第43話 一か八か
放課後、定刻通りに生徒会室へ向かった。
けれど、そこには人の気配がない。
消された電灯。
いつもより空気が冷たく、息をするたび胸がざらついた。
もう活動が始まったのだろうか。
……それにしては、ルルさんもいないのが気になる。
一体どこへ行ったのだろう。
ルルさんと活動内容を相談したかったのだが、仕方がない。
昨日と同じように壁紙へ図書館を記入する。
「――こんにちは、真宵さん。」
耳元で囁く声と同時に、背後から手が伸びた。
次の瞬間、背中が壁に叩きつけられる。
ペンが転がる音だけが、静まり返った室内に響いた。
私を覆い隠すほどの大きな人影によって文字が見えなくなった壁紙。
あまりにも突然だったので口から心臓が飛び出そうになった。
……前にも同じ目に合った。
文句を言ってやろうと、相手の方へ顔を向ける。
「馨さん、驚かさないでください……。以前も同じことをされていましたよ。」
「ふふっ、すみません。あなたをずっと探していたので、見つけた嬉しさからつい。」
頭を少し下げて、そっと手を放してくれた馨さん。
……しかし、決して離れることはしなかった。
わずかな隙間から体をひねり、何とか馨さんと向き合う。
「早速ですが本日のご予定はございますか?」
「特に思いつかなかったので、昨日と同じように図書室へ向かおうかなと。」
「……では、よろしければ私と一緒に空き教室へ行きませんか?」
胸に手を当て、いつもの優しい笑顔で提案する馨さん。
空き教室……。
校内図には、表示されていなかった場所だ。
「空き教室……?ここではダメなのですか?」
「2人きりでお話したいことがあるのですが、ここだと誰かが来るかもしれませんので。」
「しかし、入れるのですか?」
「ふふっ。実はですね……普通は誰も入れないのですが、私とあなただけは空き教室を使用できるのですよ。」
おまじないが上手くいった子供のように目が躍っている。
「――魔法の力があれば、私とあなたの世界を作ることだってできます。」
「……魔法?」
そのときの馨さんの瞳は、どこか現実を見ていないようだった。
「それで、真宵さんは一緒に来てくださいますか?」
私の返事など待たずに、夢の続きを語る子どものように微笑んでいる。
彼の耳には届かなかったようだ。
お誘いはありがたいが今は時間が惜しい。
優先したいことは、新しい情報を手に入れることだ。
「すみません、馨さん。私……」
頭を下げようとした、そのとき。
……顔を近づけた馨さんが、怪しく目を細めた。
「――ねぇ、真宵さん。あなたの記憶喪失の原因を知りたくありませんか?」
一瞬、呼吸が止まる。
世界がぐにゃりと歪んだ気がした。
指やつま先がうずいて、落ち着かない。
「馨さん、原因を知っているのですか?!」
「えぇ、知っていますよ。」
さも当然のように言い切る馨さん。
記憶喪失を知っていた上に、原因まで把握しているらしい。
喉から手が出るほど、欲しい情報を彼は持っている。
「……しかし、ここでは教えられません。だから、一緒に来てください。」
緊張で返事ができない。
そんな私をいじらしく感じたのか……跡が残りそうなほどの力で腕を掴まれた。
彼の視線が全身を捕らえる。
「ねぇ、真宵さん。どうか……。」
たたみかけるような甘ったるい声色。
しびれた脳内が「行ってはいけない」と警鐘を鳴らしている。
……が、今は何としても情報が欲しい。
私の記憶に関わるものは、全て手に入れなければならない。
「……わかりました。一緒に行かせてください。」
「ふふっ嬉しいです。久しぶりに生徒会の仕事が一緒にできますね。」
馨さんが手を滑らせ、私の指に自身の指を絡めた。
「では、一緒に行きましょう、真宵さん。」
馨さんに案内されるがまま壁紙へ「空き教室」を記入する。
扉を開いた瞬間、空気が重くなり、ぐらりと空間が歪んだ。
異様な光景を気にも留めない馨さんは、私の手を引いて進んでいく。
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