第18話 縁日を手伝おう

 1年生の教室を覗くと、そこはまるでお祭りの前夜のようだった。

 ヨーヨーに空気を入れる「ぷしゅっ」という音。転がる輪投げの輪の「かしゃん」という音。

 その音に混じって、みんなの表情がほんの少しだけ明るく見えた。 

 ここでは、縁日を実施するらしい。


「こんにちは、副会長!私は悩んでいます。今日はどうかしましたか?」


 教室を見回していると、生徒が声をかけてくれた。


「こんにちは。何かお手伝いすることはありませんか?」

「実は、縁日の景品に悩んでいます。何がいいのか分かりません。お菓子がいいですか。それともおもちゃがいいですか。」


 生徒曰く、縁日は子供向けに作られた催し物らしい。

 しかし、子供の喜ぶ景品が思いつかず、悩んでいるそうだ。

 縁日の内容を確認すれば、既にヨーヨー釣りやスーパーボール掬い、輪投げなどが準備されていた。

 ヨーヨー釣りでは、たくさんのカラフルなビニールのヨーヨーがプールの中でぷかぷかと浮かんでいる。

 また、輪投げの的には、毛糸で編み込まれた手作りの人形やお菓子の箱が設置されている。

 どれも子供が喜びそうな内容ばかりだ。

 …………改めて思ったのだが。


「その縁日で獲得できたものを、そのまま景品にするのはどうでしょうか。」


 私の提案を聞いた生徒が、ハッとしたように口を両手で覆い、固まる。

 ……驚いたのかな?

 最近になってようやく、彼らの変わらない笑顔の奥に、わずかな感情の揺らぎを感じ取れるようになってきた。 


「そうでした。縁日は、ゲームで手に入れたものが景品になるのですね。盲点でした。ありがとうございます。」


 役に立てたようでよかった。


「よろしければ、お試しとして縁日で遊びませんか。副会長が提案してくれた景品もお礼にお渡しします。」

「……お誘いは嬉しいですが、準備の邪魔になりませんか。」


 教室には、製作途中の縁日を完成させようと、今もなお生徒が必死に準備を進めている。

 まだ完成していないゲームを私が遊んでも良いのだろうか。


「副会長、どうか遊んでください。私たちは、副会長が私たちの作ったゲームで楽しんでいる姿を見たいのです。」


 そう言って、躊躇っていた私の背中をグイグイ押せば、無理やりヨーヨー釣りの場所まで連れていった。


「さぁさぁ、副会長。どのヨーヨーを狙いますか?」


 彼らの笑顔は相変わらず均一なのに、そこには確かに温度がある気がした。

 その温もりに、私は笑みをこぼす。

 ここまで案内されたならば、遊んでいかなくては。

 お言葉に甘えて、ヨーヨー釣りに挑戦しよう。 


「私の狙うヨーヨーは…………」

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