#3 契約と妄想犯行計画 後編

 妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #3 契約と妄想犯行計画 後編


『も……さきくん、森咲くーん!』


 ついさっき僕が経験した、言葉で表現するのが難しく――非現実で、非科学的な出来事。


【絶望の未来】のボクが、なぜあのような未来にたどり着りついてしまったのか?

 想いを叶える存在である刻想器こくそうきは、【要因の一つ】は、教えてくれたが――それ以外は教えてくれなかった。


『我は、汝らヒトに選択を促すのみ――今も昔も……』


 未来は、誰かが恵んでくれるのではなく、自分で選択して未来を掴んでいくもの――


 ――自分自身の選択の結果が未来だ。


 僕がどこかで選択を間違えた結果、あの胸を抉るような【絶望の未来】に、彼女を要因の一つとして、巻き込んでしまった。

 絶対にそれだけは、僕は避けなければならない。


 でもハッピーエンドな未来に変えることがもしできたとして――

 その結果――護りたい人を僕が、守れるのであれば――僕は信じてみようと思う。


 ――誰かにこんな話をしたところで、夢乙と思われるかもしれないけど……


『森咲くん!ねぇ森咲くん!』


 いつも聴く、優しい暖かな声。

 僕はその声で、ゆっくりと目を開く。

 ん?、僕は寝ていたのか?


「あれっ――雪護さん?」


 趣味友で同僚の雪護 喜冬ゆきもり きふゆさん。

 明るく、凛々しくて、そして雪を体現したような透き通る白い肌。長く透き通る髪は、綺麗に後ろに纏められ。

 冬という季節を体現したような女性。

 ――つまり僕の片恋相手だ。


「森咲くん、大丈夫?」

「映画終わったよ――」

「序盤から寝てたから――心配したよ!」


 赤葉の劇場版を見ていた僕は、赤葉の黒いスマホが出てきたあたりで、急に眠り始めてしまった。

 深い眠りの中に落ちた僕に、雪護さんは何度も声をかけてくれたらしいのだが、何度声をかけても僕は起きなかったという。

 黒いスマホ――まさかな――


 雪護さんの話から考えると、僕が体験したあの出来事。

 僕が見た未来のボクと白い部屋。

 地獄のVIP席からのクライマックス。

 刻想器とのやりとり。

 結局、全て僕が見た夢だったんだろう……


 僕がそんなことを思ったと同時に、

 僕のスマホの通知音が鳴った。


 ピロリン!


 通知音に気づいた僕は、スマホの画面を見て、あれは夢ではなかったに気付かされた。


「ん?――森咲杜鷹もりたか様、この度は妄想犯行計画をお買い上げいただきありがとうございます?」


 差出人は――【妄想犯行計画プロジェクト】という、如何にも怪しげな組織――


 何処までが現実で何が夢だったのかを考えていたら、頭の中で僕は混乱していた。


 雪護さんは、様子がおかしくなった僕を見ていたのか、心配して声をかけてきた。


「森咲くん――本当に大丈夫?」


 いやいや大丈夫ではないよ――雪護さんにこんな夢乙的な話を話せるわけがないじゃないか。


「本当に大丈夫だよ!仕事の疲れが溜まってただけだから――」

「心配かけてごめん――ありがとう、雪護さん」


 彼女に嘘をついてしまった――

 でも彼女を、非現実が侵食しつつある僕の現状に巻き込みたくなかった――

 僕に訪れる【絶望の未来】の要因の一つが彼女だったとしても、僕は彼女を護りたい。


 だからあの胸を抉る【絶望の未来】を見た上で、刻想器と契約した。


 この暖かい笑顔を守るために――


「もうこんな時間!そろそろ帰らなきゃ」

「駅まで送るよ、雪護さん」

「ありがとう――森咲くん」


 本当なら家まで送っていきたいのだが――

 僕と雪護さんの関係。

 同僚、それと趣味友以上恋人未満。

 今の関係だと、駅まで送るのが精一杯だ。


 映画の赤葉の事件。

 赤葉の映画をまた一緒に観る約束など。

 駅に着くまでいろいろ話をした。

 現実というのは残酷なもので、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

 気がつけば、雪護さんがいつも使う駅に着いていた。


「ありがとね、森咲くん――また月曜日に」

「うん――雪護さん、また月曜日に」


 明るい笑顔で僕に手を振りながら、雪護さんは改札に入って行った。


 雪護さんを駅まで送り届けたあと、僕は駅から徒歩15分ぐらいの距離にある自宅まで、先程の【妄想犯行計画プロジェクト】からのメールを見ながら帰っていた。


 もちろん歩きスマホになるのだが、だからと言ってスマホを注視したり、音楽を聴いたりはしない。


 安全地帯から危険地帯に自分から飛び込んでいくみたいなもの――僕はそう思っている。


 しかも駅から割と近い場所なのに、夜になると人通りがほとんどなくなる――


 ゴーストタウンの様な異様な雰囲気を放つ、閑静な住宅街という表現がピッタリ。夜道で、『わっ!』なんて、いきなり脇道から言われたら、それこそ心臓に悪いものだ――


 ――だから僕は夜道が苦手だ。


 そんな怖い夜道を歩いた僕は、ようやく自宅アパートに着いた。

 玄関には、差出人不明の僕宛の荷物が【置き配】されており――


 玄関を開け、少し重たいその荷物を僕は、部屋に持ち込んだのであった――


 映画館から始まった、非現実的で非科学的な出来事。


 自称【想いを叶える存在】の刻想器との出会いと契約。


 あの胸を抉る【絶望の未来】で、心の光を閉ざしたボクが呟いていた名前。


【妄想犯行計画プロジェクト】という謎の組織――そして差出人不明の荷物。


【萬屋赤葉の事件帳】と原作者である【柊先生】、そして僕が護りたい人喜冬さん


 それぞれが、時計台を動かすための歯車の一つとなり――時を紡ぐ時計台が、少しずつ動き始めていたことに、


 ――この時の僕は、何も知らないのであった……


 第一章 想いを叶える存在と妄想犯行計画 完


 次章 妄想犯行計画と仮想空間につづく

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