#6 妄想犯行計画 後編

 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #6 妄想犯行計画 後編


 中編の終盤――

 僕――森咲 杜鷹もりさき もりたかと契約したかつて刻想器だった【小蒼こそうちゃん】が、僕の想いを具現化したゲーム。


 【妄想犯行計画】


 僕がファンの小説家【柊】が執筆した【萬屋 赤葉の事件帳】の世界観。

 萬屋 赤葉の世界観を小蒼ちゃんが、再現――

 そこに僕の想いを足して再構築した、近未来VRゲームだった。


 小蒼ちゃんは、近未来という言葉は嫌いと言っていたが――人の五感を現実世界と同様に感じられるゲームなんて、近未来と言わずなんて言うのだ――


 僕は、覚悟を決めた。

 暴かれる側のプレイヤーに勝つ――

 勝って――真実を確かめる――

 僕自身の未来のために――


 後編になってしまったが、このあとのつつぎの話をしよう――


 【現実時刻 午前1時】

 【仮想空間内現在時刻 16時】


 あれから僕は、ログアウト機能を約半日以上いた【妄想犯行計画】の世界から、無事帰還した――

 目覚めた僕が、まずしたこと――

 それは――日付と時刻の確認。

 僕が今見ている部屋が、仮想空間なのか?――それとも今まで僕が時を紡いだ世界なのか?

 どちらなのかを確かめるためだ――

 それぐらいあの【妄想犯行計画】というゲームは作りこまれていたのだ――


 電源を落としたコクソウズPCとメガネ型ゴーグルを、自室のゲーミングデスクに置いた僕は、そのまま倒れるように――――につい――た――


「点と点――一つのラインが、全て繋がった!」

「犯人は――あなただ!」


 僕は夢の中で、何を言ってるんだろ――

 推理作品の見過ぎで――自分が、探偵になって犯人を暴く夢を、最近頻繁に見る――


 夢の中の僕が暴いた犯人は、僕に向かい静かに口を開いた――


 『あーあ――バレちゃった――!』

 『ワタシの秘密を知ってしまった森咲くんを――このまま生かして帰すわけないじゃない――』


 バァァン!――

 犯人の放った無慈悲な小さな球は、僕の頭を貫いた――

 『ゲームオーバー――あははは』


 犯人は、僕に向かってそう告げた――


「――はぁっ!」


 なんだ――この夢、胸糞悪――

 僕がゲームオーバーすることを、まるで期待しているヤツがいるみたいじゃないか――


「……今、何時だ?」

 時を紡ぐ短い時計の針は、まだ2つしか進んでいなかった――

「……気になって、気になって、仕方がない――」

 数時間前から続く、非現実的な出来事のおかけで、僕は眠れなくなってしまった。


 【KoKuSouS……起動中――】


 やっぱり――気になる。

 この非現実的な出来事の元凶――

 かつて刻想器だった小蒼ちゃん。

 刻想器はどちらかというと、『我は、上位の存在なりー』というイメージが――少なくとも、僕の頭にあったからだ。

 刻想器は、一体誰が何のために作ったのだろうか――

 そんな事を考えているとデスクトップ画面が現れた――


「モリタカ――つけたり、消したり――疲れるからやめて欲しいんだけど!」


 つけたり、消したり?あと疲れる?――どういうこと。

 画面に映る彼女は、かなりの剣幕でこちらを見ている――


「ごめんね、小蒼ちゃん――僕は、覚悟して――かつて刻想器だった、小蒼ちゃんと契約した」

「覚悟していたとは言え――僕が今、立っている部屋も――実は仮想空間では?――と思うと、正直言って怖い」

 覚悟を決めた……僕は、覚悟を決めたはずだった――


「刻想器は――一体なんなの?……神様なの?」

 僕が今、頭の中が混乱している一番の理由。

 刻想器という、現在進行形で時を紡ぐ僕たちの世界に、存在するはずのない――謎の存在の正体。

 どうしても――それを確かめたかった。


 僕の問いに小蒼ちゃんは、少しだけ沈黙してしまった――


「やはり汝は、まだ迷っておるのだな――小蒼を通じ、汝の紡ぐ時を見ておったが――」

 小蒼ちゃん?――先程とは違う女の子らしい口調ではない小蒼ちゃん。

 自信に満ち溢れているその顔は、小蒼ちゃんとは違う異様な雰囲気を放っている――


「ま……まさか――刻想器?」

 僕が今話しているのは、小蒼ちゃんではなく――刻想器だった。

 数時間前と何一つ変わらない――その口調、間違いない。


「左様――我が刻想器の一体が――小蒼となり、この機械の箱に姿を変えた――」

「されど、我であることには変わらぬ――」

「汝に先に伝えておこう――我は上位存在ではない。仮に上位存在であっても――成すべきことは同じ」


 例え、神だったとしても――人に選択させることは、変わらない。

 ――おそらく……そう言いたいのだろう。


「汝はどうしたいのだ?――かつて我であった小蒼と契約し――汝自ら、【妄想犯行計画】という小蒼が用意した舞台の結末を――見る覚悟を決めたのではないのか?」

「――後ろを振り返ることは許されない……これは汝自身の言葉だ――」


「我ら刻想器は――汝らヒトが選ばなかった、無数の選択肢が形を成したモノ――」

「故に――この世の理の存在ではないのだ――」


 時を紡ぐ僕らが――選ばず消えていく無数の選択肢。

 消えていった無数の選択肢の集合体――

 それが――想いを叶える存在【刻想器】――

 非現実が侵食していると思っている状況も――刻想器や小蒼ちゃんに決めてもらった選択ではなく――

 ――全て、僕自身の選択の結果だった。

 後ろを振り返ること――僕自身が選択した結果への冒涜だ――


「ありがとう――刻想器、キミが存在する理由……それを知りたかった――」

 刻想器という自称【想いを叶える存在】が、非現実ではなく、今も時を紡ぐ僕の目の前にある現実であること――

 僕はそれを知りたかった――


「汝と契約した我……いや小蒼は――汝の合わせ鏡ではない――汝は汝、我は我、小蒼は小蒼――」

「――決して忘れるでないぞ」


 刻想器の言葉に僕が返事を返す。


「――ああ……僕はもう逃げないよ――」

 ――僕自身が、選択した決意の返事。

 返事に満足したのか、刻想器モードだった小蒼ちゃんは、また沈黙を始めた――


「う――う……ん?――モリタカ?」

「うん――おはよう――小蒼ちゃん」


「ふっ――刻想器と話はできた?」


 小蒼ちゃんいわく――刻想器モード中の小蒼ちゃんは、意識がない。

 つまりあの時、僕と会話していたのは――紛れもなく刻想器だったのだ。


 ――もう疲れた。

 これが、僕の今の本音である。


 前編、中編、後編とまた長いふり返りになってしまった――

 前半序盤。

 僕と赤葉がなぜ――金餅さんの家にいたのか……次章で必ずお話ししよう。


 ――とりあえず僕は寝る、それが今の選択だ!


 第二章 妄想犯行計画とルール ー完ー

 第三章 萬屋 赤葉と匂いのトリックに続く。

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