日本の空に燃える炎
@4659
第1章 ― パイロットの覚醒
格納庫には焼けた油と冷たい鉄の匂いが漂っていた。
カズキは眠りについた機械たちの間を静かに歩いていた。
彼の黒い戦闘機は、まるで獲物を狙う獣のように静かに佇み、
翼に刻まれた赤い紋様が独自の鼓動で脈打っていた。
それは生きた血管のように光を放っていた。
コックピットの奥から囁きが響く。
古く、飢えた声たち――栄光という毒を含んだ約束を囁く亡霊たちの声。
カズキが冷たい金属に触れると、
指先の間で青白い火花が踊った。
彼の紅い瞳は、存在しない炎を映し出していた。
金色の瞳孔が細まり、
内に潜む悪魔の気配が目を覚ますのを感じ取った。
「話がある。」
カズキは静かに機体へと呟いた。
返ってきたのは、骨の髄を震わせる歪んだ残響だった。
――「戦が呼ぶ……血が応える。」
カズキは昇降階段の途中で立ち止まった。
彼を縛る恐怖は戦場のそれではない。
それは内に棲む獣――自由を求める飢えた魂への恐怖だった。
格納庫の反対側では、技術者たちが緊張した沈黙の中で様子を見守っていた。
無線からは司令官の怒号が響く。
「東岸で攻撃発生! 防衛線が突破された!」
決断の時が訪れた。
カズキはコックピットへ乗り込んだ。
シートは彼の身体に吸い付くように形を変え、
赤い光が順にパネルを走り抜けていく。
エンジンが原始の咆哮を上げた。
――初の実戦試射:〈インフェルノ・ブラスター〉。
紅蓮のレーザーが格納庫の扉を貫き、
空気を切り裂く光の刃となった。
吹き上がる風が工具と紙片と悲鳴を吸い込み、
垂直上昇する機体が構造全体を震わせた。
夜空は、古の捕食者を迎え入れるように彼を包み込んだ。
無線が再びざらつく音を立て、
不吉な報告が流れた。
> 「北部基地が侵入を受けた。正体不明の勢力……航空機が奪われ、兵士たちは……皆殺しにされた。」
ノイズ混じりの通信の中、最後の一言がカズキの血を凍らせた。
> 「敵の指揮官は――常人には不可能な戦術を使っている……。」
その戦略パターンを、カズキは知っていた。
心臓が沈む。
「……兄さん。」
苦しげに呟く。
そしてその瞬間、
彼の心の奥で――〈戦神〉が嘲笑った。
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つづく
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