第二十三章 ― 最終対決・第三部

カズキは数メートルも後方へ吹き飛ばされた――

岩塊に激突し、轟音が山肌に反響する。

乾いた衝撃音。

肋骨が軋み、ひびが走る。

片方の肺が部分的に潰れ、

残った空気が血混じりの咳となって漏れ出た。


前方にはリュウ――もはや「兄」と呼べる存在ではない。

肉体は人の形を失い、

黒と深紅の脈動が波打ち、

血管はまるでマグマの裂け目のように光っていた。

《死の魔神》が完全に支配していた。


その手がカズキの首を掴む。

指が爪のように皮膚に食い込み、

締め付けは強まり、気道を押し潰す。

骨の軋む音が風に溶ける。


> 「チャンスがあった時に殺しておくべきだったな。」

低く、嘲るように、幾重にも重なった声が響く。




カズキは息を失い、

視界が闇に沈んでいく。

脳内で、《戦の神》が囁く――

穏やかに、ほとんど慈悲深く。


> 「恒久融合を受け入れろ。

我らは生き延び、そして勝つ。」




カズキはためらう。

代償を知っていた――

それは人間性の最後の火を失うこと。

永遠に「破壊の神」として生きること。


だが、その時――

兄の、悪魔に支配された顔に

一筋の涙が流れ落ちた。

リュウはまだそこにいた。

地獄の奥底のどこかで。


カズキは理解した。

二人とも救うことはできない。

だが――どちらかを選ぶことはできる。


> 「……すまない。」

息も絶え絶えに呟く。




そして――受け入れた。



---


変化は瞬時だった。

赤い光が体の内側から炸裂する。

不可逆の融合。

肉体が光に包まれ、

筋肉が灼熱の鋼のように膨張する。


カズキは《戦の神》そのものとして再誕した。


掴まれていた首を一撃で解き放つ。

その衝撃で岩石が粉砕され、衝撃波が地を走る。


原初の咆哮。

反撃は容赦なかった。

拳がリュウの胸を貫く――

臓器ではない。

もっと深い、「本質」へと届いた。


それは――悪魔の核。


《死の魔神》が叫ぶ。

空気が歪むほどの悲鳴。

カズキは黒いエネルギーを掴み、

それを引きずり出す――生きた魂を引き裂くように。


影が暴れ、

逃げようとし、

カズキの腕を焼き、

リュウの魂を裂く。


だが、止まらない。

己の肉体が崩壊していくのを感じながらも、

闇の一片まで引き剥がし続ける。


最後の核が姿を現す。

闇の心臓が空中で脈打っていた。


カズキはそれを両掌で包み――

握り潰した。


闇の爆発。

その後に訪れる、完全な静寂。


風は止み、

塵がゆっくりと沈む。


リュウは倒れ、意識を失う。

――ようやく解放されたのだ。


カズキは膝をつく。

恒久融合の代償が訪れる。

《戦の神》が彼の中に根を張る。

もはや「宿主」ではなく、「居住者」として。


人間性が、こぼれ落ちていく。

手を見る。

血管が紅に輝き、

皮膚は金属のように硬化し、冷たい。


> 「……俺が、消えていく。」




神の声が返る。

驚くほど穏やかな響きで。


> 「犠牲、受理された。

お前は己の存在を賭して兄を救った。

尊き行為だ、戦士よ。」




カズキはかすかに微笑む。


> 「それで……十分だ。」




意識を失ったリュウを腕に抱え上げる。

一歩ごとに肉体が悲鳴を上げる。

もはや己の身体ではなかった。

それでも、彼は機体へと歩み続ける。

――最後の避難所へ。


エンジンがうなりを上げる。

嵐の空は彼の心そのもの。

黒雲を裂く稲光が、

残された魂の断片を映す。


カズキは離陸する。

上昇するたびに、

世界への別れが深くなっていく。


> 「二つの悪魔を、ここで終わらせる。」




《戦の神》が諫める。


> 「自殺では何も終わらぬ。

輪廻は続く。」




だがカズキは静かに答える。

すでに死を受け入れた者の声で。


> 「二匹の寄生者を、この世界から解き放つ。

平和とは――犠牲の上にある。」




そして、彼は昇っていく。

さらに、さらに高く。

――空が沈黙へと変わるその境界へ。

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