妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

魔与音 庵

#1 想いを叶える存在

妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム

 #1 想いを叶える存在


 お金が――欲しい。

 宝くじが――当たってほしい。

 好きな人と――つきあいたい。

 異世界転生して――ハーレム築き、ついでに俺様無双したい。

 これは――僕の中では、叶わない願い。


 【僕にとって、大切なモノ、大切なモノを――護る】


 これが――僕がいつも考えている想い――


 目の前に映る世界しか信じない――僕の目の前に今、自称【想いを叶える存在】がいる――


 『我は刻想器コクソウキ、汝らヒトの想いを叶える存在――』

 『あの未来を見た汝は、今、何を――想うのだ?』


 刻想器が、僕にどんな未来を見せて、選択を迫っているか……だって?


 それは――幸福と真逆の絶望の未来が、訪れるかもしれない未来を――回避するための選択。

 そして――大切な人、大切なモノを護るための――選択だ!


 ごく普通の二十代半ばのサラリーマンである――僕の名前は、森咲 杜鷹モリサキ モリタカ

 僕はまほらぎ市という場所に住んでおり、会社もまほらぎ市内にある。

 仕事と職場を行き来するしかない、僕の唯一の趣味。


 ――トリックモノと推理モノの作品の鑑賞と考察――

 少し変わった趣味なのは、僕も自覚している。


 そんな僕の目の前に――自称【想いを叶える存在】が目の前にいるのは、同僚と映画館に来たことが――キッカケだった。


 映画の序盤――僕は突然の睡魔に襲われ――目が覚めた視界で――最初に入ってきたのは、小学生の校外学習で行った――天体観測が上映されているプラネタリウムであった――


 プラネタリウムに僕は、なぜいるのだろうか?

 しかし天体観測を眺めていると――心が落ち着く。

 ――よく分からないけれど……


 僕は、頭の中で――そう思っていると、天体観測の上映終了のアナウンスが流れた――


 【煌めく、星々を巡る――神秘的なロマンチックな旅はいかがでしたか?】

 【次は、森咲 杜鷹の未来を皆様――是非ご鑑賞ください】


 ん?――今、アナウンスはなんて言った……何故、僕の名前が――出てくるんだ?

 おかしい――そう思いながらも、【森咲 杜鷹の未来】の上映は、止まることなく――始まってしまった。


「未来か――どうせ見るなら幸福な未来がいいな――」

「ね、そう思わない?」

 隣の座席の同僚に僕は、問いかけたのだが――同僚からの返事はない。


「あれ?――どこに行ったんだろう…………」

 隣の座席にいるはずの同僚だけではない――このプラネタリウムに今いるのは――何故か僕、1人だった。

 この状況を言葉で、表現するのであれば――異世界転生モノによくある――何かの要因で死んでしまった主人公が、世界の創造主の神様と出会う空間――

 そんなイメージがピッタリだろう――非現実の中に僕はいる、そんな感覚だ……


 【皆様、大変長らくお待たせいたしました――】

 【――森咲 杜鷹の絶望の未来――クライマックスに突入いたします――】

 ――絶望の未来へのクライマックス?


 この異様な雰囲気に気を取られてしまい――僕、森咲 杜鷹の未来という作品を僕自身が、クライマックスに突入するまで――見ていなかったのだ。


 ――202X 某日 森咲 杜鷹の絶望の未来――


 絶望の未来のボクは、心の光を閉ざした状態で、異質な病室の中にいた。

 未来のボクが、心の光を閉ざした原因は、今――この時を生きる僕にはわからない。


 心の光を閉ざしたボクが入院している――病室。

 ベッド以外の家具は何もなく、ドアに必ずついてる――ドアノブが無いドア。


 室内にあるのは壁に埋め込まれたスクリーンディスプレイ――窓もなく、太陽の光が入らない――その部屋を照らす唯一の光は、スクリーンディスプレイの反射光のみ。

 来年春放送予定の【萬屋 赤葉の事件帳よろずや あかはのじけんちょう】の実写ドラマと思われる映像が流れる――スクリーンディスプレイの前で、ボクは――涙を流しながら見ていた。

