#5 妄想犯行計画 中編

 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #5 妄想犯行計画 中編


 前編の終盤。

 僕の想いを具現化したゲーム【妄想犯行計画】、略して妄犯計画。

 このゲームをクリアする覚悟はあるかという、かつて刻想器だった小蒼こそうちゃんの問いに、僕は迷わずYESと答えた――


 確かここで、話が終わったと思う――


 ここから何が起きたのか、話をするとしよう――


 【仮想空間 妄想犯行計画】

 【ほこやぎ町】


「ふっ――まさか即答されるとは思わなかった――ようこそ、【ほこやぎ町】へ」


 小蒼ちゃんは、鼻で笑うような癖がある。

 話し始める前に、「ふっ」とかいう癖を気にする人は、ものすごく気になるやつ。

 癖なのか?と僕は、本人に聞いてみたのだが……


「ふっ、モリタカは、いつも頭の中でぶつぶつ――誰に向かって語りかけてるの?」

「そっちの方が、私としては気になる」


 ――――今、さりげなく触れてはいけないタブーに触れたぞ――小蒼ちゃん……


「いや、さっきも言ったと思うけど――頭の中を覗くのやめてくれない?小蒼ちゃん」


「ふっ、小蒼ちゃんとか勝手に呼ぶのもやめて?」


「それは――名前のついたモノであっても、僕と会話ができるなら、決して呼び捨てにしない主義なんだ――」


 僕――森咲杜鷹もりさき もりたか のポリシーとして、そこは譲れない。

 小蒼、小蒼と呼び捨てにすることは、確かに簡単だ――

 でも小蒼ちゃんは、AIでもなく、仮想空間内だけどちゃんとそこにいる。

 だから僕は、一人の女の子として小蒼ちゃんと呼ぶ――


「ふっ、モリタカはちょっと変わってるんだね――だからこそ、刻想器に会えたのかもね」

「ふっ、まあいいや――なるべく頭は、覗かないようにするよ」

「モリタカ――今あなたがいる空間は、現実世界ではない場所」


「仮想空間【妄想犯行計画】――ほこやぎ町」


 仮想空間?ほこやぎ町――?

 それって、萬屋 赤葉の事件帳の舞台じゃないか。

 仮想空間で再現された、小説の中の世界に、僕はいるのか――?


「ふっ、一応言っておくけど、萬屋 赤葉の事件帳の舞台じゃない――簡単に言えば、赤葉の舞台【ほこなぎ町】を、モリタカの想いを元に、私が具現化と再構築した仮想空間――それが【ほこやぎ町】」


 小蒼ちゃんは当たり前のように、具現化、再構築という言葉を使っている。

 現実世界では、あまり聞かない言葉。でも創作作品ではよく使われる言葉だ――

 それと仮想空間なのに、五感が全てが認識できるゲームって、何世紀先の未来のゲームだよ――


 映画館から始まった非現実的な出来事の連続。

 僕の頭は、正直混乱している――

 僕は小蒼ちゃんにメガネ型ゴーグルをつけろと言われて、この仮想空間のほこやぎ町にいる。

 かれこれ3時間ぐらい経つだろう――

 映画館からの帰りで疲れているのもあるけど、明日は日曜日だ。

 早く布団に入って寝たい――


「小蒼ちゃん――ひとついい?家に帰りたい――今何時かわかる?」


「ふっ――右上に時刻表示あるじゃない――」


 小蒼ちゃんに言われた僕は、視界の右上にある現在時刻を見た。

 【午後三時】――いやいや普通におかしいだろ――

 僕が仮想空間に来たのは、土曜日の午後十時前ぐらいだったはず――半日以上、仮想空間にいたら気が狂う――


「――モリタカは、ゲームの説明書をちゃんと読まないタイプ?――ゲームヘルプにちゃんと書いてあるよ」


 ゲームヘルプ?――頭が混乱状態になっているが、僕は今までプレイしたゲームで――ゲームの説明書を読まずに、ゲームをやり始めることをしたことがない。


 ――ゲームの説明書=ルールブック!


 その世界のルールや法則が唯一記された書物だからだ――

 最近のゲームは、説明書の代わりにゲームヘルプを、いつでも読めるようにしてくれている。

 小蒼ちゃんも気がきくじゃないか――


 でもどうやって操作するんだろ――ん?ポケットの中にスマホが入ってる?

