 #14 匂いのトリック 終幕篇 完

 第三章 萬屋 赤葉と匂いのトリック 完


 次章 第四章 雪護喜冬とあの子

 #14 雪護喜冬と妄想犯行計画につづく

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