第12章 ― 奇襲
偽りの暁が地平線を焼いていた――
真の夜明けに先んじて、破壊の光が空を染めていた。
リュウは、太陽が昇る前に襲撃を開始した。
〈インフェルノ・スピン〉が濃霧を切り裂き、レーダーの死角から現れる。
警報が鳴るよりも早く、監視塔が爆ぜた。
〈暗黒の疫(やみのやく)〉。
悪魔の迷彩技術が発動し、
敵艦隊全体を、完全な闇のヴェールが包み込む。
リュウの一団は――
形も音も警告もなく、影となって基地の防衛線を貫いた。
カズキは爆発音で目を覚ました。
半ば着替えたまま、揺れる床を蹴って格納庫へと走る。
地面が震え、爆弾の衝撃が空気を裂いていた。
彼の戦闘機がそこに待っていた。
まるで生き物のように、飢え、息づいていた。
カズキが操縦桿に触れる前に、エンジンが咆哮を上げた。
――主を認識していた。
緊急発進。
格納庫から直上昇。
チェックなし。手順無視。
扉が開くよりも早く翼が鉄を削り、
火花が儀式の炎のように散った。
空は深淵のような黒。
弾道光跡だけが夜を裂いていた。
レーダーは狂乱していた――
偽の反応、幻影、デジタルの蜃気楼。
〈死の魔王〉が信号を歪め、空を“見えない迷宮”へと変えていた。
カズキは本能だけで飛んだ。
見えない。だが“感じた”。
空気の乱れ、星光の反射、敵機の金属の微かな輝き。
霧の中から最初の敵影が現れた。
カズキは反射的に動く。
〈ブレイキング・ロール〉――完全回避。
〈死の刃〉――即応の反撃。
二機目が逆側から迫る。
三発。正確無比。
敵機のコクピットを貫き、沈黙させた。
三機目、四機目――連続撃破。
迷いも怒りもない。
カズキの呼吸は冷たく、機械のように正確だった。
> 「俺は怪物じゃない……ただの“戦の道具”だ。」
〈戦の神〉は黙って見ていた。
その声の奥に、これまでなかった感情があった。
――支配ではなく、敬意。
人間が、殺戮の本能を“制御している”。
悪魔ですら息を呑むほどの意志で。
五機目が自爆突撃を仕掛けてきた。
カズキは紙一重で回避。
敵は遠くの山腹に衝突し、自ら消滅した。
六機目が退こうとした。
カズキはそれを逃さなかった。
〈インフェルノ・ブラスター〉一射。
出力最小、効率最大。
爆炎は短く、苦痛はなかった。
七機目と八機目が挟撃を試みた。
カズキは〈アドバンスド・ストラテジー〉を起動。
敵の動きを予測し、位置をずらし、
二機を互いに衝突させた。
――二つの光が、同時に消えた。
無線がノイズを破って鳴った。
リュウの声。
怒りと、信じられぬ驚きが混ざっていた。
> 「変わったな……怒りはどこへ行った?」
カズキの声は氷のように静かだった。
> 「取ってある。……お前のために。」
沈黙。
そして――攻撃は止んだ。
基地は奇跡的に無傷のままだった。
損害、最小。
戦果、完全勝利。
兵士たちは空を見上げた。
そこに、カズキの機体がゆっくりと降りてくるのを見た。
歓声と拍手が巻き起こる。
だがカズキは応えなかった。
無言で歩き去る。
分かっていた。
勝利のたびに、彼は“限界”に近づいていた。
制御という名の細い糸が、少しずつほつれていく。
その糸が切れたとき――
残るのは、〈戦の神〉が最初から望んでいた“存在”だけだ。
---
つづく
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