#9 匂いのトリック 探索篇 Part.2

【妄想犯行計画】は、創作世界の物語です。

 この物語はフィクションです。

 実在の人物、団体、事件、出来事とは一切関係なく、すべて架空の世界の出来事と事件です。


 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #9 匂いのトリック 探索篇 Part 2


 前回の終盤。

 異臭騒ぎの調査と記録を萬屋記録局よろずやきろくきょくに依頼してきた――金餅 良緒かねもち よしおさんに会うため、僕、森咲 杜鷹もりさき もりたかは萬屋記録局の職員として、局長の萬屋 赤葉よろずや あかはさんと【ほこやぎ町】郊外にある金餅さんの邸宅を訪れていた――


「旦那様――旦那様、萬屋記録局のお二人が見えましたよ……旦那様?」

「キャアアアアー!」

「……モリタカ!警察と救急車、はやく!」


 初老の家政婦の案内で、赤葉さんと金餅さんがいる書斎に向かっていると、家政婦の悲鳴が聞こえ――書斎についた僕たちが見たのは――命の灯火が消えた、初老の依頼人だった――


「――ったくよ、お前らが事件を解決しちまうと――上に報告する時に――色々面倒なんだよ――」

 赤葉さんの相棒刑事――明堂 真めいどう しん刑事に、推理モノでよく使われるセリフを言われ――僕たちは、犯行現場に戻ってきた。


 確かここで終わったと思う――


 僕の未来を掴むために――このあとの話をしよう――


 【202X1月X日 PM13:00 残解決時間162時間】

 【金餅邸 邸内書斎室】


「いいかお前ら――現場だけは、絶対に荒らすなよ」

「お前達がヘマしたら――俺の未来がなくなっちまう……」


 明堂刑事の推理ドラマによくあるぼやきから始まった、犯人を暴くための探索。

 僕の視界の右上にある時刻表示の下には――帽子を被って虫眼鏡を持った人のアイコンが表示されていた――


 ――探索パート開始の合図か……こういうところ小蒼ちゃんは――細かいよな……。


 ニャーン――ニャーン

 ニャーン――ニャーン


「――猫?」

 ――赤葉の1話で猫が出てきたのは、確か終盤だったはず――

 赤葉の一話とは明らかに違う流れに僕が、戸惑っていると――白いスマホから小蒼ちゃんの声が聞こえてきた――


 『ふっ、いつまで杜鷹は――赤葉のアニメの情報頼りに攻略しようとしているの?――今、杜鷹が立っている場所は、仮想空間のほこやぎ町――杜鷹が住む現実世界とは違う――そしてもう一つの現実世界でもある――』


 今――僕が見ている光景の1秒1秒が、リアルタイムで時が流れている――現実。

 妄想犯行計画のプレイヤーの1人としてではなく、このほこやぎ町に今、住んでいる森咲 杜鷹という1人の人間として――もう一つの現実を体験している。

 ――それが、五感再現。


 『ふっ、1秒1秒を大事にしないと――あっという間に解決時間が来て、ゲームオーバーだね――』


 小蒼ちゃんからの忠告と煽りを受けた僕は、必ずこのステージをクリアしてやるスイッチが入った。


「――萬屋さん、一つ聞きたいのですが?」

「ほこやぎ町で、――――を売っているお店、知りませんか?」

「――――?、なんでそんな物が必要なのよ」

「ていうか私、魚嫌いだし――野菜は、好きだけど」


 僕が赤葉さんに聞いた――――は、このトリックに必要不可欠な物。

 猫がさっきから鳴いているのも――異臭騒ぎの原因も――僕が探している、――――が原因の一つだからだ。


 でも――――を見つけただけでは、犯人が金餅さんを殺めた確定的な証拠にはならない。

 だから書斎を含めた邸内を一度、調べる必要がある。


 とりあえずあのK.Sシステムから調べよう。

 ――一番、怪しいし。


【残解決時間161時間】

【金餅邸 K.S換気システム制御室】

 

 広大な広さの金餅邸内に設置された換気システム――K.S換気システム。

 システムの制御室に来ている僕と赤葉さんだったが、意味不明な文字の羅列により――コンピュータ制御されているK.S換気システムのコントロールパネルは――何が書いてあるのか、サッパリ理解できない仕様だった――