 僕はポケットの中から、スマホを取り出した。

 そのスマホは、僕が現実世界で使っているスマホではなく、手のひらサイズの白いスマホだった――


「――モリタカ、一応言っておくよ」

「あくまで、そのスマホは、【妄想犯行計画】内にしか存在しない」

「あなたが何もない空間に――指をサッと動かしたり、二つの指を離したり近づけたりしたら、普通に怪しいから――」

「だからスマホを持って帰ることはできない」

「もし持って帰ることができたとしたら、不正行為とみなして、ゲームオーバーするから――」

「分かった?モリタカ――」


 ――このスマホは、仮想空間内でしか操作できない。

 つまり――目の前に表示されている、様々な情報にアクセスするためのいわば、コントローラーみたいなモノだろう――。


「うん――分かったよ、小蒼ちゃん――」

「とりあえず、ゲームヘルプを見てみようか――」


 僕はスマホを操作し、妄想犯行計画のゲームヘルプを開いてみた……

 ――これ僕に理不尽すぎないか?。


 【妄想犯行計画のゲームルール】


 1.ほこやぎ町以外のエリア移動は禁止。


 2.【探偵ヘルプについて】

 萬屋 赤葉などの探偵を呼出ができる機能。

 ただしAという事件で【探偵ヘルプ】使った探偵は、お手つき状態となる。

 Bという事件を解決するまで呼出することができない。

 【探偵ヘルプ】の探偵は、犯人を暴き出す権利はない。


 3.【時刻表示について】

 現在時刻は、妄想犯行計画の仮想空間の時刻。

 現実時刻は、契約者の住む世界の時刻。

 妄想犯行計画を攻略中は、現実時刻は進まない――逆の場合も同じ。


 4.【各事件の解決期限】

 現実世界換算で七日間。

 一日一回は、必ず妄想犯行計画を起動させる必要有。

 ログアウト時から次回起動までに、二十四時間を超過してしまった場合。超過してしまった時間分、妄想犯行計画内の時間が進む。


 5.【ログアウトについて】

 基本的に一部条件を除き、任意のタイミングで可能であるが、ルール4に注意すべし。

 事件解決期限が24時間を切る場合は、ログアウトできない。


 6.【暴く側のプレイヤーのゲームオーバー条件】

 事件を暴けない。

 事件の解決期限を過ぎた。

 妄想犯行計画内で死亡。


 7.【妄想犯行計画について】

 この世の理とは違う概念で作られたVRゲーム。

 この世の理で作られたモノでは、【妄想犯行計画】を記録することはできない。


 8.【ゲームクリアの条件】

 自身の未来を選択し、自身の壁なるものを越えた時、未来への道は開かれる。


 警告.【妄想犯行計画を解析しようとした場合】

 【暴く側】のプレイヤー又は【暴かれる側】のプレイヤーは、強制的にゲームオーバーとなる。


 以上のルールが破られた場合は、【暴く側】、【暴かれる側】問わず、最悪な未来が訪れる。

 ――ルール自体は大体、分かった……


 僕らが今いる場所は、【ほこやぎ町】と隣町の境界線。

 【ルール1】の境界線ルールが気になった僕は――試しに境界線の向こうに足を入れてみた。


 足を入れた瞬間、警告のカウントダウンが視界に表示されてしまった。

 2から始まるカウントダウン表示に、焦ってしまった僕は、すぐさま境界線内に足を引いた――

 ――容赦ないな、小蒼ちゃんは……


 【妄想犯行計画】は、僕の選択と覚悟を試す――ゲームということだけは、僕自身が試してみて分かった気がする――

 理不尽なルールの中で見つけた【ある言葉】について――僕はどうしても、小蒼ちゃんに確かめたいことがあった――


「小蒼ちゃん、ちょっといい?」

「この【暴く側】と【暴かれる側】って、どういう意味?」


 ――暴く側はつまり探偵役だ。

 探偵ヘルプと書いてある通り、僕はこの世界では暴く側なのは、理解できる――

 しかし聞き慣れない【暴かれる側】はどうしても気になる言葉だ――


「――やっぱりそこが気になるかー」

「ふっ、暴かれる側のプレイヤーは――妄想犯行計画が選んだプレイヤー」

「A.Iとのトリックや推理戦は、テンプレ回答すぎて、モリタカはつまらないんでしょ?」


 確かに物語の結末を事前に知るA.Iは、【暴く側】が最強説をテンプレ武器にして、前提に回答してくる。

 最初はA.Iの反応が楽しかったが、次第にA.Iとのテンプレ推理戦自体を飽きてきてしまい――最終的にはやめてしまって、僕の記憶から消えていたはずだった――

 ――というか、確かにそんな遊びしたよ確かに!

 消えていた記憶を無理矢理――掘り起こされたような気がした僕はだったのが――どういう訳か、逆にやる気に満ち溢れてくる感じになってきた。

 暴かれる側が、どんな奴かは知らないが……


 受けて立つ!僕自身の未来のために!


 #5 妄想犯行計画とルール 中編 完

 #6 妄想犯行計画とルール 後編につづく

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