#8 匂いのトリック 探索篇 Part.1

【妄想犯行計画】は、創作世界の物語です。

 この物語はフィクションです。

 実在の人物、団体、事件、出来事とは一切関係なく、すべて架空の世界の出来事と事件です。


 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #8 匂いのトリック 探索篇Part.1


 前回の終盤。

 僕――森咲 杜鷹もりさき もりたかは、かつて刻想器こくそうきだった――僕の契約者の小蒼こそうちゃんが作り出した近未来型VRゲーム――【妄想犯行計画】内で、ステージ1が開幕し――僕と萬屋 赤葉よろずや あかはさんが、ほこやぎ町郊外の金餅 良緒かねもち よしおさんの自宅に向かうところで、終わったと思う――


 このあとの話を、これからするとしよう――


 202X 1月X日 AM09:00 残解決時間166時間

 【仮想空間 ほこやぎ町 金餅邸付近】


 僕と赤葉さんは、ほこやぎ町の駅からバスを使い――ほこやぎ町郊外にある、金餅さんの邸宅付近にいた――


「いい?モリタカ――くれぐれも粗相のないようにね?」

「キミはこの町に来て、まだまもない――」

「私と最初に出会った時みたいに――うぉおおお……萬屋 赤葉だ!――ホンモノだあぁぁ!」

「――本物とか偽物とか……絶対にないからやめて」

「あとなんで、私の名前を知ってたのか――知らないけど、あの時のモリタカ――かなりやばい変質者だったよ」


【仮想空間内数日前】


 ほこやぎ町でチュートリアルの事件に挑んでいた僕。

 小蒼ちゃんの導きで、軽微だったチュートリアルな事件をなんとかクリアし――ステージクリアの条件を感覚で覚えていった。

 勘で犯人を暴くというのは絶対にダメなやり方で、ちゃんと犯人を暴くまでの過程を行う。

 ――しっかり推理しないとゲームオーバーになる、本格的なゲームだった。


 そんなチュートリアルの事件を解決した時だ。

 事件からの帰り道、ログアウトしようとした僕の背後から――聞き覚えのある声が聞こえたのは。


「キミの推理、面白いね――」

「えっ?何が?」

「本気って言うのかな――覚悟の推理かな?」


 突然話しかけてきた、赤毛の眼鏡をかけた少女――

 僕はこの赤毛の女の子の正体を知っている――


「うぉおおお……萬屋 赤葉だ!――ホンモノだあぁぁ!」

 僕は興奮のあまり、周囲に多くの人々が行き交うスクランブル交差点の信号機の前で、つい大声を出してしまった。

 ――だって、創作上の人間である――萬屋 赤葉が――目の前にいたのだから。


「おいキミ!――いきなり大声出すなって!――恥ずかしいだろ――」

「まったく……とりあえずこっち――」


 僕は、萬屋さんに服を引っ張られ――付近のとあるビルの中に入っている事務所に連れて行かれた。

 ――それが萬屋 赤葉との出会い――そして連れて行かれた事務所が【萬屋記録局】だった。

 所謂、ゲームによくある――拠点である。


 そして現在――僕たちは、ほこやぎ町郊外に住む依頼人――金餅 良緒さんの邸宅前に来ている。

 言葉ではなかなか言い表せないけれど、少しだけ広大な土地に聳え立つ、豪華な邸宅なイメージ――


 金餅 良緒か――柊先生の赤葉の世界では、【金岳 もつ照】だった。

 要は資産家……そして被害者だ――


「いい?今日は、金餅さんから、最近頻発している邸宅内の異臭騒ぎを調べて、記録を提出する依頼を受けてるの?」

「本当に気をつけてよね!聞いてる?――モリタカ?」


 この世界の赤葉さんも、ほこやぎ町で起きる様々なトラブルを調査、記録する――町の記録人だ。

 しかし赤葉の世界と違うのは、フリーターではなく萬屋記録局の局長という点である。

 ――僕は、赤葉にこんなイメージは持ってはいない……。


「はい――分かりましたよ、萬屋さん」

「よろしい――はい、モリタカ――ベル、鳴らして」


 赤葉さんの指示で、邸宅の前に構える重厚な扉に備えつけられているベルを鳴らした僕。


「はい、金餅ですが……どちら様?」

 この家の家政婦だろうか?初老の女性が、重厚な扉を開いた――


「萬屋記録局から参りました――萬屋と申します――それと――」

「萬屋記録局に先日、入局いたしました――森咲と申します、よろしくお願いします」


「萬屋記録局の方?――はいはい――旦那様からは、お話しはお伺いしておりますよ。さあさあ、お寒いですから――早く中へどうぞ――」


 家政婦の案内で、僕と赤葉さんは金餅邸の邸内に入った。

 僕らが邸内に入る際、すれ違い様に――先程の家政婦とは違う――2人の家政婦が、慌てた状態で――飛び出すように出て行ってしまった――


「全く、どうしたのかしら?」

「しょうがないわねぇ――」