「未来すぎでしょ――何が書いてあるか、訳わかんない――ねぇ、モリタカ?」

 ――赤葉さん。それは僕もわかんないよ――これを作った本人小蒼ちゃんに聞いてくれ……


 とりあえず……換気システムというなら――管理画面に換気フィルターの交換目安ラインと交換ログ、換気フィルターの設置場所などが、記されている項目があるはずだ――


「――あった、フィルター関連ログ、ここを操作すれば……」


 【管理者IDが必要です。管理者IDとパスワードをご入力ください 残1回】

 ――ですよね……やっぱり、そうなりますよね。


 操作パネルを操作している僕を真横で見ていた――赤葉さんが、僕に尋ねてきた。


「ねえ――モリタカ?……あと1回で入力出来なかったらどうなるの?」

「おそらく――K.S換気システムの強制シャットダウンとか……」


 K.Sシステムの強制シャットダウン――すなわち詰み。

 犯人もしくは、金餅さん自身が入力ミスした可能性もある。


「強制シャットダウン?……怪しさマックス――」

「萬屋さん、管理者IDとパスワードの手掛かりがないか――もう一度邸内を調べましょう」


 赤葉さんと僕は、管理者IDとパスワードの手掛かりを探しつつ――邸内の調査を再開した。


【残解決時間160時間】

【金餅邸 食室】

 


 赤葉さんと僕は、金餅邸の食室に来ている。


「いやーやっぱり、お金もちなだけあるねー……豪華なオープンキッチン――モリタカもそう思わない?」

「そうですね、こんな豪華なオープンキッチン――ネットでしか見たことないです」


 赤葉のアニメで、金岳邸の食室は見たことはあるけれど――リアルで見てみると臨場感が、まるで違う。

 とりあえず、オープンキッチンの流し周辺を確認してみよう――


 食室に設置された、オープンキッチンの流し周りは、家政婦がいることもあり――綺麗に整理整頓されている。

 しかし僕が注目するのはそこではなく、犯人はトリックで使用したお皿を必ず洗うはず。


 ゴム手袋が、キッチン周りに見当たらないという事は――金餅邸の家政婦達は、洗い物をする際に――ゴム手袋を使わない可能性が高く、お皿には――犯人の指紋がついている可能性が高い――


「あんまり嗅ぎたくない……けど――うん、まだ匂いは残ってる……」

 ――やはり、お皿についていたこの匂いは――簡単には落ちない。


 ちなみに僕と赤葉さんは、邸内の物に指紋がつかない様に白い布手袋をつけている――

 この匂いが残るお皿を――明堂さんに持っていけば、鑑識に回してくれるはずだ。


「萬屋さん、お皿を入れる袋はありますか?」

「――袋?――あるよ――さっき、明堂さんからもらったよ」

「――くっさ……これなんの匂い?洗剤と鼻につく匂いが混ざってる……頭くらくらする――」


 ――やはり赤葉さんも嗅覚がある。

 五感再現された仮想空間内で嗅覚があるのは――僕だけだと思っていた――この赤葉さんの顔と反応は、ホンモノだ。


「ゲホッ――モリタカ……私、ほんとに魚嫌いなのよ――吐きそう」

「……ごめんなさい」

「次から、前もって言ってくれればいいから――」

「――わかりました」


 赤葉さんからもらった袋に――匂いが残るお皿を入れた後、お皿を洗ったであろうスポンジを僕は、探していた。


「あれ?――スポンジがない……」

「――スポンジ?……スポンジならあそこにあるよ――」


 赤葉さんが指差した方向の先には――スポンジ干しに干された一つの乾いたスポンジがあった。

 乾いたスポンジの匂いを嗅いでみたところ――洗剤と鼻につく匂いが混ざる匂いが、かすかにではあるが――残っていた。


 ――おそらく犯人は、K.S換気システムにログインして、匂いを消す為に食室から書斎までの道と2つの部屋を換気する設定をした。

 K.S換気システムの所有者兼管理者である金餅さんが、家政婦達の信頼度に合わせて権限を設定――管理ログだけは、金餅さんだけが閲覧できるようにしたのだろう。


 しかし金餅さんが、こんな高性能な換気システムを使いこなせる訳がない――というのは、先入観。

 赤葉――第一話の金岳さんは、金餅さんと同じ匂いの特異体質の設定。

 設定が変えられていないのであれば――金餅さんは、強烈な匂いに数分鼻をさらしただけで――気絶してしまったはずだ。

 匂いの特異体質であった金餅さんは、高性能なK.S換気システムを導入したのではないか?


 それと――最初に僕たちが、初老の家政婦に案内されて――邸内に入った際、残り香の様な匂いが、微かに残っていた。

 初老の家政婦から匂いがしなかったし、邸内に入る際――僕たちは、2人の家政婦とすれ違っている。


 ――あとはK.Sシステムの管理IDとパスワード、匂いの正体だったアレを見つける――それだけだ!


 【残解決時間 159時間】


 #9 匂いのトリック 探索篇 Part 2 完

 #10 匂いのトリック 探索篇 Part 3につづく

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