#4 妄想犯行計画 前編

第二章 妄想犯行計画とルール

 #4 妄想犯行計画 前編


 「おい!またお前らか――!、一般人が現場に入るな。おい、誰かコイツらを早くつまみだせ!」


 推理モノ作品にありがちベタなセリフ。

 相棒になる刑事が、主人公にほぼ言っているセリフだ。

 だから僕は今、物凄く感動している。

 ――人が殺められた現場では、かなり不謹慎だけど。


 しかし僕が今、目にしている光景とこの刑事のセリフ。

 まるで僕が、明晰夢を見ているかのような現実観ある光景だ。


「ごめんって。今日はたまたま、この家の被害者に呼ばれて、来ただけだってば――ねえ、モリタカ?」


「そ、そうなんです――僕と赤葉さんは、金餅さんに呼ばれて会いに来ただけなんです!――信じてください!明堂めいどうさん」


 本当に僕と赤葉さんは、金餅さんの家に呼ばれただけ。

 ――本当にそれだけ。

 赤葉さんは刑事である明堂さんと、何かいい争いをしているみたいだけど、僕はこの2人が相棒なのを知っている。

 なぜなら僕が今いるこの世界は、萬屋 赤葉の事件帳の世界だからだ。

 ――まだこの感覚にはなれないけど。


 僕がこの世界にいる理由を、少しばかりお話ししよう。

 それは僕が、玄関前に差出人不明の箱を見つけた話から始まる――


 【2時間前】


 雪護真冬さんを駅まで送り届けた僕は、駅から15分ぐらい歩いて、自宅アパートに着いた。

 玄関先に差出人不明の僕宛の荷物が置き配されていて、


「ん?ちょっと重いな」


 ――前回は確か、ここで話が終わったと思う。


 このあとの僕は――実際に持つとかなり重い、差出人不明の荷物を自宅のリビングに、なんとか運ぶことができた――

 ――でも今は、とりあえず着替えが先だ。


 スーツから私服に着替えた僕は、好奇心と恐怖心を押さえ、箱を開封してみた――

 箱の中身は――一台のノートPCとメガネ型ゴーグル。

 ――普通に怪しすぎだろ……


 【想いを叶える刻想器】との契約――

 購入した覚えのない、【妄想犯行計画】という――いかにも怪しい商品。

 【妄想犯行計画プロジェクト】という――いかにも怪しい組織。

 そして荷物の中身である、【ノートPC】と【メガネ型ゴーグル】

 偶然ではない非現実的な出来事の連続で、今後――僕自身に起きであろう展開をある程度の予想はしていたが――刻想器は、僕のある程度の予想すら――全て通り越してきてしまった――


 しかし僕――森咲 杜鷹もりさき もりたかのあの胸を抉る未来には、護りたい人が絡んでいる。

――だから僕は、逃げる訳にはいかない!


 とりあえず僕は、ノートPCをACアダプターに接続しようとした――

 無い!――高額なゲーミングノートみたいなノートPCなのに、ACアダプターがなぜないんだ!


「まあいい、電源を入れて見れば――わかることだ」


 ノートPCのOS起動画面をみた僕は――僕が今、見ている現実に非現実が――少しずつ侵食し始めていることを改めて実感した。


 【KokuSouS……起動中】


 絶対に隠す気ないだろ――刻想器。

 ……つまりあれだ!

 刻想器と契約した人にプレゼントされる契約特典みたいなモノだ!

 ――


 『ふ――そんな契約者特典があるわけないでしょ――アホめ』


 ん?――今、どこから女の子の声が聞こえたような……


 『お前の目はふし穴か?あの時と同じくだりは、もう十分なんですけど――!』


 あの時と同じくだり?なんのこと?

 女の子の声が聞こえてきたのは、メガネ型ゴーグル――

 そして【KokuSouS】のデスクトップ画面の3D空間に、一人の高校生ぐらいの女の子がこちらを見ていた。

 かなり不満そうな剣幕な表情な女の子は、こちらに向かって何がぶつぶつ言っている。


 『ふっ――早く、ゴーグルをかけなさい!』


 女の子に言われて慌ててしまった僕が、メガネ型ゴーグルをかけた瞬間、僕の意識は――突然、途切れた。


 ――意識が途切れたあとの僕の視界には、宙に浮く文字や地図、現在時刻と現実時刻の表示されている。

 そして目の前には、3D空間にいた女の子がこちらを見つめているのだが――何処なく、雪護さんに雰囲気が似ているような気がした。


「気がついた、杜鷹?」


 女の子は僕の名前を読んだ。


「ん?――ここは?」


「ここはあなたと契約した想いを元に、私が作り出した――杜鷹の想いを具現化した世界の入口――」

「杜鷹と契約したプラネタリウムと同じような空間」

「そして――私の名前は小蒼こそう

「かつて【刻想器】だった存在――」


 かつて刻想器だった存在?