 困惑した表現であった初老の家政婦だったが――すぐに帰ってくるだろうと――金餅さんがいるという書斎の案内を続けた――


 ――ん?なんか匂う?気のせいか。

 邸内に入った僕は、邸内のある設備に驚愕した。

 それは赤葉の世界、いや現実世界にあるかどうかも分からない――そんな設備だった。


「へぇーさすが資産家だけあるね――何、この換気設備? 」

「――こんな未来にありそうな設備、見たことないんだけど――」


 赤葉さんが目をキラキラさせながら見ているモノ――それは――K.S換気システム――


 小蒼ちゃん……またやったね。

 こんな分かりやすい名前の換気システムを設置した設定にしたら――どうぞ、調べてくださいって――言ってるようなモノだよ……


『ふっ――モリタカは、すぐにそうやって簡単に考える――簡単に考えない方がいいよ』


 仮想空間内のコントローラーである――白いスマホから小蒼ちゃんの忠告の声が聞こえた――


「ん?今何か言った――モリタカ?」

「いや、別に何も――」

「ふうん――でもキミは、時々――自分のスマホと会話してるけどね――」


 ――そうか、僕が持っているこの白いスマホは、仮想空間内の住人である赤葉さんにも見えるのか?

 だから小蒼ちゃんの声も聞こえる――この仮想空間に来た時、小蒼ちゃんがスワイプとピンチアウトの事を言っていたけど――こういう意味だったのか――


「……まあいいや――キミ、なんか訳アリみたいだしさ――」

「私の仕事を手伝うかわりにキミは、私の事務局に寝泊まりしていい約束だし――でも寝過ぎは、体によくないからね」

「ありがとうございます……萬屋さん」

「いいよ――お礼なんて……調子狂うな――」


 僕たちは、初老の家政婦の後についていき――金餅さんの書斎と思われる部屋を訪れた――


「旦那様ー、旦那様、萬屋記録局のお二人が見えましたよー――旦那様?」

「キャアアアアー!」

「……モリタカ!警察と救急車、はやく!」


 ――――僕は何を見ているのか?

 仮想空間のはずなのに、目の前の書斎の机付近に――初老の老人が倒れている。

 この光景は、赤葉の第一話を忠実に再現されている。


「……はやく!何してんの」

「はい!警察は――」


 警察に通報後、金餅邸はすぐさま規制線が貼られ――金餅さんは――救急車で病院に搬送された……


 【1時間後……残解決時間165時間】


「モリタカ?……落ちついた?」

「……はい――人が目の前で倒れる光景、今まで見たことなかったんで……少しパニックに――なってしまいました」

 ――もう何がなんだか理解が追いつかない……


「……はぁ、なんで私が行く行くとこ、こんな事件が起きるのよ!

 ――またあの脳筋ハゲにガミガミ――言われるじゃん!」


 ――多分、赤葉さん自体が主人公だからだと思う……


「おい、赤毛のフリ探――誰が脳筋ハゲだって?」


 赤葉さんの言葉に――スーツを着たスキンヘッドの男が、赤葉さんの背後に少しずつ迫っていく。

 筋骨隆々で、スキンヘッドの男は――僕も知ってる、赤葉さんの相棒であり――ホンモノだった――


「おい!また、お前らか!――一般人が現場に入るな。おい、誰かコイツらを早くつまみだせ!」


 ――推理作品によくある、事件に巻き込まれた一般人の主人公が――相棒になる刑事に怒られるやつ。


「ごめんって――今日はたまたまこの家の被害者に呼ばれて――来ただけだってば!――ねえ、モリタカ?」

「そ……そうなんです――僕と赤葉さんは、金餅さんに呼ばれて会いに来ただけなんです!

 ――信じてください!明堂めいどうさん」


 明堂 真。

 【ほこやぎ警察署】に勤務する刑事課の刑事。

 年齢は――45歳。

 階級は――警部。

 そしてこの人の頭の中の構造を――ひと言で言うなら――脳筋。

 推理モノやトリックモノによくある――相棒刑事の設定、それが明堂刑事――


「――ったくよ、お前らが事件を解決しちまうと――上に報告する時に――色々面倒なんだよ――」


 一般人が介入すると――明堂さんの仕事が増える。

 完全に警察の手柄――とは、いかないからだ。


「とはいえ……第一発見者の1人なのは――確かだ」

「フリ探、あとそこの――えっと、モリサキだっけ?――」

「お前さんたちの力、貸してもらうぞ」


 明堂さんに連れられて――犯行現場に戻って来た、僕と赤葉さん。

 例え――これが仮想空間内の出来事だったとしても――人を殺めた犯人は、絶対に僕が暴く――


 (ニャーン――――)


 ――僕の未来を掴むために!


 【残解決時間 163時間】


 ――#8 匂いのトリック 探索篇 Part 1 完――

 ――#9 匂いのトリック 探索篇 Part 2につづく――

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