第5話 文化祭とは?
「はいはーい、ルルさん!文化祭について、おさらいしましょう!」
秀一くんが提案したとき、ふとルルさんは横目で私を見つめた。
その瞳には、私が知らないはずの懐かしさが宿っていた。
「……あぁ、改めて生徒会の活動を振り返るか。」
しかし、それも一瞬のことで、すぐに視線を全体へ戻し会議を続ける。
「俺様たちは1ヶ月前から文化祭の開催に向けて準備をしている。そして、本番まで残り2週間となった。」
「生徒会の役目として、主に私と真宵さん、秀一くんの3人で各教室や部室を周り、文化祭の進捗の確認や作業のお手伝いを行っております。」
「俺様は、学園に関する書類関係を処理を担当している。そのため、生徒の様子は俺様よりもお前らの方が詳しいだろう。」
ルルさんは、私たち3人を見て、微笑んだ。
きっと、これからの活動に期待しているのだろう。
……残念ながら、私は文化祭についての知識が全くない。
仕事内容どころか、生徒の顔さえ誰1人として記憶にない。
「真宵先輩、何を落ち込んでいるっすか?」
「これから、大変そうだなぁと思いまして……。」
生徒会で何をすればよいのか。誰か記憶がない私に教えてくれませんか。
……とは、彼らからの信頼を得ている以上、どうしても言えなかった。
「ふふっ、そうですよね。生徒の様子としては、どこのクラスも2週間前ということもあり、文化祭準備が佳境に入っています。」
「でも、真宵先輩、大丈夫っすよ。普段通り、生徒へ話しかけて文化祭準備のお手伝いをすればバッチリっす!」
「そうですね。積極的に生徒のお手伝いを引き受けましょう。」
記憶喪失に対する不安を、馨さんと秀一くんが繁忙期への不安と勘違いしてくれたらしい。思わぬ形で仕事内容を聞くことができた。
私の仕事内容は、生徒へ話しかけつつ、文化祭準備のお手伝いを引き受けること。
もしかしたら、生徒とのやり取りから、自分の記憶に関する情報を集められるかもしれない。
「お、真宵先輩。少し顔が明るくなったっすね!やる気出たっすか?」
「もちろん。頑張ります。」
「ふふっ、真宵さんが張り切ってくれて嬉しいです。では、真宵さん、秀一くん。明日から私は各部活の様子を確認しますね。」
「なら、僕は各学年の様子を確認しますね!真宵先輩は、もし不安ならば僕か馨さんについて来てほしいっす。」
「ええ、何かあれば壁紙に貼っているそれぞれの現在地を確認し、こちらまで来てください。」
「あ、壁紙はここっすよ、真宵先輩。」
秀一くんが軽やかに立ち上がり、私の腕を軽く引いた。
その手の温もりが、やけに現実的に感じられる。
白い扉の横に立てかけられた木製の板には、それぞれの現在地が表示されていた。
生徒会メンバー
生徒会長…ルル・マルラン (3年A組) 生徒会室
副会長…立花真宵(2年B組) 生徒会室
書記…夜行馨(3年B組)生徒会室
会計…佐藤秀一(1年C組)生徒会室
「真宵先輩。生徒会では、各々向かう場所を壁紙に記入した後、そこの白い扉から移動してるっす。これを忘れてしまうとずっと迷子になるらしいっすよ。」
「迷子って、どういうこと?」
「何にも、暗くて何もない場所で永遠に彷徨うとか……?まぁ、噂っすけどね!」
秀一くんも噂程度にしか知らないのか、笑いながら答えてくれた。
……しかし、何となく心当たりがあった。
もしかして、最初に目が覚めたあの「無」の空間へ放り出されてしまうのだろうか。それは勘弁願いたいな。
移動方法はしっかり覚えておこう。
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