#10 匂いのトリック 探索篇 Part.3

【妄想犯行計画】は、創作世界の物語です。

 この物語はフィクションです。

 実在の人物、団体、事件、出来事とは一切関係なく、すべて架空の世界の出来事と事件です。


 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #10 匂いのトリック 探索篇Part.3


 前回の終盤。

 資産家である金餅 良緒さんの邸宅内で、発生している異種騒ぎの調査と記録を依頼された、赤葉さんと僕は――邸内の書斎室で、命の灯火が消えてしまった――金餅さんを発見。


 萬屋記録局の局長――萬屋 赤葉よろずや あかはさんと局員である僕――森咲 杜鷹もりさき もりたかは、スキンヘッドの警部――明堂 真めいどう しん刑事の許可の元――事件の調査を始め、邸内を調べながら――K.S換気室と食室を調べ――食室で犯人への手掛かりを見つけた――という所で終わったと思う――


 これから、前回の続きをお話ししよう――


 【金餅邸 書斎室】

 【202X年1月X日 PM16:00 残解決時間 159時間】


 赤葉さんと僕は、犯行現場である金餅さんの書斎室に戻ってきた。

 K.S換気システムの管理者IDとパスワードの手掛かりを見つけるためだ――


「で――事件解決の手掛かりは見つかったのか?――赤毛のフリ探」

「――赤毛のフリ探?その呼び方やめてって――何回も言ってるよね?」


 ――この世界でも赤葉さんは、赤毛のフリ探偵と呼ばれているのか?


 僕の目の前にいる萬屋 赤葉さんは、街の記録人を自称しているフリーター。

 つまりフリーターと探偵、赤葉さんの赤髪という特徴から、明堂さんには赤毛のフリ探と呼ばれている――

 ――赤葉さん自体は、気に入ってはないけどね……


「スキンハゲ――って言われて、いつも怒ってるの誰?――」

「あ?――赤毛のフリ探偵よぉ……いくら萬屋姉妹の妹だからって、言っていいこと――悪いことがあるだろうが!」


 ――萬屋姉妹?……萬屋 八色よろずや やいろ?――そうだ、今の今まで、すっかり八色さんの存在を忘れてた……赤葉さんと明堂さんが、仮想空間現実にいると言うことは、つまり八色さんも――


「明堂くん、赤葉――そこまで。あなたたち、ここは1人の命の灯火が消えた現場なのよ――分かってる?」

「それとキミ、確か……モリタカ君だっけ?――赤葉が暴走したら――あなたが止めないとダメ、じゃない?」


 ピシッと着こなしたスーツ、赤葉さんをそのまま大人にしたような女性が赤葉さんと明堂さんの仲裁に入った。

 ――いたよ……やっぱり。

 赤葉さんの姉、萬屋 八色さん。この人を怒らせると――明堂さんの警察官としての未来が一瞬で消え飛ぶ、それぐらいの影響力を持つ人間だ。


「赤葉……萬屋記録局みたいな謎な組織が活動できているのか――あなた、忘れてない?」


 これは【萬屋 赤葉の事件帳よろずやあかはのじけんちょう】の【ほこなぎ町】においても同じだ。赤葉さんが事件に首を突っ込んでも――お咎めがないのは、赤葉さんが事件を解決しているからではなく――八色さんの手回しが的確すぎるからだ。


「ごめん……やいねぇ」

「すいません――萬屋警視」

「分かればよろしい。で?モリタカ君、手掛かりは見つかったの?」

「はい、八色さん――手掛かりは――」


 僕は――八色さんにK.S換気システムの管理IDとパスワードの件。

 食室で見つけた、犯人がトリック実行に証拠隠滅を図るために洗った、【匂いが残るお皿とスポンジ】の件を説明――書斎室に戻って来た理由を説明した。


「……匂いが残る皿とスポンジと換気システムの管理パスワードとIDねぇ……」

「はい――あのシステムの管理画面に入ることができれば、操作ログから犯人の手掛かりに繋がるかと……」

「――かねもち よしお、KANEMOCHI カネモチIISHOイイッショ

「……え?、八色さん今なんて?」


 KANEMOCHI IISHO?

 ――どういうこと?