 小想と名乗った少女は、刻想器の目的、契約、代償。

 あのプラネタリウムで――語られなかった話の続きを、ゆっくりと僕に話し始めた。


「あのプラネタリウムの世界で――私が杜鷹に見せた【絶望の未来】」

「杜鷹がどれだけ頑張っても――【絶望の未来】に繋がる運命だった」


 どれだけ頑張っても、僕はあの未来に辿り着く?

 言いたいことが非現実的すぎて――よく分からない……


「ふっ――少し杜鷹には難しいのかな?」


 頭の中を覗き込むのは、かつて刻想器だった名残か。

 というかやめてくれ、頭の中を覗くのは――


「うん――じゃあ頭の中は、なるべく覗かないようにするね――」


「はい、頼みます……」


 小蒼ちゃんは続ける。


「――だから絶望の未来の可能性を見せて、自分でどうするのか考えさせて、選択をさせるようにしたの」

「映画館で杜鷹だけに、絶望の未来を見せた理由。

 それは、もう一人の絶望の未来を見せた人がいるから――その子を助けてあげるため」


 僕以外にあの胸を抉る未来をみた人がいるのか。

 僕はどうしても納得がいかない質問を小蒼ちゃんに問いかけた。


「なぜ――絶望の未来を見せる必要がある?

 未来は自分で掴みとるモノ。それはあの映画館で、刻想器にも言ったはずだ」

 ――そう。なぜ絶望の未来を見せる必要があるのか?幸福な未来でもいいはずだ。


「ふ――それはね。幸福な未来を見せることもできるけど――」


 小蒼ちゃんはそう言うと、僕の幸福な未来を見せてきた。

 そこには雪護さんもいて、子供もいた。

 でも最終的には、僕が映画館で見た胸を抉るような未来に辿り着いてしまった。


「どういうことだ――意味がわからない――」


 幸福から絶望に叩き落とす未来。

 困惑している僕に対して小蒼ちゃんは、静かに口を開いた。


「――未来のあなたは、確かに幸福な時間を得た――でも選択することをやめた」

「選択をやめる――それ以外の選択肢は他にいくらでもあった――あなたは、選択することをやめてしまった」

「結果、絶望の未来に繋がってしまった――それだけのこと」

「時は命あるモノに、常に選択をさせていくモノ――」


 小蒼ちゃんの言葉に。僕はどう返事をすればいいのか。

 正直分からなかった――


 刻想器に想いを伝えた《契約》とき。

 僕の中には、自分の未来と雪護さんを護りたいという想いがあった。

 想いに応えてくれたからこそ――

 刻想器は僕と契約し、契約者の観察者【小蒼】として再び現れたのではないだろうか――

――外観はともかく。


「――僕が――森咲 杜鷹が、絶望の未来を回避するためにはどうすればいい?」

 絶望の未来を回避するための方法は、必ずあるはずだ!


「どうすればいいか――

 あなたが選択をし続けること――

 絶望の未来を見せた、もう一人のヒトを助けること――」

「これ以上は教えれない――」


「でも――私が具現化させたゲーム【妄想犯行計画】」


「このゲームを全てクリアできたら、新たな道は開かれる――」


 つまり小蒼ちゃんが作り出した、僕の想いを具現化したゲーム【妄想犯行計画】。

 ゲームを攻略していく中で、あの未来を回避する鍵を見つける。

 見つけた鍵を最後に束ねて、ゲームクリアに続く最後の扉を開くための鍵にする。

 ――ふっ、面白いじゃないか。


 小蒼ちゃんは、僕に問いかける――


「森咲 杜鷹――あなたは、このゲームをクリアする覚悟は、ありますか?」


 ――僕の答えは、すでに決まっている。


「もちろん――YESだ!」


 妄想犯行計画 中編につづく。


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