見るなの襖
無意味の意味
見るなの襖
一人旅で田舎の旅館に泊まった時なんですけどね。
他が埋まってるってんで結構大きな部屋に案内されて。
で、言われたんですよ。
「一つだけお約束下さい。この襖だけは開けないように」
よく分からないけど、どうってこともないので承諾しました。
で、近隣を観光して旅館で夕食。
料理は美味しかったですよ。
鮎とか牡丹鍋とか山菜の和え物とか。
それが終わったら急に暇になって、例の襖が気になり出したんです。
何故開けてはいけないのか。
余程取っ散らかってるとか?
悪霊が出るとか?
まあ今時って思いますよね。
それと奇麗に掃除もされてるので跡も残らないだろうって、思い切って開けたんですよ。
どうだったと思います?
開けた向こうの部屋にも襖があって、それが延々奥まで続いてるんです。
無限にってくらい。
それで、奥の遠くの方から何かが近付いて来る気配を感じる。
足音はしない、だけど浮遊する何か。
咄嗟に思い浮かべたのは「龍」です。
「眼に入る前に閉じなければ」と思って急いで閉めたんですよ。
その後急に寒気がしたんで布団に潜って寝ました。
そして翌朝、チェックアウトの時に「約束は守って頂けましたか」
ギクッとして「すいません、少しだけ…」って。
「そうですか…。何か変わったことは?」
「少し寒気がしたくらいですが」
「何か視えましたか」
「いえ、その前に閉めたので…」
女将さんは溜め息を吐いて、「まあ何も視てないなら大丈夫ですかね」
「何なんですか? あれ」
「いつの頃からかあるんですけどね。あの襖の向こうは別世界らしいんです」
「?」
「あそこを開けて何か視たお客さんは後日気が触れるとか」
それ聞いて唾を飲み込みましたよ。
「何を視たのかは誰も教えてくれません。ただ『何か』が視えると精神が壊れるみたいで」
「ぼ、ぼくは大丈夫?」
「恐らく」
背筋が凍るってああいう気分でしょうね。
「但し、言い触らしたりしないで下さいね。商売に差し支えますので」
「は、はい」
なんて言って。
未だにその「何か」を視てたらどうなってたんだろうとか思いますよ。
見るなの襖 無意味の意味 @kokurikokuri
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