「金餅さんの口癖……色んな場所で自己紹介代わりに言っていたそうよ」


 【わしゃ、お金持ち。いいでしょ?】


 盲点だった――赤葉の事件帳で、金餅さんにあたる【金岳 もつ照】さんも、『わしゃ、金だけは持ってる』が口癖の老人。

  今にして思えば――ヒントは最初からあった。

 推理モノの作品で、被害者の名前が――実は隠されたヒントだったのはよくある――


「とりあえず、K.S換気システムの制御室に行きましょうか――赤葉、モリタカくん」


 思わぬ形で、管理IDとパスワードの情報を手に入れてしまった赤葉さんと僕だったが、時間は待ってはくれない――

 赤葉さん、八色さんと僕は、K.S換気システム制御室に向かうことにした。


 【金餅邸 K.S換気システム制御室】

 【残解決時間 158時間】


 赤葉さんたちと僕は、K.S換気システム制御室に戻り、僕は今、K.S換気システムの操作パネルを操作している。


 【管理者IDが必要です。管理者IDとパスワードをご入力ください 残1回】


「――KANEMOCHI」

「――IISHO……どうだ?」


 【管理IDとパスワードを確認中......】

  【承認】


「よし!――ありがとうございました、八色さん」

「お礼は事件が解決してからよ――それより君が見たい情報」

「――はい」


 ――やっぱり赤葉さんと違って、ビシッとしてるよな、八色さん……


 管理画面で、僕が見たかった情報。

 K.S換気システムの換気、排気、吸気の設定とログ。

 あとフィルターの場所、交換ログ。


 まず、換気の設定ユーザーは――【admin kanemochi】

 毎日朝7時から8時の間に自動稼働している換気システム設定ログによると――金餅さんは1日のルーティンを決めて行動していた。

 そして自身の生活ルーティンに合わせ、自動的に換気システムがオンオフ稼働するように設定していたことがログの情報から分かった――


 僕は次に、家政婦たちによる換気設定ができるのかを確かめるべく、ユーザー権限設定を開いた。

 ユーザー権限設定を開いた結果、換気設定はシステム管理者の金餅さん以外、操作できない様に全ユーザーレベル単位で、換気設定はオフに設定されていた――

それとは別に興味深い設定があった、それは網膜スキャンによる――生体認証。


 網膜スキャンによる生体認証は、本来の僕――サラリーマンである森咲 杜鷹の現実世界にもある技術だ。

 しかし個人を特定できるまでの情報は、SF映画でしか見たことない。

  ――小蒼ちゃんが僕の記憶を覗くことができるのは、知ってたよ……でも本気出し過ぎだよ……


「えーと網膜認証のログは、昨日の……ん?――K.N   

 202X:010X:20:30?」

「――モリタカ君。ちょっと見せてもらっていい?」

「やいねぇ、どうしたの?」


「――――さんの――――かも」

「……え?」

「――はぁ、呆れた……2人とも明堂くんから聞いてないの?」

「2人がすれ違った――家政婦さんの名前――」


 僕はなんという初歩的ミスをしてしまったんだ。

 赤葉さんと僕は、金餅さんの名前しか知らない。

 僕たち2人が、証拠集めしている間も明堂さんが、事情聴取していたなら、家政婦さんたちの名前は知っているはず。

 僕が明堂さんに聞かないと教えてくれないのは――当然だ。

 だってこの世界に住む赤葉さんと明堂さん、そして八色さんも同じ1秒を進む――人なのだから。


「――さんと――さん……分かったぞ、このトリック」

「八色さん――調べて欲しいことがあります」

「調べて、欲しいこと?」

「――――――――――――――――です」

「……分かったわ、明堂くんにも共有しておく」

「よろしくお願いします」


 八色さんは、明堂さんの元に向かい。

 赤葉さんと僕は、最後の手掛かりを見つけるため。

 K.S換気システム制御室を後にした。


 【金餅邸内 廊下】

 【残解決時間 156時間】


 赤葉さんと僕は、最後の手掛かりを見つけるため――書斎室と食室以外の部屋を調べたのだが、新しい手掛かりは見つからず――八色さんがいる書斎室に向かっている。


「モリタカ――やいねぇに何を頼んだの?」

「それは……金餅さんを殺めた方法、殺めた人に確実に繋がる手掛かりです」

「――モリタカってさ、なんでそんなに探偵な知識あるの?」

「あの最初の日……私と最初に会った日も思ったんだけど」

「それは……僕は子供の頃から推理モノやトリックモノを見まくってたからです」

「あはは――普通、そんなこと堂々と言わないよ――」

「ま、キミが訳ありなのは知ってるしさ――あんまり深くは探らないけどね――でも……普通じゃないよ……」


 普通じゃない……赤葉さんがそう思うのは当然だ。

 僕はこの世界の住人であっても本当の住人じゃない。

 赤葉さんたちも【ほこなぎ町の赤葉さんたち】ではなく、仮想空間【妄想犯行計画 ほこやぎ町の赤葉さん】の住人だ。

  ――僕が逆の立場でも――ありえないし怪しいから普通、疑うよ……


「でもさモリタカ――普通にあの換気システム、想像以上にやばくない?――あれSF映画に出てくるギミックだよね――」

「網膜スキャン――個人情報を読み取るとか、やばすぎ」

「――僕も普通にパニックになりましたよ……あんな近未来な装置見たことないので」

「またまた――ほんとは触ったことあるんじゃないの?フィルターログが。とか言ってたじゃん」

「本当ですって……いや困ったな――」

「冗談だよ、冗談――間に受けすぎ、でも信頼してるから、ね」

「はい、ありがとうございます。赤葉さん――」

「でさ――」


 萬屋 赤葉という存在、萬屋 八色という存在、明堂 真という存在。僕がファンである若手女性小説家 柊先生が作り出した【萬屋 赤葉の事件帳】という作品から生まれた、少し変わった繋がり。

 この世界にいる間の僕は、ほこやぎ町在住の森咲 杜鷹として存在していると改めて――実感させられた。


 ハッピーエンドの未来を掴むため、僕は必ず犯人を暴き出す!

  ――僕自身の未来のために!


 #10 匂いのトリック探索篇 Part 3 完

 #11 匂いのトリック 解決篇 Part 1につづく

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