第3章 ― 初空戦
レーダーが警報を鳴らした。
――敵編隊、南東沿岸より接近中。
カズキはスロットルを引き、濃密な雲を突き抜けて音速で上昇した。
心臓が胸の奥で爆ぜる。
まるで燃え上がるエンジンの鼓動のように。
視界に敵影が現れた。
無秩序な隊列、未熟な操縦。
技術の欠如を、狂気じみた突撃で埋める若き兵たち――。
戦いが始まった。
無数のミサイルが交錯しながら空を切り裂く。
カズキは〈ブルータル・ロール〉を発動。
機体を不可能な角度で回転させ、弾道をわずか数センチでかわす。
強烈なGが体を押し潰し、視界の端が暗く沈む。
それでもタービンは彼の意思に呼応するかのように唸った。
上方の死角から敵機が迫る。
カズキは機体を反転させ、
〈デス・スラッシュ〉を起動。
翼から伸びたエネルギーブレードが敵機を切り裂き、
爆炎が蒼空に咲いた。
別の敵が側面から回り込む。
カズキは急旋回し、短いバースト射撃を放つ。
敵のコックピットが割れ、操縦士が反応する間もなく墜落した。
三機、四機、五機――連続して撃墜。
カズキの呼吸は荒く、身体はアドレナリンに満たされていた。
だが、その瞬間――。
背骨を這い上がるような冷たいものを感じた。
低く、重い声が頭蓋の内側に響く。
> 「……本当の憎しみを見せろ。」
それは思考ではなかった。
命令だった。
〈戦の神〉が語りかけていた。
カズキの手が操縦桿の上で震えた。
必死に制御を取り戻そうとするが、奇妙な力が全身を侵食していく。
六機目の敵が爆散した――
カズキが引き金を引く前に。
〈インフェルノ・ブラスター〉が自律的に発射され、
真紅の光線が音もなく空を切り裂いた。
「やめろっ!」
カズキが咆哮する。
だが、もはや身体は完全には彼のものではなかった。
七機目の敵が恐怖に駆られて退避する。
カズキは追わなかった。
――自分がまだ人間であることを、証明したかった。
帰還。
着陸は不安定だった。
機体が味方基地の滑走路に激しく震えながら着地する。
整備員たちが駆け寄り、損傷を確認する。
見つかったのは一点の弾痕――まるで手術のように正確な穴だけ。
カズキはヘルメットを外し、キャノピーの反射に目をやった。
そこに映る自分の瞳――不自然なほどの輝き。
その奥で、古の何かが彼を見返していた。
彼が感じた恐怖は、もはや外の敵に向けられたものではない。
――内に生まれつつある“怪物”への恐怖だった。
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つづく
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