 ――何故、泣いているんだよ……


 以降――僕の絶望の未来という作品は、映像が暗転するまで――泣き続けるボクを映していた――


 【皆様――森咲 杜鷹の未来、いかがでしたでしょうか?】

 【本日の上映は終了致しました――またのご来館をお待ちしております】


 ……僕の絶望の未来という作品の上映は――作品を見た僕自身が――絶望してしまいそうな作品だった。

 作品の中の萬屋 赤葉の事件帳、作品の中のボクがつぶやいていた名前。

 その二つは僕にとって心の支えであり、どちらも大切なモノ――

 一つは――ファンとして大切なモノ。

 萬屋 赤葉の事件帳の作者、若手女性小説家【柊】。


 もう一つは、僕と今日――映画館に来ている片想いしている同僚。

 萬屋 赤葉は、僕と彼女の繋がりが始まったキッカケ。


 それを同時に、踏み躙るこの作品を見た僕は、涙腺が止まらないほどの――涙が溢れた。

 僕しか存在しない――静寂なプラネタリウムに響く、僕の咽び泣く声。

 ――僕は何故、このプラネタリウムにいるのだろう……そしてなぜか涙が止まらない……


 【絶望の未来】――自分が生きる今の未来を見るというのは、非現実的で不確立的な現象。

 未来は自分自身の手で――掴み取るモノ――

 前に進むしかできない選択の時を歩む――長い時間旅行が終わるその瞬間まで、僕は――選択肢の旅を続ける。


「――帰ろう……」

 あれからどれぐらいの時間が、経ったのだろうか――

 いつまでも泣いていては――先に進めない。

 前に進むため僕は――座席を立とうとした――


 ――た……立てない


 いつの間にか――両手、両足、両肩を見えない拘束具で、拘束されていた僕は――座席に完全に拘束されていた――

 金縛りとは違う、重みがある拘束の座席は――地獄のVIP席へのご招待という言葉が―― 相応しく、どれだけ踠いても――びくともしない。


『選択肢の旅――我と同じ思考を持つヒトがいるとはな』

「誰だ?!――もしかして今の映像を見せたのはお前か?」

「隠れてないで――姿を現せ――」

『ふっ、汝の目は節穴か?――目の前にいるではないか』

「――目の前?……プラネタリウム投写機以外何もないが……」

『ふっ――仕方あるまい――』


 仕方あるまいと言われても、僕の視界に入るモノは――プラネタリウム投射機と空席の座席しかない、どこにいるんだ?

 ――本当になんなんだよ、絶望の未来といい流石に怖すぎるだろ……


 ガチャン――

 カラカラカラカラ――


「ん?――おいおい待て待て!」

 僕の座席は、ゆっくりとジェットコースターのスタート地点に到達してしまった。

「……ジェットコースター?本当にジェット――」


 僕の言葉を遮るかのようにジェットコースターは、発進してしまった――

 急降下しながら、プラネタリウム投写機に容赦なく向かってゆく座席に拘束されている僕は、この状況に理解が追いつかず――訳がわからなくなってしまった。

 ――もう……早く家に帰りたい……


「もう……ジェットコースターは勘弁……」

『ふっ、ジェットコースター?――汝は、面白い例えをだすものよ』

「こっちは、恐怖でしかないよ……普通に……」

 『ふっ――それはヒトではない我には分からぬ――』


 僕の頭に――直接語りかけてくる姿を見せない存在は、どうやら普通に会話ができるみたいだ――

 僕が返事を返そうとした――その時だ。


 『我は刻想器、汝らヒトの想いを叶える存在――』

 『あの未来を見た汝は、今、何を――想うのだ?』


 長い振り返りになってしまった――

 こうして、想いを叶える存在【刻想器】が、僕の目の前にいる。

 絶望の未来を見せ、僕に想いの選択をさせようとしている。


 どんな選択か――だって?


 大切なモノと人を護るための選択。

 そして自分の未来を掴むための未来への選択だ!


 #1 想いを叶える存在 完

 #2 契約と妄想犯行計画 ー前編ーにつづく

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